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秋刀魚の味


■公開:1962年
■制作:松竹
■製作:山内静夫
■監督:小津安二郎
■助監:
■原作:
■脚色:野田高梧、小津安二郎
■撮影:厚田雄春
■音楽:斎藤高順
■美術:浜田辰雄

■照明:石渡健蔵

■録音:妹尾芳三郎

■編集:浜村義康
■主演:笠智衆
■寸評:


そういえば、映画の中で同性から好かれる岡田茉莉子というのはあまり見たことが無いような気がするのですが気のせいでしょうか?1962年と言えば池田勇人の頃ですね。東京オリンピックの2年前、日本がガーッと戦後を振り切ろうとしていた時代。

「秋刀魚の味」を「日のあたらない邦画劇場」でチョイスするのは如何なものかという声もあるでしょうが、いいんですよ、古い日本映画なんておよそ絶滅危惧種なんですから。

お父さん・笠智衆の家にはまだ学生の次男坊・三上真一郎、長女・岩下志麻がいます。お母さんは亡くなっているのでいません。長男・佐田啓二はWインカムで奥さん・岡田茉莉子もキャリアウーマンです。

さて、この一家ではそろそろ長女が適齢期、さりとて、男やもめのお父さんとしては長女がいなくなると、不便かつ寂しい。奥さんの面影を残す娘を他の男にやるなんて・・・という、ほとんどの世の中のお父さんと同じ悩みを抱えています。

長女はお兄さんの会社の後輩・吉田輝雄が好きでしたが、実はタッチの差で彼は婚約してしまいます。しかも、その原因が佐田啓二。実は吉田輝雄も岩下志麻のことが好きだったのでそれとなく打診したとき「当面、結婚の予定なし」とお兄さんが回答してしまったので、彼はお手軽な職場結婚をチョイスしてしまったのでした。

ああ、なんて罪作りな佐田啓二!ドライな吉田輝雄は先輩のオゴリなのに、つうかオゴリだからトンカツ追加注文しちゃうお調子者ですが、やっぱ気のいいヤツだったのでお兄さんは責任感じつつ、お父さんと一緒に岩下志麻に結果を伝えます。

ほーら!泣いちゃった!

落ち込むお兄ちゃんなのでありました。しかし、実は少々ほっとした?お父さん。

お父さんのお友達・中村伸郎が持ってきた縁談を承諾した岩下志麻。花嫁衣裳がステキですが、お父さんはやっぱ寂しい。ブッキラボーだけど愛情深そうな次男が、これまたブッキラボーに慰めてあげます。

お父さんも昔は輝いていた頃がありました、戦時中は海軍さんだったのですね。再会した部下・加東大介と一緒に、情念濃そうなマダム・岸田今日子のバーで一緒に飲み明かすシーンには、戦争を生き残って戦後の日本で生き抜いたお父さんたちの報われていない寂しさが漂います。

戦争で世の中ひっくり返ったせいもあって、落ちぶれた恩師・東野英治郎のところのいかず後家状態の娘・杉村春子(え?ええっ?いったいいくつのときのお嬢さんなの?)の姿を見て「ああなっちゃったらヤバイ」ので娘を嫁がせたお父さん。花嫁の父というのは自分がやったことを、やりかえされるという宿命を持っています。

戦後生まれのお父さんたちよりも、さらに上の世代。戦中派のお父さんたちはやがて世の中から消滅するのですが、こういう映画観ると、少しはお年寄りを大切にしようという気になるかもしれません。いや、監督の予想とはまるで違ってるかもしれない平成の時代にこの映画はいいですよ。

時間が容赦なくすべてを過去に追いやる残酷さと、それを受け入れていくしかない人の世の大原則、そして人が人を思いやる心の大切さを再確認させてくれた映画でした。「四十を過ぎたら小津映画」これ、本当です。

お父さんの同級生、中村伸郎と北龍二の会話がかなりアブナイ話も出てきますが、オッサン同士の会話なんて時代を問わないと言うことが再認識できました。

笠智衆が会社の庶務の女性に結婚について訪ねますが、現代ではセクハラに抵触しますので上司のみなさまはお気をつけください。心配と干渉、優しいとウザイは紙一重ですからねえ、とはいえ、なんかねえ、潤いの無い現世だこと!まだ生まれてなくても、この映画、見てるとどうにも「懐かしい」と感じてしまうのはこういう今の時代のせいなのかも。

2010年12月31日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-12-31