「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


火の鳥


■公開:1956年
■制作:日活
■製作:山本武、佐藤正之
■監督:井上梅次
■原作:伊藤整
■脚色:猪俣勝人、井上梅次
■撮影:岩佐一泉
■美術:中村公彦

■照明:藤林甲

■音楽:佐藤勝

■録音:神谷正和
■主演:月丘夢路
■寸評:


「火の鳥」ってもアッチじゃないですから、潮哲也が出てきてすぐ串刺しになるアッチじゃないですから、あ、さらによく分からなくなりましたか?じゃあ、若山富三郎先生の鼻が穴だらけになるほうじゃあないですから、念のため。

原作は伊藤整、手塚治虫じゃないです。こう言えばわかりますよね。

美貌の舞台女優が、恋に身を焦がしてスキャンダルに巻き込まれても失意の底から立ち上がり、映画女優として歩み出す決心をするまで。まるで月丘夢路の人生そのものと言えましょう。役名が「生島エミ」ちなみに「ガラスの仮面」は「北島マヤ」ちょいと音感が似てるんじゃないかと勘ぐってみました。

若い頃の月丘夢路の美貌は圧倒的なものがあって、自信満々のハーフ女優という同性からの嫉妬をくらいそうな設定にもかかわらず、最後に彼女がシンパシーを得るのは恋のライバルが中原早苗であるという一点に尽きます。

そら、悔しいよね、いろんな意味で。

劇団に所属している生島エミ・月丘夢路は、外国人の父・ハロルド・コンウェイと日本女性の母親との間に生まれたハーフ。超美人で超人気者、劇団の中心的女優でもあり、彼女あっての劇団と言われるほど。演出家・伊達信の愛人でもあります。伊達は映画を商業主義的と批判する芸術家タイプ。月丘夢路は映画出演のため劇団を離れた元座員・織田政雄が連れて来たプロデューサ・安部徹と映画監督・金子信雄の強烈なお誘いをうけて映画出演を決意。

確かに、映画は芸術性が低いということは、他の作品ではおよそ笑っちゃうくらいのド悪役のイメージが強い業界人である二人(安部と金子)を見れば「映画なんてダメだ」という演出家の先生の言葉も妙に説得力を感じます、きっと月丘夢路の貞操が心配だったに違いありません(うそです)。

撮影所で野心満々のニューフェース・仲代達矢を見初めた月丘夢路は相手役に指名するも、彼は学生運動の活動家、つまり「アカ」(左翼の意)だったのでメロドラマ映画でデビュー直後に反戦デモに参加して警察にしょっぴかれたのを理由に会社から解雇されてしまいます。

月丘夢路は、劇団の閉鎖的な体質とか、愛人の演出家が初老だとか色々、現状に不満だらけだったので、若くて才能がある仲代達矢に身体まで許してしまいます。彼を応援するために学生演劇に出てあげた月丘夢路だったが、実は、演劇活動の資金活動のために仲代が色仕掛けで自分を口説いたと、こともあろうに彼と同棲している若い女優・中原早苗から半笑いで告白されてしまいます。

え?なんで?こんなに美貌なワタクシではなく、よりにもよって小太りでぺっちゃんこな女のほうとくっついちゃうの?宝塚のトップスタアだった月丘夢路(本人)に対抗するがごとく映画女優としてヴァイタリティーのある中原早苗(本人)をぶつけてくるキャスティングの妙。もう、ほとんど本作品の見せ場はキャスティングで完成形です。演劇を志していながら映画デビューをする新人俳優役の仲代達矢はこの作品が本当のデビュー作なのです。

月丘夢路の元彼で今じゃあ落ちぶれた作家・三橋達也との愛憎劇。腹違いで妹に対するコンプレックスに苛まれてる姉・山岡久乃と劇団の照明係・大坂志郎との結果的な三角関係。恋も劇団の看板女優の座もすべてを失い、亡父の多額の年金を、仲代達矢に往復ビンタ(本当にアテる)のプレミアをつけてくれてやる。劇団を退団するにあたっては慰謝料代わりと残額を差し出し、自家用車は大坂志郎へプレゼントし、ブスで陰気で性格悪いけど実はいい人(いるのか?そんな人間)である姉とうまくやってちょうだいと、すべてを投げ出し、今度は映画女優として再スタートを切ることにした月丘夢路。

まさに火に焼かれても死なないフェニックスの堂々たる姿で映画は終了。

宝塚の女優は階段を下りるとき足元見ないでスタスタ、月丘夢路を圧倒的なミューズとして取り扱う本作品のラスト、映画の撮影のワンシーンという設定で彼女を迎えたのは三國連太郎、特に意味はありません。

戦前は宝塚と松竹でトップスターであり、超人的な美貌であり、おまけにスタイルもグッド(水着姿あり)な月丘夢路でなければ、ただの思い上がりも甚だしい勘違い女優のお笑い映画になるところ。ハーフと言われても全然納得。監督役の金子信雄のドスケベ光線にも大納得。月丘夢路もたいへんな熱演、あまりの作り込みの激しさに観てるほうがドン引きするほどです、いい意味で。

映画監督というのはドスケベかホモ、またはそういう性質が無いと女優や男優をキレイに撮れないと思っていますが、やっぱそうでした。本作品の監督は井上梅次、この映画で出会い、公開された翌年に月丘夢路と結婚。

日活の錚々たるスタアたちが映画会社の専属女優・北原三枝の誕生パーティーという設定で大挙出演。フランキー堺(はともかく)、岡田真澄長門裕之葉山良二芦川いずみ名和宏。ついでに、企画会議の席には顔写真でさらに多数(水島道太郎森雅之)登場。

2010年12月11日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-12-11