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若者たち


■公開:1967年
■制作:俳優座、新星映画
■製作:佐藤正之、松木征二、松丸青史
■監督:森川時久
■助監:
■原作:
■脚本:山内久
■撮影:宮島義勇
■音楽:佐藤勝
■美術:平川透徹

■照明:鈴賀隆夫

■録音:青木左吉
■主演:山本圭、、かなあ?
■寸評:


ちょっと前のテレビドラマ「ひとつ屋根の下」の原型と巷言われているそうだが、なにせそっちは見たことが無いのでよくわからない。てか、どうでもいい。

新劇俳優というのはどうも貧乏で説教臭いというイメージがつきまとうので、本作品のように「若者、貧乏、ディベート」の三種の神器が揃っている映画では、サラリーマンの当時の平均給与を大幅に上回る邦画大手の映画俳優たちでは、都合が悪かったのではないか?

長男・田中邦衛@俳優座、次男・橋本功@俳優座、三男・山本圭@俳優座、末っ子・松山省二(松山政路)、長女・佐藤オリエ@俳優座、以上がこの映画の主人公たち、ほぼ俳優座。両親は早くに死亡、家は赤貧、兄弟のモットー(制定したのは田中邦衛)は「働かざるもの食うべからず」である。

カミカゼトラックの運ちゃんである橋本功は、夜通し走って同僚・樋浦勉@青年座の運転ミスから事故を起こしてしまうのだが、頑強な身体が幸いしてか無傷で帰宅。家計の大黒柱は田中邦衛、家事一切はまだ高校生の佐藤オリエが担当しており、今日も今日とて食費のことで兄弟げんかが勃発。男兄弟の志の低い乱闘に堪忍袋の緒が切れた佐藤オリエが突然家出する。

学生運動まっさかりの大学生である山本圭は、想いを寄せていた女学生・栗原小巻が自主退学する際にも、小賢しい説教をする頭でっかちだが(いや、本当におはちがデカイ)無学な長男の希望の星であるから学業優秀、家庭教師で稼いでいる。

松山省二はただいま受験勉強の真っ最中、まだまだ母親のオッパイが恋しい年頃なので佐藤オリエの不在は精神的にダメージ大。そのころ佐藤オリエは、幼馴染で元女工の夏圭子(夏桂子)@俳優座のアパートへ転がり込む。夏圭子は勤務していた工場が倒産してしまい、組合員たちで行商をしているのだった。彼女の母親は水商売、母親への反抗心から、工場の在庫品をさばいて精一杯生きている。

兄弟それぞれにドラマが展開。

田中邦衛は下請け会社の日雇いが事故で死んだのに、親会社が責任を取らないことに抗議するのだが、その会社の管理職・井川比佐志@俳優座の妹・小川真由美@文学座との婚約も、学歴の無いことでチャラにされ、つくづく学歴社会のヒエラルキーの辛さを味わう。

山本圭の級友・江守徹@文学座の父親・大滝秀治@民藝は不治の病、工場は不景気で倒産寸前。やがてその父親が死ぬと、江守徹と妹・寺田路恵@文学座のことはそっちのけで親戚たち・梅津栄らは遺産の分配の話を持ち出す。

橋本功は、夏圭子が行商の売上金を組合のリーダーですでに肉体関係もあった男性に持ち逃げされてしまったため、母親と同じ水商売の世界に入ったのを心配して、まっとうな道に戻そうと説得する。

佐藤オリエは就職した製靴工場で、原爆孤児・石立鉄男@俳優座と知り合うが、彼は素性が知られるようになると工場を辞めてしまう。

原爆症の男との結婚を、田中邦衛は反対する。奇形の子供が生まれるというのである。ショックを受ける佐藤オリエ。そこで山本圭が立ち上がる。佐藤オリエの石立鉄男への愛情がガチンコだと知ったそのときから、原爆症に関する本を徹底的に読み倒して田中邦衛の誤解=世間の誤解が無知によるものだと論破する。とはいえ世間の風は冷たい、田中邦衛は経験からそれを知っていて、佐藤オリエの将来を心配している。

家の中がドッタンバッタンしている、日本で一番不幸な受験生である松山省二(松山政路)であったが、損得抜きで受験勉強を手伝った山本圭(こいつ、金にならないから弟の勉強はみてやらねえと宣言していたのだが、なんだ、実は優しい兄ちゃんだったんだね)の努力もむなしく、今回もまた落第。しかし働きながら受験勉強継続を宣言、お兄ちゃん一同はかなり喜ぶ。

ようするに人生金次第だな、そういうオチつける映画じゃないけど。なんで結婚相手の条件が「三高(高学歴、高身長はともかく、高収入)」なのかっていえば、それがあるから幸せになるかというとそうとは限らないけれども、人生の選択肢は確実に増える。

確かに、兄弟っていいよね!というところもあるのだが、それはあくまで精神的なフォローにとどまるのだ。佐藤オリエはこれから世間の偏見と戦いながら石立鉄男と夫婦生活を送るのだろう、苦労するんだろうなあ。

田中邦衛なんて部下を庇ってクビだしなあ、山本圭はゲバ棒仲間とともに卒業できるんだろうか?就職できんのかなあ?松山省二もすでに三浪しそうだしなあ。強いて生活基盤が安定してそうなのは橋本功くらいなもんか。

等々、この映画では当面の問題は解決されたかのようだが、実際はここから先がよっぽど大変なのだが、しかし、逞しい兄弟ではある。

貧しくても一生懸命、どえらく有名な主題歌とともに今、還暦な人々の琴線に触れまくる映画である。こういう苦労をしてきた当時の若者たちが、今では社会の中枢として活動していると思うと若干、複雑な気持ちはあるが、誰にでも若いときはあったんだということを見知っておくには良い映画。

2010年11月14日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-11-14