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暁の追跡


■公開:1961年
■制作:田中プロ、新東宝
■製作:田中友幸
■監督:市川崑
■助監:勝俣真喜治
■原作:
■脚色:新藤兼人
■撮影:横山実
■音楽:飯田信夫
■美術:中古智
■主演:池部良
■寸評:


戦後間もない東京、交番の若手巡査・池部良は人情派。本日も猛暑の日、夜勤明けにもかかわらず子持ちの同僚・柳谷寛と勤務を交替してあげるのだった。同僚で地区の班長でもある水島道太郎は規律を重んじるタイプであるから、勝手にローテーションを変えては困る、警官のワークライフバランスも大切なんだと、池部良に釘を刺す。

池部良は、水島道太郎が身柄を確保した麻薬の売人に逃げられてしまい、一生懸命に追っかけたんだけど、追いつめられた売人が高架橋に登ってしまい、そこへ驀進してきた国電に轢かれて死んでしまうという大失態をやらかす。

責任問題とかよりも、人一人目の前で死なせた罪の意識に苛まれた池部良が、スラムのようなところにある売人の家に行くと、子だくさんの妻・北林谷栄が途方にくれており、病弱な妹・野上千鶴子には人殺し呼ばわりされてますます落ち込む。

そんな彼には、中華食堂(経営者のオヤジは顔がオッカナイ高堂國典)の看板娘・杉葉子という恋人がいる。多少、その、アゴがしゃくれているが元気印の美人である。海水浴場でデートしたりなんかして、仕事で凹んでいてもそこは青春真っ盛りである。

しかし、警官の仕事はツライ。酔っぱらいの相手もするし、寸借詐欺のようなヤツにポケットマネーも出す、労働争議でスト破りの暴力団と組合員が衝突すれば、デモ隊を排除しに駆り出されたりもする。同じ労働者の立場でありながら、通報されれば資本化のサイドに回らねばならない。かと思うと、拳銃を暴発させて新米警官を負傷させた責任とらされてクビになった同僚の警官・伊藤雄之助は、かくし芸を生かしてバンドマンになり金回りが良さそうだ。

安月給でこき使われて、本当にやってらんない!よくよく考えてみると、死んだ麻薬の売人だって応召されて命は助かったけど、帰る家も無く、職も無く、しかたないから悪事に走ったわけだから、曲がりなりにも給料もらえる警官というまっとうな職業人であることは運がいいほうだ。いざ再就職しようとしても、やっぱりダメで、ついつい犯人に感情移入してしまう池部良。

そんな池部良を心配しながら説教垂れる水島道太郎。この二人の対立という構図で、警官という職業の複雑な立場をサラリと説明、上手い脚本は新藤兼人。

売人を操っていたのは大掛かりな麻薬組織であることが、刑事・菅井一郎たちの捜査で判明する。野上千鶴子は兄の死後、兄と同じ麻薬の売人をして家計を助けていたが、殺されてしまう。復讐心に燃えた池部良は、捜査への参加を直訴するが、警察組織のヒエラルキーがあってそれは無理。しかし、なんとしても貧乏人を使って悪事を働く悪いヤツラを一掃するんだ!池部良は燃えるのであった。

重要容疑者のモンタージュ、ってもイラストなんだが、針すなおの似顔絵みたいなのでちょっと笑えるが、複数の目撃証言でジワジワと江見渉(江見俊太郎)に似てくる。

組織のアジトが判明する。彼らはハンドガンやマシンガンで武装しているらしい。夜明け前の暁の頃、大勢の警官隊が包囲する。寝込み襲撃された一味は必死の抵抗、特に鬼瓦みたいな顔したボス・富田仲次郎はマシンガンを乱射、警官数人が射殺される。工場の跡地で銃撃戦、ボスが逃げ込んだ場所=麻薬の密売でゲットした大金の隠し場所である。しかも、そこには鉛中毒で美男子台無しになった江見渉が寝かされていた。

当然のごとくボスは江見渉を見捨てようとするが、抵抗され首絞め攻撃で振り切る。偶然、そこに踏み込んだ水島道太郎がボスに射殺されてしまう。一味は次々逮捕され、ボスはレンガ造りの塀の上を逃げようとするが、塀が崩れて落下し、崩壊したレンガによって圧死。池部良は、水島道太郎の死体と、虫の息の江見渉を発見する。

ゆっくりと薄暗い地下室みたいなところへ朝日が差し込むシーンがいい。凄惨な捕り物は市民の知らないところで行なわれ、朝日が昇れば、またいつもどおりの朝が来る。警察官の努力と活躍で市民生活の安全が保たれているのであり、その警察官も特別な人間なのではなく、職務の厳しさと人間的な苦悩を抱えている。

池部良と杉葉子のラブシーンや、田崎潤の人間臭いアクトでユーモアもあり、ラストもくどくど説明をせずに、平和の象徴として納豆売りの少年だけを目撃者にしたのが素晴らしい。

小学生が作文を読んでいるようなステキな台詞回しの池部良がブッキラボーなのも奏功。妙に演技されるとクサミになる。ただでさえ説教臭いんだから、この映画。

国家地方警察(当時、旧警察法)が全面バックアップ。

後年、東宝は警視庁(現行警察法)が支援する「33号車応答なし」でまたもやオマワリさんたちの活躍を描く、主演はこっちも池部良。なんで?やっぱスマートでカッコいいほうがモデルとなる現職警察官のみなさまには、何より大切な「こころくばり」であるから。

どこぞの工場で起きた労働争議のデモのシーンは、映画の内容とは無関係のところで、タイミング的に東宝争議を思い起こさせて、ドキドキした、しなくてもいいけど、なんか、ね。

2010年11月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-11-07