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接吻泥棒


■公開:1960年

■製作:東宝

■製作:藤本真澄

■監督:川島雄三

■脚本:松山善三

■原作:石原慎太郎

■撮影:中井朝一

■音楽:黛敏郎

■美術:村木忍

■録音:上原正直

■照明:隠田紀一

■編集:

■主演:宝田明

■寸評:

ネタバレあります。


この映画の主人公を羨ましいと思うか、気の毒だと思うか、男の人生の分かれ道である。

稀代の女ったらしである宝田明・・・じゃなかったプロボクサーの高田明(おいおい・・)・宝田明は現在、飲み屋の女将・新珠三千代、女性デザイナー・草笛光子、ダンスホールのセクシーダンサー・北あけみと三股交際中。

このような混乱した状況へ、おタカの乗った車と接触事故を起こしたお嬢様・団令子が参戦する。

追っかけまわす恋人たちからまんまと逃げおおせたおタカは、頼りないタクシーの運ちゃん・加藤春哉に、さらに飛ばすよう指令。そこへ、コンサート会場へ急いでいた団令子を乗せた、これまた大丈夫なのか?な運転手・中山豊の高級乗用車がお嬢様の命令で無茶な速度で運転。二台は事故ってしまい、失神した団令子に口移しで水を与えた宝田明の写真がもっさりしたゴシップ専門のカメラマン・中谷一郎にフラッシュされてしまう(チト古いか・・・)。

団令子は校則の厳しいアーメン系の女子高に通っていた高校生(えっ?ええっ!?)だったため校長・沢村貞子はすでに退学のイキオイ。酸いも甘いもかみ分けた同校の先生・有島一郎はこれに反対「キスくらいで、ねえ」ということで団令子は退学を免れた。団令子は宝田明に断然興味を持って後を追い掛け回す。

おタカは団令子の父親・河津清三郎にスポンサーになってもらったので、彼女を邪険には扱えない。団子みたいな(団令子の芸名の由来、ちなみに命名したのは池部良)ちんちくりんのくせに、ド厚かましい団令子に、他の、おタカの恋人のみなさんはヤキモチ焼きまくり。なにせ実年齢は北あけみより年長の団令子が「可愛い女子高生」されても観てる方が困るというモノであるが、東宝には途方もなく老けた男子高校生や大学生がウヨウヨいるからこれくらいで違和感持ってはいけない。

映画の作り手と観客の間において特に年齢詐称の「約束事」を強要するのがこの会社の常。

一見するとモテモテな宝田明に見えるが、実は追っかけ女子の皆さんは「こんなプレイボーイを恋人にしている自分」が好きなために、おタカを利用しているわけで、そこに本物の愛情が存在するのか?ということについて、おタカは後半、身を持って思い知らされる。

別れ話を真剣に切り出したとたんに、手のひらを返してくる三人の恋人のみなさんの小悪魔ぶりが凄まじい。北あけみに至っては手切れ金が不足だと、スケスケのネグリジェにパンツ丸見えで、おタカを追い掛け回すというヴァンプな、というか女ヤクザに変貌。

草笛光子は中谷一郎をタッグを組んでおタカに復讐、返す刀でその中谷一郎とゴールイン。

団令子の出現に、ゴリラとダンスをしていた北あけみがまず最初にブチギレ、ライバル意識ギンギンになってしまい、結局、平素は清楚なイメージの新珠三千代すら巻き込んで、クラブで乱闘騒ぎを展開させてしまう馬鹿馬鹿しさが素晴らしい。女優のみなさん、東映じゃあるまいし、まさかお行儀のいい東宝で、頭から料理ぶっかけられるとは思わなかったと思うので、いや、まさに眼福。

団令子はおタカが酒を呑めば無理してベロベロになるし、いかにも怪しいゲテモノ料理屋の主人・沢村いき雄が自慢の蛇料理をガマンして食べてゲロも吐く。おタカのために身体を張るのは団令子、ただ一人であると気がついたおタカは彼女のことを真剣に想い始める。

最初はおタカが奪った接吻だったが、最後は団令子がおタカのために接吻する。

あー、なんか、いーわー、こういうオチ。ラブコメの王道なんだけど、それを小賢しい小娘タレントがやると薄っぺらなのに、映画女優っていう人たちが繰り広げるところがイイ感じなんだなあ、おタカが恋に落ちたのと同様、女優さんが身体張ってくれたから?観てる方も、この、マシンガンのような台詞の洪水と、ジェットコースターのような激しいリズムとテンポのドタバタにグイグイのめり込んじゃう。

それもこれも、スマートでハンサムでしかも下品という宝田明がいればこそ、他に主役のなり手が無いだろうと思われる、この映画は宝田明の、宝田明による、宝田明のための映画。

原作者の石原慎太郎が最初と最後に登場、団令子に宝田明と二人並んで説教される場面はかなり笑えた。そんな石原先生は小粋なエンディングを引き受ける。

劇中、ボクシングのシーンが出てくるが、意外に燃える、宝田明にもかかわらず。

2010年10月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-10-24