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狐と狸


■公開: 1959年

■製作:東宝

■製作:藤本真澄

■監督:千葉泰樹

■脚本:菊島隆三

■原作:熊王徳平

■撮影:西垣六郎

■音楽:黛敏郎

■美術:河東安英

■録音:小沼渡

■照明:金子光男

■編集:

■主演:加東大介

■寸評:

ネタバレあります。


甲州商人が通った後はペンペン草も生えない、現代じゃあ悪質訪問販売として速攻通報だな。とにかく、登場人物が一人残らず、逞しい。そうだ、昔の日本は、貧乏だったころの日本人はかくも逞しかったではないか、と思い起こさせる映画だ。

京太親分・加東大介は、吾市・小林桂樹、半五郎・三井弘次、天中軒・山茶花究、さらに後家のお玉・清川虹子を売り子として使う甲州商人=行商人の元締めである。そこへ、学生運動にかかわったため就職浪人していた加東大介の甥っ子・夏木陽介が弟子入りしてくる。

彼らのねぐらは地方都市の安旅館。向いのゴンドラというカフェのカヅ子・草笛光子と小林桂樹、娘ほども歳の離れているヒロ子・団令子は加東大介の女である。しかし、商人たちは夏木陽介以外の男は全員、妻子もちで、中でも三井弘次のところは子だくさんなのであった。その夏木陽介にも東京に残してきた恋人・水野久美がいる。完全歩合制、おまけに口八丁手八丁で、人絹を純毛だと言って売りさばく、ようするに詐欺まがいの商売に、はたして大学出のインテリである夏木陽介は馴染めるのだろうか?

ところが、案外、馴染んじゃって、自分で商売まで出来るようになってしまう。ただし、うっかり駐在・柳谷寛の奥さんに売ってしまい、仲間一同、夜逃げの騒ぎとなるのだが。

業突く張りの百姓・谷晃の家で、なめられた夏木陽介がオーバー一枚、抜かれてしまう。どっちもどっちではあるが、ここはひとつ、加東大介親分としては、ニセ刑事に化けてまんまと取り返してくるのだった。

悪質訪販に加えて、身分詐称で公務執行妨害までつくと、こりゃ実刑確実だな、などという心配をよそに甲州商人たちはたくましい。

学徒動員だった小林桂樹が、戦死した息子の戦友だと偽って商売をした夜「体つきからして百姓のど根性を持っている加東大介にはついていけない」と漏らすところがリアルである。百姓が百姓を騙して金儲けをしているわけだ。悩める夏木陽介ではあったが、小林桂樹は家族が病気ということもあってついにリタイアしてしまう。

加東大介の仲間の行商人・森繁久彌には、東京に家庭を持つ主婦・北川町子という色が一緒。しかも彼女はセレブなのだった。

とにかく次から次へとめまぐるしく、行商のテクニックや、所詮は人を騙している自己嫌悪に陥る行商人たちの逞しさと、弱さが展開していくので、まったく飽きない。それどころか、社長シリーズのレギュラーメンバー総出演でもわかるとおり、次から次へと、左卜全南道郎有島一郎三木のり平若水ヤエ子上田吉二郎、当時の東宝喜劇俳優がどんどん出てくる。

団令子とのアバンチュールの最中、加東大介は、小林桂樹から預かった売り上げ(諸経費および仲間への分配金含む)を競輪にぶち込み、大勝したのはよかったけれど、通りすがりのスリ・有島一郎、三木のり平に、カバンを切られて盗まれてしまう。仲間に面目立たないと、次なる勝負は、手形で品物をかき集めて、倒産したデパートの投売りだと称して、村の顔役・上田吉二郎を唆し、強気の商売を展開する。

焦って打った勝負で、勝つのは稀なことである。実業の世界では、いかにリスクを取らずにリターンを得るかということが重要視されるのであって、焦りというものは、どこかに冷静さを欠いたプロセスが潜んでいるものだ。

案の定、当のデパートの社員・佐田豊が当地に来ており、品物が全部ニセモノであることを見破ってしまう。村を挙げての大捕り物。逃げ回る加東大介たちだったが、偶然、遭遇した米蔵の火事を見過ごせない加東大介が、消火活動に参加。「そんなことしてる場合か!」と焦る夏木陽介、村の消防団到着と同時にダッシュであった。

逃げる途中で再会した森繁久彌に金を預けたのだが、彼は北川町子を喜ばせたいために、金を半分持ち逃げしてしまうのであった。

ほれ見ろ!仲間達は加東大介を見放した。しかし、ただ一人、夏木陽介だけは、個人事業のダイナミズムとスリルが忘れられなかったのか、一緒に北海道まで商売をしに行くと言い出す。所詮は狐と狸のばかしあい。父なし子を流産したお玉を夜通しで励ましてくれた京太親分、いつでもピンチを救ってくれた京太親分、腐れ縁ではあるけれど、彼らのヴァイタリティの根源は、社会からどこかでスポイルされた人たちの寂しさと優しさであるのだろう。だって、仲間だもん!

ま、彼らの生活手段は犯罪なんで褒められたモンじゃないが、仲間を見捨てない、いい時もわるい時も。こういう仲間を人生で何人持てるかが、その人の幸福さ加減のひとつだな、と思った。この映画の素晴らしいところはロケーションの美しさである。監督の美意識で切り取られた、日本の地方都市の美しさは国宝級だ、文部科学省はただちに表彰せよ!

京太親分の奥さん、いやに美人だなあと思ったら戦前の美人女優、花井蘭子だった。亡くなる少し前で、小さな役だったけし、若くはなかったがやっぱ美人は歳とっても美人だなあ、ぱっと見て華がある。

2010年10月17日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-10-17