暗黒街の弾痕

■公開： 1961年

■製作：東宝

■製作：田中友幸

■監督：岡本喜八

■脚本：関沢新一

■原作：

■撮影：小泉福造

■音楽：佐藤勝

■美術：阿久根巖

■録音：渡会伸

■照明：猪原一郎

■編集：

■主演：加山雄三（個人的には佐藤允のほうだと思う）

■寸評：

ネタバレあります。

この映画にはいらないものがひとつある、それは加山雄三だ。ただし、結果的にであるが。

テストドライバーだった兄・三島耕が峠で事故死。兄と一緒に新型エンジンを開発していた町工場の青年社長・中谷一郎のところへ、弟・加山雄三が訪ねて来る。彼は捕鯨砲練習場の教官をやっている、熱血漢だ。

兄は産業スパイの陰謀に巻き込まれたらしい。まだ「らしい」という段階なのに猪突猛進の加山雄三は、兄の死を事故死と断定した刑事・三橋達也に噛み付いて、やる気にさせると、その足で、大学時代は野球部で同期だったトップ屋・佐藤允を探し出し、経済問題興信所所長で高級クラブ「パラゾン」のオーナーでもある河津清三郎が事件の黒幕ではないかと疑う。

トップシーンからたたきつけるようなジャズのドラムスに乗って大型オートバイのハーレーが爆走。スリルとスピードがのっけから楽しい。

中谷一郎が出てきて、次に、加山にまとわりつくような視線を飛ばすのは、出てきたとたんに一目で悪いほうだと分かる「パラゾン」の支配人・中丸忠雄と、一目で怖い人だとわかる天本英世。そして癒し系キャラのミッキー・カーチス。

佐藤允は、事故死の真相を知る労務者・堺左千夫をリンチしようとしたヤクザの組長・大木庄司が手にした鋲打銃も全然平気、トラックの運転席からのっそりと登場する。初期設定では正体不明だが、さいごはきっといい人に違いないと思わせる安心株。

クラブ「パラゾン」の人気歌手・島崎雪子はコーラスの三人組・若松明、高木弘、万谷治夫を引き連れているが、彼女の正体は情報を売買する香港のスパイ組織のエージェントなのだった。彼女に雇われているのが、中丸忠雄、二瓶正也、桐野洋雄、天本英世である。おそらく、この組織の、現地採用の条件は「日本人に見えない人」であるに違いない。

しかし、登場するときは凄みたっぷりなのに、二度までも加山にボコボコにされて、あっさりと秘密をゲロする天本英世にはガッカリだ。佐藤允にやられる（二度目はそうだが）なら納得もできようが、あんな、明朗会計の加山にウラをかかれるなんて！そんなダメ人間だとは思わなかったわ！ふんっ！

飲み屋「桃の木」（隣の店の名前は「山椒の木」）で、堺左千夫を尋問中の佐藤允と加山が、大木庄司のところのチンピラ・小川安三らと繰り広げる大乱闘が楽しい。往復ビンタの連射、的当ての仕掛けに頭をクリーンヒットされたり、トイレに叩き込まれたとたんに水がジャーっと流れるなどアイデア豊富だ。

本作品の実行犯は、中丸忠雄と草川直也。草川直也はいつもカマーベルトが似合いまくる胡散臭いキャラクターだが、今回は表の顔は温厚な会計士、裏の顔はハーレーをぶっ飛ばす凄腕のライダー。知能犯のパートを草川直也にまかせたせいか、いつもはスマートで汗をかかない悪役を得意とする中丸忠雄は、まっとうに粗暴な悪役で、殴り合いもちゃんとこなす（おもに殴られるほうであるが）し、本人も得意技の1つだと自慢していた（注：本当です）助走ナシのカウンター跳び越しも披露して運動性能のよさをアピール。

クライマックスはビル工事現場での銃撃戦。せっかく苦労して強奪した新型エンジンの設計図は、中谷一郎の素晴らしすぎ機転のおかげで、ニセモノとすりかえられており、ミッキー・カーチスの報告によって真相を知った、中丸忠雄は真っ青になって封筒を開けたところ「謹賀新年」（注：本作品は公開時は正月映画であった）の大書。

マイクとスピーカーが取り付けられていた現場の状況は大音響で、東宝・砧のオープンセット・・・じゃなかった、たぶん設定としては新宿コマ劇場のあたり（島崎雪子と草川直也が車に乗ったまま密談する駐車場は、コマスタジアムの裏あたり）に響き渡っていたため、三橋達也が率いる警官隊も続々と集結。

だってもう、逃げ場無いのに頭に血が上った中丸忠雄はおかまいなしだ。草川直也は鋲打銃で磔にさせられ、三橋達也の正義の銃弾で負傷した中丸忠雄ともども逮捕された。

加山雄三と佐藤允、そしてミッキー・カーチスが野球のマネっこをする爽やかなラストがいい。スポーツ感覚のアクション映画。

あ！佐藤允を手玉に取るキュートなヒロイン・水野久美と、中谷一郎と同じ遺伝子とは到底思えない美人の妹・浜美枝について全然書いてなかった！

ま、いいか、興味ないし。

くりかえすが、やはりこの映画に加山雄三は要らなかったと思う。狂言回しにしても馬鹿すぎるし、第一、カッコよくない。美味しいところは全部、佐藤允に持っていかれているし、島崎雪子には相手にされないし、そうだ！女の子にまったくモテていない。岡本喜八監督は加山雄三になんとなくやさしくないな、沢村いき雄にはやさしいけど。

鋲打銃は人に向けて撃っちゃだめだよ！良い子はマネしないでね！

（2010年09月04日 ）

【追記】

※本文中敬称略

■日のあたらない邦画劇場■