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たそがれ酒場


■公開: 1955年

■製作:新東宝

■製作:栄田清一郎、川田信義

■監督:内田吐夢

■脚本:灘千造

■原作:

■撮影:西垣六郎、石山徳次、小林覚、河崎敏

■音楽:芥川也寸志

■美術:伊藤寿一

■録音:中井喜八郎

■照明:傍士延雄

■編集:笠間秀雄

■主演:小杉勇

■寸評:

ネタバレあります。


その酒場には毎晩、おおぜいのお客さんがやってくる。

もとは絵描きの先生・小杉勇は現在パチンコで生計をたてているらしい。景品のタバコの買取先がこの、酒場の雇われマスターなのだ。

この酒場に住み込み、ピアノ演奏兼留守番をしている先生・小野比呂志、その弟子のバリトン歌手・宮原卓也。酒場の女給・野添ひとみは、歌も上手い、この店のアイドル。職業不詳のコバンザメ・多々良純は開店から閉店まで居座って、客のお流れやおこぼれを頂戴している。

まだ戦争が終わってからちょっとしか経っていないので、そこかしこに戦争によってひん曲げられた人生のタンコブを抱えた大人がたくさんいる。

野添ひとみは沖縄戦で父親が戦死、母親は病気、妹が一人、今日のお米にも事欠く貧乏生活、主な収入源は野添ひとみの給料だけ。

常連客の加東大介が再会したのは戦時中の上官・東野英治郎。今ではしがないブローカーの東野だが酒が入れば意気軒昂、思い出話に花を咲かせ、ストライキのデモに野次を飛ばして、軍歌を歌う。

尾羽打ち枯らした老人たちとは違い、学生は元気だ。健康的で未来の可能性を信じ、活力と生命力に溢れている。かと思えば、ドロップアウトした人たちもいるわけで、地回りの丹波哲郎とその子分・島田洋志。丹波は野添にオカボレしており、彼女の恋人・宇津井健と決着をつけるために今夜、店に来ている。

緊迫する店に姿を現わした、目が怖い二枚目の宇津井は丹波を、フォーク一丁で機先を制すると「大阪への行く」と小杉勇に言い残す。野添は、どうしてもお金がいるのでマスターに頼むが断られてしまう。小杉勇が閉店までにパチンコで稼ぐと約束して借金し、野添に金を渡してやる。

若い宮原卓也の才能を惜しんだ小杉勇は、店に来ていた親交歌劇団の主催者で元は歌手だった高田稔とお付の人たち・村上不二夫らを見つけると、宮原に「カルメンの闘牛士」をリクエストする。のんべえ相手にはミスマッチだが宮原の美声にほれ込んだ高田稔は彼を歌劇団に入団させたいと申し出る。出発は明日の朝。

しかし小野比呂志はこれに賛同しない。掌中の玉のようにして育てた弟子を手放すのは惜しい。しかし理由はそれだけではなさそうだ。小杉勇はコバンザメの多々良純に耳打ちして即興で闘牛を演じ、そのすきに野添を店から逃がしてやる。

ここ、大好き!小杉勇の「ユキちゃん、いまのうち!」が絶品だ!まるでコントのようだが、こういうところはベタでいい。ほーっと泣けて、笑える。

人気ストリッパーの津島恵子がやってくる。ストリッパーって言っても浅草あたりの下世話なモロ出しを想像してはイケナイ。露出の高い(当時としては)衣装で、セクシーなダンスを披露するのだ。セクシーって言ってもポールダンスとか想像していはイケナイ。

彼女には熱心な追っかけがいるらしい。店の女の子も、その男のストーカーまがいの視線にはちょっと警戒。宮原卓也はちょっぴり津島恵子に惚れている。彼は専属歌手であるがフロアの照明係も兼任しているのだ。

ストリッパーと照明係の恋、なんかいいよね。

ダンスが始まるとドスケベな男どもの視線は津島恵子に集中、誰もストーカーの手に刃物があることに気がつかない。男が津島恵子の後を追う、彼女も気がついた。二人はきっとワケありなのだ。ついに男が津島恵子に切りかかるが、周りの客にあっという間に取り押さえられた。

女のために身を持ちくずした(推定)と、男のために歌手生命を絶たれて裸のお仕事におちぶれた(推定)、お定まりの爛れた男女のドラマだが、お上品な津島恵子の口からちょっぴりアバズレな台詞が飛び出すと、なんかドキドキするよね。

小杉勇の借金は、偶然店に来た新聞記者・江川宇礼雄の登場で解消。小杉勇は戦時中、戦意高揚の絵を描いていたことを恥じて絵筆を折っていたのであるが、江川に似顔絵を描いてやり借金の同額で買ってもらうことにした。

かつて多くの若者を戦地に送り出す絵を描いてきた小杉勇は、今、若者を苦境から救うために絵を描いている。粗末な酒場のポスターの裏に描かれた似顔絵で、小杉の心のタンコブもちょっぴり癒されたのかも。

閉店時間、コバンザメは酔いつぶれている。生ゴミ同然の扱いで放り出される多々良純、どうせ明日も懲りずに来るんだよな、こういう人は。

小野比呂志に酒をすすめながら小杉勇が、かつての怨讐を捨てて宮原卓也を高田に預けるように説得する。歌劇団を主宰していた小野比呂志の妻は昔、自分の弟子で後に独立して歌劇団を創立した高田稔のもとへ走り、逆上した小野比呂志が妻を刺殺してしまっていたのだった。宮原卓也はそのことを知らない。

老人の夢と、若者の夢と、はたしてどっちを優先するのだろうか。

先生は宮原を送り出してやることにした。

野添ひとみは店に戻ってきた。宇津井健との恋を捨てて家族のために働くことにしたのだ。

酒場とは?様々な人たちが、心のタンコブを癒したり、ほっと一息、世間の憂さを晴らしにくる。そこに留まる人もいれば、駆け抜けていく人(天知茂)もいる。

酒場のセットからキャメラが出て行かないので舞台演劇のような映画。

小野比呂志が飼っている犬がやたらと懐いている。手にまとわりつくのはエサでつっている場合が多いが、安心して一生懸命、小野比呂志を見ているから本当に飼ってたのか?それとも、小野比呂志が大の犬好きだったのではないか?犬はそういうのをすぐ見抜くからね。それが、実に効果的。ほとんど喋らないし、ヒゲ面の小野比呂志のかわりに犬が全部引き取っていた。

2010年09月04日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-09-06