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家族


■公開: 1970年

■製作:松竹

■製作:三嶋与四治

■監督:山田洋次

■脚本:山田洋次、宮崎晃

■原作:山田洋次

■撮影: 高羽哲夫

■音楽:佐藤勝

■美術:佐藤公信

■録音:小尾幸魚

■照明:

■編集:

■主演:倍賞千恵子

■寸評:

ネタバレあります。


家族とは、ウザいけど、必要なもの。

長崎県の離島は炭鉱の町。そこで祖父・笠智衆と子供二人とともに暮らしていた父・井川比佐志と母・倍賞千恵子は、井川が脱サラして北海道の開拓村へ行くことにした。確かに貧しいけれども、隣近所とのコミュニケーションもあり、なによりも生まれ育った土地をそう簡単に捨てられるんだろうか?とは思うが高度経済成長も盛りの大阪万博当時であるから、なんとなかなるだろうと父が考えても無理ない。ただ、経済成長というのは平等ではないということだ。

笠智衆は、福山に住んでいる次男・前田吟に世話になるつもりなので、一家はとりあえず足手まといが無くなったと密かに安堵している、が、現実はそうは問屋が卸さない。前田吟は社宅住まい、身重の妻に育ち盛りの子供がいる。笠智衆を引き取ることはできないということになり、倍賞千恵子も子供の面倒をみてもらえるからと説得し、一家は全員で北海道へ向う。

そういうことはちゃんと事前に調整しとかないと!井川比佐志もうすうす予想していたことだろうし、なにより年寄りを置いていきたかったし、前田吟も父親を見捨てるような気がして悲しいのだが、目の前の生活がある。

生きるために、豊かになるためには家族でいることは不利なんだと言わんばかりである。年寄りは非生産的だから不要だと言うのである、いや、個人の問題なのではなくシステムがそうしているように思われる。

一家は大阪にやってくる。視界に5人以上の人間が入ることはおそらくなかった田舎から来た一家にとって、大阪(梅田)駅の巨大地下街はあまりに過酷で、おまけに大きな荷物を持っているから、まるで濁流にのまれた木の葉のごとく。それでも思い出作りにと、大阪の中心部からは思いっきり遠い万博会場までたどり着くが入場まで1時間と聞いて、太陽の塔を見ただけで帰ってくる。

一家の旅費はどうやって工面したのか?実は倍賞千恵子が、村の金貸し・花澤徳衛のセクハラをガマンしてやっとこさ得た金である。余分のお金なんかないのだが、せめて万博という思いである。いつでも来れるというわけではないのだ。

新幹線でやっとたどり着いた東京。上野駅周辺の旅館で、末っ子の赤ん坊が具合悪くなってしまう。旅館の主人・森川信が教えてくれた医者は通いなので夜は不在。東京のインフラは充実しているのだが田舎とはシステムが違うのだ。深夜の東京で井川比佐志と倍賞千恵子は翻弄され続ける。

やっとたどり着いた救急病院だったが、赤ん坊は死んでしまう。その日のうちに葬式を出さないと旅費が枯渇してしまう、っても法律で死後24時間たたないとお葬式できないのである。怒る井川比佐志、そして道端で泣き崩れる倍賞千恵子。事情がわからない上の男の子を預かった笠智衆もクタクタになる。一家はクリスチャンだったので教会でささやかなお別れの式が開催される。

一家は東北本線から青函連絡船で北海道へ。どんどん寒くなる、人家が少なくなる、一家は、特に井川比佐志は自分の決断が正しかったのかと悩む。深夜、一家を迎え入れてくれたのは親友・塚本信夫

親友の家の玄関先でそこから一歩も進めないくらい疲れ果ててしまう一家。大変なのはこれから先なのだ。

歓迎会から一夜明けた朝、笠智衆は冷たくなっていた。一家のために、なにもかも背負って、見届けて、用も済んだからというように死んでしまった笠智衆は、亡くなった赤ん坊と隣あわせの十字架の下に埋葬される。

酪農家としてはまだまだなので、親友や近所の人とのコミュニケーションもできてきた。そして一家に新しい子供が生まれることになる。

時間は人を待たないが、その経過とともに状況は変わっていくもの。不幸がいつまでも続くとは限らないし、何が幸福なのかはわからないわけで、それでも家族がいれば、そのせいで気苦労もあるけど、命を受け継いでいく旅の瞬間としての家族。

東京ってそんな冷たいところなんだろか?田舎者の寄せ集めで出来上がっている街なのだが、よそ者の無知を蔑んで自分のポジションを保とうとする、自らが築き上げた街ではなく、他人の作ったシステムに乗っかってるだけなので愛着も、協調性も無し、と。

家族がバラバラになるとき、それは運命共同体としての意識を失って、個人の権利を主張し始めたときである。その絆を破壊したり再生したりするのが、二つの死である。そして何よりも、家族の礎となるのは父親ではなく母親であるということ。

だって最初からずーっと笑顔の無かった倍賞千恵子が、最後にふわっと笑ったときが、本当の、この家族の門出なんだと。

渥美清太宰久雄ら、山田洋次監督作品のレギュラーもそれぞれ顔出し。ハナ肇犬塚弘、クレージーキャッツも旅行客として顔出し。

2010年08月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-09-07