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なつかしき笛や太鼓


■公開: 1967年

■製作:東宝、木下プロ

■製作:藤本真澄、木下惠介、金子正且

■監督:木下惠介

■脚本:木下惠介

■原作:

■撮影:楠田浩之

■音楽:木下忠司

■美術:松山崇

■録音:中川浩一

■照明:下村一夫

■編集:杉原よ志

■主演:夏木陽介

■寸評:

ネタバレあります。


木下恵介監督といえば、美青年が好きな人だったらしい。夏木陽介、モデル出身だからなあ・・・心配(爆)。脇のほうの出演者に、宝塚映画の人たち多数発見。

瀬戸内海の小手島は名前の通り、小さくてインフラの整備も充分ではない。主な産業は漁業で、小女子漁のシーズンには島外から出稼ぎの人たちがたくさん来るので賑わうが、あとは穏やかで、これといった娯楽も無い。

ここにある中学校に赴任してきた教師・夏木陽介の13年。

自殺した戦友からの、最後の借金のお願いを断ったことに責任を感じていた夏木陽介は、戦友の遺児(健一)と母親・浦辺粂子が暮らす小手島の中学校へ、丸亀の学校から赴任することになった。婚約者の大空真弓も離島で教師をしていたが、やっと丸亀で一緒になれると思った矢先の出来事であったため、彼女は憤慨する。

夏木陽介の健康的で、純粋というか単純で一途なキャラクターは、戦争映画や青春映画で最も輝く。しかし、似合うなあ、白いトレパンと体育帽が。

島の精神的な最高権力者、網元・藤原釜足は親切で、2年の任期を終えるととっとと島を去ってしまう先生たちにやや失望気味だが同情しきりでもある。

島は貧しいので、中学生といえど親から見れば、子供は重要な経済の担い手なので、仕事の手伝いやら子守やらで、学校を休みがちの生徒もいるし、おまけに、娯楽の乏しいこの島では、漁が休みのときと夜は、男親が集まって花札をしているのである。

一家だんらん=花札、しかも、字の無い赤タンは10点、「あのよろし」とかのゴージャスな12枚の絵札は20点とかそういう可愛らしい花カルタではない。9が一番えらいオイチョカブである。教育上よろしくはないのだが、子供もこづかい銭にぎりしめて参加するんだと、同僚の小坂一也から聞かされた夏木陽介は、子供たちのこと、特に健一君がスクスク育つ環境としては全然ダメだと確信する。

狭い土地でもできるスポーツとしてバレーボールを選択した夏木先生だったが、基礎練習にはまったく興味を示さない生徒たち。求道的なスポーツマンシップは理解できないらしい、そこで夏木先生は考えた。小さい頃から博打で勝負事の味をしめているから、しょっぱなから試合させれば燃えるんじゃないか?作戦はまんまと図に当たり、生徒全員、練習に積極的に参加するかとおもいきや、反応は今ひとつ。

生徒の数も少ないため、瀬戸内一体の中学が集結する体育大会でもボロ負けの連続だから、生徒たちはすっかり自信喪失なのだ。こうなったら、成功体験を積ませるしかない。

男女混合のチームを編成して、バレーボール大会に参加しようとしたら、体育会長・遠藤太津朗がNGだとぬかす(いや、例外は認められないというお役所的な考え方を通したまでだが、遠藤太津朗に言われるとなぜかムカつく)。せっかくチャンスを潰してなるかと燃える夏木先生は、猛抗議するが会長の持ち帰り案件になってしまった。しょんぼりな夏木先生だったが、島に帰るとOKが出たという。

条件の平等よりも、機会の公平さをチョイスしてくれた体育会長、東映の悪役のような顔をしてたから、コンチクショウ!と思ってたけど(おい、おい)夏木先生の熱意の勝利だ、よかったね!

しかし、練習時間は、家の手伝いの時間を圧迫する。「一銭にもならないバレーボールなんかやめちまえ!」という父兄の一言にとうとうブチキレる夏木先生。

だめだって、夏木先生、それは!ギャンブル好きでも、教育不熱心でも、その子供にとっては大好きな、父ちゃんなんだから!チョークたたきつけて教室飛び出しってっちゃ、生徒の立場が無いから!猪突猛進な夏木先生は、ご開帳の現場に踏み込んで、オヤジを外へ連れ出してぶっとばし「参った!」と言わせてしまうのだった。まるで子供の喧嘩だが、単細胞には単細胞で対処するのが一番だ。

バレーボール大会はユニフォームも運動靴もろくそろってないが、小手島の子供たちは連戦連勝し、ついに決勝戦にも勝利する。

小さな島の活躍は話題となって、校庭も整備されて、小手島は夏木先生と生徒の頑張りで健康的な島になる。

最初は、荷物運びにも誰も手伝いに来なかった夏木先生を、今では島全体で大漁旗をはためかせた漁船が見送る。なんだかんだあったけど結婚した大空真弓と夏木陽介は、丸亀の高校へ進学する健一君のそばにいるために島を離れるのだ。

この映画を観ていると、なぜか涙が出てくるのは、こんな人と人とのつながりや、情緒や、美しい自然が素晴らしいからなので、失われたモノはすべて懐かしく、愛しい。夏木陽介が、あまり上手い芝居をしないので、よけいに感動できるのかもしれない。

バレーボールの試合のシーンは予想以上に燃える、ちと長いのが難点だが、登場する子供たちが元気で一生懸命なのがいいじゃないか。子供は笑ってナンボだぜ。

2010年08月22日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-08-22