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ゲンと不動明王


■公開: 1961年

■製作:東宝

■製作:稲垣浩

■監督:稲垣浩

■脚本:井手俊郎、松山善三

■原作:宮口しづゑ

■撮影:山田一夫

■音楽:団伊玖磨

■美術:竹中和雄

■録音:西川善男

■照明:小島正七

■編集:

■主演:小柳徹

■寸評:

ネタバレあります。


猫バスじゃなくて、夏木陽介が来た!トトロじゃなくて、三船敏郎が来た!

「となりのトトロ」を観ていて本作品を思い出す人は稀かもしれないが、本作品を見ていて例のアニメ映画を思い出す人は多数だろう。

子供が、抱え込んだメランコリーを自分の力で乗り越えようとするには、いささかの魔法が必要だ。洋の東西も時代も問わず。

貧乏寺の住職・千秋実は、男やもめで子供が二人。元気のよすぎるゲン・小柳徹と、まだスカートからパンツがはみ出てしまっている妹のイズミ・ 坂部尚子。ある日、寺の鐘楼の修理について檀家たち・東郷晴子田武謙三稲葉義男と相談の席で、寺に金がないのは千秋実が子供を抱えて忙しすぎるからだろうということになり、その場で無理やり再婚が決定。

相手の女性は出戻りで、嫁ぎ先で出来た子供が男の子だったため、ゲンとは折り合いが悪いだろうということで、隣の村の久遠時の和尚・笠智衆の計らいにより雑貨屋の婆さん・高橋とよにもらわれていく。

ほとんどすべての男の子にとって、拾った石やボルトやろう石、つまりガラクタは宝物である。ゲンは状況を理解できないイズミに、大事な不動明王のメンチ(メンコ)以外の宝物を全部あげてしまう。こりゃ、すごい決断だぜ!ゲンはイズミのことをどんだけ大事にしているのか、この場面で泣かないヤツは許さん。しかし、雑貨屋の婆さんは見た目の通り(失礼な・・・)子供をチヤホヤしてくれる人ではなかった。ゲンが拾ってきた子犬も無慈悲に捨ててしまうのだった。

大人になってみればわかるのだが、婆さんには余裕が無いのだ。子供を甘やかすには余裕が必要なのだが、それが無いのだ。子供が嫌いなんじゃなくて、やさしくできないだけなのだ。だって、ゲン、その子犬、どうみても秋田犬の子犬だから、すぐに手に負えなくなるから、だけどそんなこと子供にはわからない。

ゲンが不動明王のメンチに語りかけると、不動明王・三船敏郎はいきなり拡大3Dになり、ゲンを励ますのであった。三船敏郎の不動明王って、問答無用で強そうだ。大きないたずらをしたゲンに縄抜けの術を教えたのも不動明王だ。そんなの、教えなくていいんだが。

ゲンは千秋実のところへ返される。嫁いできた嫁・乙羽信子はイズミをうんと可愛がるのだが、ゲンとは衝突ばかりする。不動明王のメンチを捨てた乙羽信子とゲンが大喧嘩した翌日、彼女は実家へ戻ってしまう。寂しがるイズミ、ゲンは乙羽信子に手紙を書くことにした。だが、なかなか返事が来ない。イズミと一緒にゲンは乙羽が住んでいる町を目指して、大人の足でも遠い道のりをテクテク歩き出した。

まるで「となりのトトロ」のようだ、って順番逆だ。え?ひょっとして、ここいらへんが元ネタなんじゃないのか?トトロ 対 三船敏郎、絶対に三船のほうが勝ちだ、何に勝つのか知らんが。

大きな町で乙羽信子の実家の住所を知らないゲンとイズミは途方にくれる。そこへ!猫バスがやってきた!んじゃなくて、路線バスの運ちゃん・夏木陽介が二人を発見、無事に村へ連れて戻ってきてくれた!乙羽信子が寺に戻ってくれるらしい。だが、ゲンは今度は笠智衆の寺に小僧としてもらわれて行く。イズミはゲンに聞こえるように寺の鐘をついてあげるのだった。

ゲンはイズミとも千秋実とも別れたくなかったが、不動明王に連れられて空を飛び、健康でも親の無い子、お金持ちでも病気の子、自分よりも不幸な子供たちの境遇を思いやることで、笠智衆の寺へ行くことを決心するのだ。

ああ、なんて健気な子なんだ!ここで泣かないヤツとは絶対に友達になりたくないな。

しかし稲垣監督は、バスに乗って戻ってくる乙羽信子に、何度も手紙を読み返させている。きっとゲンは、すぐに戻ってこれて、イズミと一緒に暮らせるに違いない。

バスの運ちゃんがしょうちゅう屋の娘・浜美枝に会いたいからと、ちょっとくらいサボったってどれほどのことであろうか。正午でもないのに、ゲンを見送りたいイズミが寺の鐘をついたって、子供が不動明王像を盗んだからってどうって・・・これはちょっとマズイが。子供の悪さには必ず理由がある。しかし、それを慮るには大人の心にゆとりがなくては無理だ。ゲンは乙羽信子を慮ったのである。大人はそれにキチンと応えられるだろうか?

これは児童映画で子供向けの映画かもしれないが、一緒に観ている大人に対する宿題をつきつける。頑張れ!大人!

以下、蛇足。

こんなに元気だったゲンが、太平洋戦争のとき南方であんな死に方をしようとは・・・以下「ゼロファイター大空戦」を参照のこと。

2010年08月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-08-10