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濡れた唇


■公開: 1972年

■製作:日活

■製作:三浦朗

■監督:神代辰巳

■助監督:村川透

■脚本:こうやまきよみ( 神代辰巳 山口清一郎 )

■原作:

■撮影:姫田真佐久

■音楽:伊部晴美

■美術:徳田博

■録音:福島信雅

■照明:松下文雄

■編集:鈴木晄

■主演:絵沢萠子

■寸評:

ネタバレあります。


人が生きていく上で、社会性とか向上心というものはそれほど重要ではないということを知らしめた映画であり、また、そういうことをすると社会から徹底的にスポイルされるということを同時に学べる映画。

田舎から上京し、木工所で真面目に働いて、社長の娘・嵯峨正子と婚約までしている金男・谷本一であるが、初めて彼女に迫った夜、拒否されてしまって以来、心と下半身に不満を抱えてしまった彼は、コールガールを呼び出して満たされたいと思う。

「腹でも切りますか!」と気楽に言う谷本一、こいつはすぐ独白するのだが、それがなんともナサケナイというか、他責的というか。

マネージャー・木夏衛(榎木兵衛)に手数料をガッツリ取られた谷本一としては投資を回収したいと思うのだが、呼ばれた女、洋子・絵沢萠子はあきらかにドSらしく、金男はテキトーこかれて逃げられてしまう。ラーメン屋で彼女を発見し、やっとコトに及んだのだが、金男、マッハで撃沈。

これはもうかなり悔しい。婚約者の嵯峨には田舎に帰って母親に婚約の報告をすると嘘をつき、絵沢萠子を呼び出した谷本一であった。絵沢はドスケベ外人相手にスワッピングパーティーのデリバリーをしていた。コトの最中に、ドル札を失敬して逃げた絵沢と一緒に彼女のアパートに逃げ込んだ谷本一はやっとマトモに彼女と結ばれた。

そこへ、彼女の幼馴染であり、お目付け役であった男・足立義夫がオトシマエをつけにやってくるが、うっかり絵沢萠子が彼を殺してしまう。

二人は、殺人犯として逃亡を開始。

危険を承知で彼女の故郷に逃げてきたが、なんとそこでは幼馴染の葬式の真っ最中。自分で殺した相手を自分で見送るという間抜けな状況、案の定、張り込んでいた刑事に発見された絵沢萠子と谷本一。

同じく彼女の友達である、清・粟津號、久子・相川圭子とともに、刑事から拳銃を奪ってまんまと逃げたときには、合計4人になっていた。

トラックに乗って旅をする、絵沢萠子、相川圭子、粟津號、谷本一。

行く先々で、相手を替えてセックスする4人。タバコ屋の店先で1万円札を出して、おばちゃんがお釣りを取りに奥へ入ったスキに店頭の売上金をちょろまかすという古典的な手口で逃走資金を稼ぎ、移動、またセックス。時々、農作業、で、またセックス。

故郷を捨てた根無し草になって放浪するしかない他の三人と違い、谷本一は腕のいい職人である。ある意味、絵沢萠子と相川圭子を独占したいかもしれない谷本一は、小さな町で木工所へ就職しようとする。それを堕落と呼ぶ、他の三人。しかし、絵沢萠子は立派な殺人犯、または過失致死容疑であるし、公務執行妨害もしちゃっているので、とうとう警察に捕まってしまう。

旅を止めた谷本と、旅を続けるしかない三人との道行きが崩壊。しかし、谷本はなぜか一人で止まる事もできず、絵沢と再会を約束して喫茶店で一人待つ。

絵沢萠子は刑事の厳しい取調べを受ける。谷本一の下の名前は知っていたが、苗字は知らない。いくら嘘をついてると言われても、彼女は「名前なんか要らない!」と刑事に叫ぶ。そして彼女は全裸にされて、連行されていくのだった。

谷本一と最初にセックスしたときの、小馬鹿にしたような表情から、買われる者と買う者の立場が無くなった以降、トラックや列車の乗り物の中で始めて「結ばれた」彼女のアゴと唇を痙攣させるまでに、子宮の奥で彼を受け入れるまでの生身が素晴らしい。

世間体とかそういうシガラミから逃れたいと思いながらも、今日のゴハンと明日のゴハンのために日々を妥協と打算の連続、賢くなりすぎている世間に、堂々と唾を吐く、そういうことは絶対できない小心者たちの女神・絵沢萠子にあなたも心を救われてみませんか?

ただし、心しか救われませんけど。

1970年代初頭のサブカルチャーな世界を、バーチャル体験するには好適な作品。あなたの内なる「金男(谷本一)」を再発見いたしましょう。いや、いるって誰の心にも。そして、このアブソリュートリーな旅を捨てて、よくよく考えれば共犯だけどたいしたことなさそうだし、っていうかバレそうもないし、元の婚約者のところで平々凡々な生活に戻ればいいんだし。

色と欲とで、人間の下半身から奴隷解放を叫ぶ、神代辰巳監督、日活ロマンポルノではこれがデビュー作。

2010年08月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-08-01