「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


吸血蛾


■公開: 1956年

■製作:東宝

■製作:滝村和男

■監督:中川信夫

■脚本:小国英雄

■原作:横溝正史

■撮影:安本淳

■音楽:佐藤勝

■美術:北猛夫

■録音:保坂有明

■照明:中川孝一

■主演:森茂

■寸評:池部良というよりは有島一郎とか、どう?

ネタバレあります。


確かに、この映画で営業上もっとも上位にくるのは池部良であるが、じゃあ作品の中で最も活躍したかというとそうでもない。さらに、吸血する巨大な蛾が出て来るんじゃないかと思った特撮ヲタクは、多数と見た。人の生き血をすする人間が出てくる、というわけだ。

美貌と才能のファッションデザイナー・久慈あさみは、ライバルのデザイナー・中北千枝子と名声を争っていた。ステキなファッションモデル・伊東絹子を擁する久慈が今日もライバルに勝利して最高賞を得た夜、彼女のところへ顔の下半身がオオカミになっている謎の男が訪ねてくる。

オオカミの歯形のついたリンゴに恐怖する久慈あさみ。

オネエマンのマネージャー・有島一郎と、ブティックのマヌカンたち・塩沢登代路(塩沢とき)、万里陽子安西郷子は、新聞記者・千秋実に相談するが、んなもん馬鹿馬鹿しい話なので相手にされず。

ホテルの滞在客から呼び出しを受けて、先のリンゴ事件で寝込んでいる久慈の代理として塩沢が行ってみると、怪しい男たち・大村千吉太田芳勝らに拉致されてしまう。

久慈あさみは謎の男にファッション画を売りつけられていた。いつもファッションショーに来ていた陰気な白髪のジジイ・東野英治郎は高名な昆虫学者(専攻は蛾の研究)の屋敷に呼ばれた久慈のあとを、有島が追ってみるとまたもやオオカミ男が現れて追い返される。

出てくる謎の男がみんな顔を隠しているので誰が誰やら?

すっかり参ってしまった久慈あさみを慰めるのは、やり手デザイナーから早く足を洗ってほしいパトロン・斎藤達雄であった。

塩沢が死体となってブティックに送り届けられ、やっとこさ警察の出番。捜査を担当した等々力刑事・小堀明男が、安西の恋人(え?ええーっ!)の千秋実からの通報を受けて、昆虫学者の屋敷に向うとそこには、死体を埋めるっぽい大きさの穴が掘られていた。

「よーし、わかった!」な等々力刑事の早合点を諌めたのは、無駄にカッコよく庭の植木にもたれかかっていた名探偵の金田一耕助・池部良

おお!やっと出てきたか、良ちゃん!なんかやる気なさそうだけど、能あるタカはなんとやらだ、期待してるぞ!

有島一郎がエスコートしたモデルが、ステージの仕掛けの上で殺され、さらに、誘拐されたマヌカンのバラバラ死体。

久慈はかつてヨーロッパに留学していたときに、天才的なファッションセンスの画家・東野英治郎(二役)と同棲していたが、彼はオオカミに襲われて以来、ときどき凶暴なオオカミ男に変身する体質になっていた。いくら才能あっても獣人なんかイヤ!な久慈は、彼がスペインで行方不明になったのをいいことに彼のファッションアイデアを多数盗用して、今日の地位を築いたのだった。

彼女を恐喝していた男が殺された。男の正体は、斎藤達雄。齋藤は、久慈を業界から引退させるために、オオカミ男のファッション画を買い取って久慈に売りつけて脅迫していたのだった。何をまあ、そんな手の込んだことしなくてもいいんじゃね?と思ったのだが、事件はそんな単純じゃなかった。

オオカミ男は昆虫学者の双子の弟だった。密かに帰国してさらに素晴らしいファッションを製作していたのだが、久慈あさみが忘れられず彼女を犯そうとして、学者の屋敷で久慈に返り討ちにあっていた。その直後に屋敷に行き、すべての秘密をしっていたのは有島一郎で、その事実をネタに久慈を独占しようとして、齋藤を射殺し、さらにマヌカンたちを殺してメンタル面にダメージを与えていた。

やるじゃん!有島一郎!普段が普段だけに、意外性バツグン!

久慈は、オオカミ男の秘密を知ってしまった中北千枝子も殺してしまって、有島一郎とはますます一蓮托生な関係になってしまったのだった。昆虫学者は双子の弟がすでに殺されているとは知らず、弟の行方を捜すが、学者が動けばその跡を追っている警察もついてくるのを恐れた有島一郎は東野も殺害。

これ以上、狂ったオオカミ男=弟(の犯行だと思ってるから)にマヌカンが殺されるのを恐れた昆虫学者が密かに匿っていた女達の居場所を突き止めた有島一郎が久慈と一緒に隠れ場所に迫ったとき、一度はオオカミ男に殺されたかと思われた池部良が、案の定、全然無傷で登場し、事件の真相を暴くと、錯乱した有島一郎がついうっかり久慈あさみを殺してしまう。

押し寄せる警官隊(当時はトラックの荷台に人が乗って走っても良かったんですね、蛇足ですが)を前にしても往生際の悪い有島一郎は、ビルの工事現場のてっぺんから転落死。事件は関係者がほとんど死亡して幕を閉じる。

で?良ちゃん、何を解決したかというと、被害者があと3人乗っかるのを防いだことは褒めてあげていいけど、犯人方面はバッタバッタと目の前で死んじゃってるし、マヌカンの連続殺人も防げてないから、名探偵ってもなあ・・・ま、良ちゃんカッコいいから、いいや。

金田一っていつもそうだし、防犯能力は全然無しだし。

けど、刑事の小堀明男といっしょに参考人の話聞いてるとき、やる気なさそうだったし、現場検証とかでもポッケに手を突っ込んだままでお行儀悪かったからなあ・・・でも、良ちゃんだから、いいや!

せっかく、中川信夫監督のハッタリの効いた画面から、登場するなり棒読み台詞を炸裂させて、その場の緊張感を思いっきりマイナスさせる良ちゃん、恐るべし!

オオカミ男の死体の埋まり方が、まっさかさまに地面に突き刺さっていたので「犬神家の一族」思い出しちゃいました。

久慈あさみをはじめ、ホンモノの伊東絹子、いや塩沢さんって長身なんでホント、スタイルいいですよ!それに、少女漫画から切り抜いてきたみたいな安西郷子、以下東宝ビューティーズのあられもない死体は、横溝ワールドをいやがうえにも盛り上げます。

小堀明男の善人丸出しの等々力刑事もある意味、ハマってたし。あと、池部良が主演なんで、小堀明男、有島一郎、斎藤達雄(は、特に)スマート(小堀明男は除く)な長身男優を揃えたのも個人的にはうれしい。千秋実と安西郷子が恋人同士というのは謎だが、実際、本作品のDVDのパッケージは池部良と安西郷子のツーショットだ。ある意味、詐欺だな。

さて、この映画にはまだ仕出し時代の中丸忠雄(クレジット無し)が出てるんですよ。塩沢登代路の死体が送られてきたブティックの外の野次馬で最後に走りこんでくる肩幅の広いジャンパーの男性、千秋実の新聞社で後ろのほうで働いている袖カバーの人および、千秋実と安西郷子のちょっと先を歩いて出て行くスーツの男性。さあ!みなさんで、仕出しウォッチング!

2010年08月01日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-08-01