（秘）色情めす市場

■公開： 1974年

■製作：日活

■製作：結城良煕

■監督：田中登

■脚本：いど・あきお

■原作：

■撮影：安藤庄平

■音楽：樋口康雄

■編集：井上親弥

■美術：川崎軍二

■録音：木村壬二

■照明：

■主演：芹明香

■寸評：

ネタバレあります。

日活ロマンポルノをほとんど見ない理由、それは、出てくる男子がほぼもれなく不細工だから。

そんなもの、金を払って観る気になんて到底なれないから。オトコマエが出てこない映画なんて、食指も、腰も、微動だにしないから。さて、そんな個人の嗜好はさておき。

サファリパークのような大阪府の西成地区（あくまでもイメージです）、そこでトメ・芹明香は、フリーランスを宣言。

ちなみにトメの職業は売春婦。

彼女達をマネージメントしているのは大人のおもちゃ屋を経営する高橋明と、彼女達に職場を提供する絵沢萠子。売春婦たちを客に斡旋してマージンを稼ぐ高橋明としては、稼ぎのいいトメの、独立宣言を黙って見過ごすわけにはいかないので、とはいえ彼は本職のヤクザじゃないので、せいぜいヤキを入れるのみ。

トメ、まったくヘコたれず。

トメの実家は、本当のお父さんじゃないパパ一人、お母さんだけど同業の花柳幻舟、それと天使のような、本当に脳みそに羽の生えているお父さんの違う(推定)の弟・夢村四郎が一人。

パパは年増の幻舟では、アッチのほうが立たないとのことで、若いトメが有料で始末していたが、亭主の浮気の相手がこともあろうにションベンくさい小娘っていうかライバルでもあるトメだったため、幻舟の怒りが大爆発。

親子の縁でも切るかと思えば、うっかり孕んでしまった幻舟としては堕胎費用をトメにせびるという有様でもあり、なんだかんだ言っても、命がけで自分と弟を産んだ母親でもあり、腐れ縁とはこのことかと思われる母子。

高橋のところを頼ってきたのは、いかにも70年代のフォークロック的な生活力の無い男と逃避行を続ける宮下順子。

ウブな彼女だが、お色気フェロモンたっぷりなので、男はいやいやながらも彼女が身体を売るのを認めてしまう。

どう見ても、芹明香よりも宮下順子のほうが身体売るのに「慣れてる」感じは否めないけど、あくまでも初心者なのは宮下順子だから、ヨガり方がプロだよなあとか思って見ちゃだめだから。

ある日、男が行方不明になると早速、高橋明は宮下順子をモノにする。

ひょっこり帰ってきた男は、やっぱ女のアソコで稼いだお金はマズイと思ったので求職活動をしていたそうだが、ある意味、凶状持ち（単なる使い込み）なため、しょんぼり戻ってきたというわけ。

高橋明は、素敵なビニール製のお人形さんを手切れ金として男にプレゼント。宮下順子、未練ありそうだけれども、別れて欲しいという男の目の前で、高橋明の後ろから一歩も前に出ず。

ダッチワイフを抱えて歩いても、さすが西成、誰も気にせず。

そもそも芹明香が、すけすけのネグリジェ一丁なのも、チラ見程度。

ま、確かにあの業界の婦女子のみなさんは、ああいうフシダラなファッションだったわけのでいわば日常の風景。

ところでね、最近、ちょうちん袖のチュニックの下にレギンスとか、レーヨンのスケスケワンピとかをTシャツの上から着るとか、ストリートファッション化しているけれども、昭和の人はアレ見たら妊婦のアッパッパか売春婦のネグリジェにしか見えなかったりするんだけどね。

プロパンガスを詰めた危険なダッチワイフを、高橋明のタバコに投げつけた男、そして宮下順子は、倒産した工場かなんかの煙突の中で大爆発。

この映画の公開の少し前に、東京では三菱重工爆破事件が起きたのだから、公開当時を考えるとかなりアブナイシーンだと言える。ちなみに、筆者はその爆破のちょうど1時間前にそのビルの前を通過していたのである。いや、マジでここ、怖かったんですけど・・・

トメが身体を与えた翌朝、弟は新世界のマーケットで首吊り自殺。トメは、風来坊に誘われたが、西成の町に残ると言う。

逃げることは反抗とは呼ばないのさ、トメは今日も客を引いている。

宮下順子が彼女の中に残っていた前の男を食い尽くされてあっさりと高橋明の女になったところは、ちょうどライオンのオスが、前のオスの子供を食い殺してしまうと、最初は抵抗していたメスがアッサリと交尾に応じるのと似ている。

なぜって？生きるためだよ。

みんな生きているんだよ、生きるために男と寝る、生きていることを実感するために女と寝る。だからここはサファリパークなんであって、トメなんかもう、性器そのものが服着て歩いてるくらいのヴァイタリティ。芹明香だけがまったく映画になじまない、いわば主人公の反抗宣言を地でいくようだ。

彼女が登場すると、予定調和の画面にけたたましく不協和音が鳴り響く。見ているだけで何が起きるのかと不安にかられるほどだ。

で、宮下順子や絵沢萠子が出てくると、なぜかほっとする。

芹明香という細身の破壊神が、ロマンポルノという市場を「ぶっこわす」爽快感はまさに本作品の異質さそのものであり、奇跡のシナジー効果を生んだと言える。

いや、面白かったなあ、ブサイクな男ばっかでも、オトコマエの女が出てる映画ってのは好きだな。

ついでに言うと、西成というところは毎年夏になると暴動が起きるらしい。理由は「暑いから」だそうだ。いいなあ、そういう向上心がまったくない人たちって、共感するなあ。

（2010年07月04日 ）

【追記】

※本文中敬称略

■日のあたらない邦画劇場■