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白日夢(2009年)


■公開: 2009年

■製作:本田エンターテインメント、アートポート

■製作:松下順一、窪田一貴

■監督:愛染恭子、いまおかしんじ

■脚本:井土紀州

■原作:谷崎潤一郎

■撮影:田宮健彦

■音楽:碇英記

■編集:目見田健

■美術:羽賀香織

■録音:沼田一夫

■照明:藤井勇

■主演:大坂俊介

■寸評:

ネタバレあります。


話題先行で割を食った感のある本作品、前作があまりにも扇情的だっただけに、タイトルと状況だけが同じでまるで違う作品。

交番の巡査、倉橋・大坂俊介は空き巣被害の電話を受けて現場へ。 そこは千枝子・西条美咲のアパート。 彼女の証言によれば「アルバムが盗まれた」とのこと。

ある日、倉橋はカツカレーを食べていて歯を折ってしまう。倉橋は日高歯科医で働いている歯科助手が千枝子であることに気がつく。 彼女に印象をとってもらうあいだ、倉橋は夢を見る。 隣の診察台で真っ赤なドレスの女が横たわっている。 生きているのか?死んでいるのか?千枝子とその女の関係は?倉橋の妄想はどんどんエスカレートしていく。

千枝子は日高医師・鳥肌実と浮気をしていた。

さゆりは千枝子の正体をさぐるために興信所の露木・菅田俊に依頼して、千枝子の家からアルバムを盗み出し、千枝子の本名が千春であることを知る。 日高の妻、さゆり・小島可奈子と千枝子=千春はかつてともに歯科助手をしていたころ、日高を争ったライバル。 千春は整形し、偽名である千枝子を名乗って日高に接近し、彼と浮気をしていた。アルバムには、整形前の千枝子の顔が写っていたので、さゆりはそれを動かぬ証拠としたかったのである。

さゆりは激怒し、性懲りもなく日高歯科医の周りをうろついていた、かつての千春である千枝子に「心身ともにブス!」と言い放つ。

日高歯科医を退職に追い込まれた千枝子にアルバムを返しに行った倉橋は、彼女に対する感情が同情から愛情へと変化していく。 しかも、それは千枝子に依頼されてさゆりを殺害するという妄想へと発展。

そして、ついに千枝子と倉橋は、さゆりを誘拐し絞殺、その死体を奥多摩の山中へ埋めてしまう。

これで千枝子と一緒になれると思った倉橋、しかし彼女は、ライバルがいなくなった今、日高と堂々とセックスを楽しむ。 混乱して倉橋は、千枝子のアパートに婚約指輪を持ってやって来るが、断られてしまう。 そして千枝子の部屋を覗いた倉橋の目に、もう一人の浮気相手の姿が・・・

少なくとも2人、本当に、カツカレーに歯を折られた人間(二人とも男子)を私は知っている、カツカレーおそるべし!

冒頭に血の海で瀕死の倉橋の真実は、ラストになって明かされるわけだが、ようするに君はきっと女性経験があまりなくて、やっとできた彼女が好きで好きで、ストーカーになっちゃうくらい頭おかしくなっちゃって、犯罪にまで手を染めたのにフラれて、彼女の新しい恋人と彼女を殺して、自殺しちゃったってことなのか?

そんなふうに死んで行く自分が悲しくて白日夢を見て慰めていた、ってことなのか?

元ネタは2007年に実際に起こった「警視庁立川署警官、女性射殺して自殺」という事件。 白日夢というのは願望を空想する、目覚めている間に見る妄想。ということはどこからどこまでが彼の夢なのか? 後輩の警官、宇波・坂本真が「新しくできた彼女が別れた男にストーカーされてる」という会話と、宇波と千枝子を射殺し、自ら命をたつところだけが真実だとする。 歯科医も、歯科医の妻も、殺人も、死体遺棄も、投身自殺も、すべて倉橋の妄想だとすれば、この難解なパラドックスも飲み下しやすい。

倉橋の妄想はすべて自分の好意と行為を正当化するための悲しい嘘だとも言える。 つまり本作品は夢オチではなく、自己肥大の結果である妄想オチ、である。 日高医師は女癖が悪い、千枝子は整形をしてまでそんな不誠実な男に恋焦がれてしまった気の毒な女、そんなかわいそうな彼女を好きになってすべてを捨てちゃう俺って、なんていいヤツなんだろう。

ところが、千枝子は小物の後輩に寝取られた、いや、そんないいヤツの俺をフッて俺のことをストーカーだとぬかしやがった、でも、そんな彼女でも俺は許すよ、だから天国で結ばれようね。 千枝子のシーンは愛染恭子、その他のシーンはいまおかしんじ、それぞれが監督したとのこと。

千枝子は愛染の分身だから、本人のキャラに合わないこともさせられてるわけだが、それほど美人でもない千枝子のヴァイタリティはいっそ清々しく、共犯者になることで身も心も一体になれると妄想した倉橋に対して、徹底的に実務的な千枝子。

このズレが倉橋が自分にかけた魔法を解いてしまうことになるわけで、これは恋愛一般にあてはまるとも言える。

恋愛について男は概ね情熱的なロマンチストだが、女は冷徹なリアリストである。 男子のみなさんは倉橋に同情し、女子のみなさんは鼻白む。 観客の反応からしてコレだよ、なんとも哀れな男の末路だが、現実はことさようにシビアである。しかし、もう1つの真実がこの映画に隠されている。

恋人(仕事でも可)を寝取られたとき、相手が自分よりも、容姿・地位・能力、いずれでも自分より「上」であれば、あきらめもつこうというものだが、これが「下」だとなると、怒り心頭だということ。 そんなシロモノに負けた自分が惨めでたまらなくなる、ということだ。これは男女共通、恋愛でも仕事でも。

単なる元アイドルがオシリまるだしでセックスするっていうだけじゃない、深いね、この映画。

で、愛染恭子ですが1シーンだけカメオ出演、顔映らんからわかんないですけど。

2010年06月13日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-06-14