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旅愁の都


■公開:1962年

■製作:宝塚映画

■製作:杉原貞雄、三輪礼二

■監督:鈴木英夫

■脚本:井手俊郎

■原作:

■撮影:逢沢譲

■音楽:池野成

■編集:井原祝一

■美術:加藤雅俊

■録音:鴛海晄次

■照明:石川緑郎

■主演:宝田明

■寸評:

ネタバレあります。


東宝の、ベッタベタのメロドラマ。

戦前のヒーロー・池部良から継承盃を受けた宝田明は、都会的センスと下品が持ち味。

本作品は宝塚映画なので大阪の話です。

建築事務所の若手デザイナー、村川信吾・宝田明は地元の東京を離れて大阪に来ているので、喫茶店を経営している叔母の千加・乙羽信子が親代わりになっています。口うるさいけど太っ腹な叔母には頭の上がらない信吾クンです。ある日、喫茶店に美女が面接にやってきます。彼女の名前は弓子・星由里子。信吾クンは一目ぼれしてしまい、即決採用となりますが、彼女はどうやらワケありらしく、信吾クンの好き好き光線にも無反応です。

沖縄に出店しようとしている料亭の女将、テル・淡路恵子のパトロンは、高田・志村喬。彼は、一人娘の朱実・浜美枝を信吾クンと結婚させたいと思っています。朱実も乗り気ですが、肝心の信吾クンは弓子に夢中なのでした。返還前の沖縄へ、料亭の建築現場の確認に赴いた、信吾クン、テル、朱実でしたが、積極的にモーションをかけてきたのはテルでした。朱実との縁談話をきっぱりと断った信吾クン、実はこの縁談をぶっ壊したかったテルは、ほっと一安心。

信吾クンは弓子をゴルフ場へ誘います。偶然そこにいたナイスミドルと弓子は顔見知りらしく、ハンサムでキザでいけ好かない、つまり信吾クン(というか宝田明)とは近親憎悪とも言えるそのオジサンは沢本・上原謙といい、東京にある大企業の重役らしいです。弓子とのただならぬ仲に、内心ドキドキの信吾クンでしたが、二人の関係はそんなハッピーなものではありませんでした。

実の兄が急逝してしまい、病身の母親・中北千枝子を抱えてしまった当時16歳だった弓子は、幼馴染と一緒に喫茶店に勤務していましたが、母親の薬代にも事欠いてしまい援助交際のアルバイトに転身、当時のパパがその沢本、ただし今ではスッパリ関係が切れています。しかし、当時、その事実を知った、彼女とは恋人同士だった野上・藤木悠は激怒して、イキオイだけで今の女房、里枝・黛ひかると結婚してしまい、その過去を知っている里枝から毎日嫌味を言われていたため、今では夫婦仲は冷え切っているという、かなりなドロドロな過去&現状を背負っていた弓子なのでした。

男は女の最初の男に、女は男の最後の女に、それぞれなりたがるものですが、信吾クンもご多分に漏れずでした。

弓子との復縁ももくろむ野上は信吾クンを諦めさせるために彼女の過去を暴露、テルも信吾クンに彼女を諦めて欲しかったのでその事実を暴露、人間色恋沙汰で我を忘れると、かくもいやらしくなるものですかねえ、という感じです。

マジで弓子、可哀想。そんな弓子の幸せの足かせになっている援助交際の過去が自分の責任だと感じた母親がこれまた急逝。もう何もかもイヤになっちゃう弓子です。

親孝行をするに越したことはありませんが、少なからずその実行に自己犠牲を伴う場合は、その投資が一方通行であることを勘案する必要があります。概ね生き残るのは子供のほうですから、自分の将来をどこまでドブに捨てるか?どのタイミングで親を捨てるか?ここんところを間違っちゃうと、双方不幸という最悪の結果が待っています。

弓子は信吾の前からも、野上の前からも姿を消します。

野上はあれほど弓子が好きだと言ってたくせに、すでに女房とヨリを戻しています。ライバル、1人、クリア!な、信吾クンでありますが、弓子がいないことには意味ありません。

テルはパトロンから捨てられても、信吾クンを選びますが、信吾クンの決意は変わりません。

結婚がパーになっても、痛くも痒くも無い、セレブな朱実は「男なんてほかにたくさんいるから」と、サバサバするにもほどがあります。

テルは弓子を見つけて、彼女の偽りの無い気持ちを聞きだすと、恋のキューピッドへ大変身。沖縄に出張している信吾クンのもとへ弓子をデリバリーしてあげるのでした。そんなテルもちゃっかりパトロンと復縁の予定。善行は積んでおくものですな。

鈴木英夫監督はたぶん「女優は好きだが、男優はどうでもいい」というポリシーが徹底しているため、女優さんたちは必ず正面アップ多発です。コイツ、スケベだな・・・。だから二枚目があまりいい扱い受けないんだな、映画の中で(ブツクサ)。

返還前の沖縄観光映画の風情です。記録映像としても価値ありでしょう。

宝塚映画は東宝が全面協力していますが、派手で分かりやすいカラーです。大阪という地の利(か?)を生かし、赤提灯のオヤジが内田朝雄(本家東宝なら沢村いき雄のパート)だったりします。ようするにネイティブの大阪弁がちゃんとイケる人が必要なんでしょうが、出演者で大阪弁喋るのは乙羽信子と内田朝雄くらいなものです。

建築事務所の所長さん・江川宇禮雄ですら東京弁だしなあ。

ところで本作品の製作当時は、16歳と援交したら上原謙は淫行罪になるんじゃないか?とか、いやあれは条例レベルだから大阪ならいいんじゃないか?とか、いやそれにしても上原謙って最低だよなとか、車で来てるおタカをお酒にさそったら藤木悠も罪になるんじゃないか?とか、今じゃ考えられないくらいおおらかな時代だったんですかね。

飲酒運転は今も昔もNGでしょうけども。

劇中、唐突におタカの熱唱がBGMになります。ハッピーエンドのはずのドライブシーンですが、最後の最後に池野成の音楽にスイッチしてしまうため、この先、二人の将来がとても心配になってしまうというオチでした。だって、メロディーラインが「電送人間」なんだもん(爆)。

2010年05月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-05-02