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黒い画集 第二話 寒流


■公開:1961年

■製作:東宝

■製作:三輪礼二

■監督:鈴木英夫

■脚本:若尾徳平

■原作:松本清張

■撮影:逢沢譲

■音楽:斎藤一郎

■編集:

■美術:河東安英

■録音:保坂有明

■照明:猪原一郎

■主演:池部良

■寸評:

ネタバレあります。


寒流、それはサラリーマンなら絶対に乗ってはいけない海流です。乗るならマグロが美味しい暖流で。

かつて、これほどまでにファンの期待を裏切った良ちゃんがあったでしょうか?

大手銀行の2大派閥、常務の桑山・平田昭彦(様)と副頭取の小西・中村伸郎。桑山は大学の同期で優秀な沖野・池部良を、池袋支店長に抜擢するのでした。

はい、そこ!「ずいぶん(実)年齢の離れた同期生だよなあ」とか言わないように!

当然のことながら、この人事は副頭取派の現支店長・小栗一也を飛ばすためなので、現支店長の能力とか人格とかそういう本人の資質や努力とは無縁のことです。ことほとさように、サラリーマン社会においては、個人の能力はあまり斟酌されない人事異動というものが存在することを覚えておきましょう。

大抜擢に心弾む沖野ですが、元々堅い性格で得意先である高級料亭の女将、奈美・新珠三千代のモーションにも反応しません。彼の妻・荒木道子は病弱で、二人の子供ともあまり上手くいっていませんでした。奈美は美人で、経営者としても優秀でしたので、沖野は融資を決定します。かなりの大口融資だったので、稟議書にハンコついたのは桑山でした。

良ちゃんと平田昭彦(様)が一緒に画面に出てくる、昭和の二枚目フェチにはたまらない豪華さ。だけど「男対男」のときもそうだった・・・池部さんの彼女を犯して自殺させちゃったのが平田昭彦(様)だった。両雄並び立たず、東宝の二枚目は俺だ!そんな男の嫉妬が渦巻く話だったらどうしよう。

やっぱ二枚目と二枚目との間には友情は成立しないのね。

さて、本題です。

沖野は妻への不満も相まって奈美と肉体関係を持ってしまいます。奈美に目をつけた桑山は沖野に命じて旅行に誘い出します。歪んだドリカム状態(男二人に女が一人、だったころのドリームズ・カム・トゥルー)は、女を弄んでは捨てまくる桑山のほうが直接アタックに出ます。

「なにもしないから」って「寒いから一緒の布団入ろう」って・・・(絶句)

平田昭彦(様)がああああ!壊れるううう!

純情そうな奈美でしたが、冷静だったころの沖野が見破ったとおり彼女は「女丈夫」でした。桑山は前頭取の息子でセレブ、おまけに二枚目。沖野は二枚目、かなりの二枚目、ですが、ただそれだけ、と奈美に計算されてしまい、桑山とどんどん深い仲になってしまいます。一度は奈美との結婚を決意して、妻との離婚を考えた沖野でしたが、ショックを受けた妻が自殺未遂。一命はとりとめますが子供を連れて実家へ帰ってしまいます。

沖野が邪魔になった桑山は、彼を宇都宮(当時はドがつく田舎)支店へ飛ばしてしまいます。

そんな沖野がすべてを捨てて、奈美と結婚したいと申し出ますが、ちょっと考えれば分かること。憔悴しきった沖野は「私より惨めな人は好きになれない」と奈美からはっきり言われてしまうのでした。

てめえ!奈美!何様のつもりだ!誰にむかって何言ってんだ!誰のおかげでこんなことになったと思っていやがるんだ!このアバズレが!と、叫びたい沖野の気持ちは、気の毒で気の毒で、泣けちゃいます。

理性を失った沖野は、桑山を蹴落とそうと探偵・宮口精二に彼の浮気(あ、ちなみに桑山は妻帯者)の証拠を掴ませて、総会屋・志村喬に売りますが、それは真っ赤なニセモノでした。さらに桑山はヤクザ・丹波哲郎と東宝大部屋ワイルドチーム(広瀬正一中山豊、ほか多数)を派遣して、沖野を脅します。実は探偵が集めた証拠は本物なのでした。総会屋は桑山に証拠を売りつけて口止め料をもらっておきながら、さらに、あれはニセモノだと言って沖野からも金を巻き上げていました。沖野はさらに奈美と桑山との関係を、反対派閥の副頭取派に売りつけようとします。

いや、良ちゃん!それはダメだって!だってさ、そんなの暴露って、もしも奈美の口から外に出ちゃったら銀行そのものがスキャンダルまみれになるんだってば!

案の定、副頭取の判断は、事件もみ消しでした。すべてを失った沖野は呆然と川原を彷徨するのでした。

ああ、良ちゃん、あのデッカイ身体がへたり込んじゃいました・・・。

およそビジネスの世界では、友情などというモノは幻に過ぎません。大学の同期だとかいう情実系のブランドなどというものは林檎の品種のほうがよっぽど信じるに値するものだと気がつきましょう。情においては確かに可哀想な沖野ですが、サラリーマンの尺度では、そうではありません。人格的にボロボロの桑山が振り出した出世という約束手形を信じた沖野が悪いのです。

桑山のようなだらしない人間と付き合ってしまった、自分の判断力の拙さこそが沖野の失敗なのです。

が、しかし。

明るくて脳天気、それが良ちゃんに客が期待するすべてであって、本作品の良ちゃんほど誰も望んでいない良ちゃんはあまり知りません。

新たな魅力発見というより、馬鹿っぽいけど実はいい人、という最大の武器を木っ端微塵にする「池部良 破壊工作」だったと思います。

あ、あと「お下品な平田昭彦(様)」ってのも・・・鈴木監督ってファンにまでイジワル?

2010年04月18日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2010-04-20