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悪の階段


■公開:1965年

■製作:東宝

■製作:金子正且

■監督:鈴木英夫

■脚本:鈴木英夫

■原作:南条範夫

■撮影:完倉泰一

■音楽:佐藤勝

■編集:岩下広一

■美術:中古智

■録音:斎藤昭

■照明:

■主演:山崎努よりも団令子

■寸評:

ネタバレあります。


佐田豊さんと言えば、善玉の弱者ですが、本作品では事件の真相を地味に解決する大活躍です。

インテリの岩尾・山崎努は建設会社に勤務しています。現場で溶接工をしている熊谷・久保明、作業員の下山・西村晃、社長付きの運転手に昇格した同じく作業員の小西・加東大介、彼らはある計画を持っていました。

麻薬取引をしている会社の金庫を破って数百万円強奪した4人は、次に大企業の金庫を狙います。総額四千万円、今なら億単位の高額だと思われますが、最初からきっちり四等分する約束をして、計画は実行されます。手口は同じく、溶接工の熊谷が金庫をガスバーナーで焼き切るのですが、夜とは言え騒音が気になります。そこは岩尾の下調べがバッチリで、近隣の工事の騒音にまぎれてしまえば大丈夫、しかし工事現場はちょうど休憩時間に入ってしまいます。

警備員が気がつくかもしれないので、前科もちの下山が警備室に忍び込んで警備員二名を失神させてしまいます。さすがに度胸が一番すわっていて凶暴な手口も全然平気な下山です。計画は成功し、岩尾が借りておいた不動産屋の建物の地下に大金は隠されます。金の入った金庫は二重になっていてそれぞれの鍵を小西と下山が保管、熊谷は岩尾と一緒にほとぼりが冷めるまで普段どおりの生活をすることにしました。

しかし、そこは四千万円、お一人様一千万円の大金です。元々、そんな大金を持ちなれない、て言うか、強盗するような不良オヤジどもですから早速、小西が建設会社社長・清水元の情婦、お京・久保菜穂子に入れあげてしまい、キャバレーの開店資金をオネダリされてしまいます。

お京さんの前歯には金歯がキラリ。欧米の映画では、歯の悪さは育ちの悪さの象徴という感じがするので、そのあたり、何人も男を股にかけている(文字どおり)もう一人のヴァンプ、お京さんの性格が丸わかりです。

貧乏人がイキナリ大金を使うと怪しまれるから、みんなお金を使うのを我慢しようと約束したのに、小西はお京の身体が欲しくて岩尾に分け前の分配前倒しを頼みに行きます。きっと反対されると思っていた小西でしたが、岩尾は「みんなが賛成するならすぐにお金を出してあげてもいいよ」と言います。岩尾には女がいました。彼女の名前はルミ子・団令子、得体の知れない女です。小西は逃走用の車の運転しかしてないのに、みんなと同じ分け前をもらうのは変じゃね?と、ルミ子は熊谷と下山を唆します。

すべては岩尾の計算でした。小心者の小西からアシがつくのを恐れた下山が小西を絞殺、しかしトドメは熊谷と岩尾に任せます。分け前も等分なら、共犯のリスクも等分ということですね。

岩尾は最初から四千万円を独り占めする予定です。自分よりもヴァイタリティーはあるけど気の弱い小西は片付けました。次は、まだ若くて、女日照りの熊谷です。

みんなから小僧扱い、パシリ役の久保明さんですが、実は山崎努さんと同い年です。万年青年だった久保さんですが、男子としては年齢相応の役どころというのはやってみたかったでしょうが、映画俳優はぱっと見がすべてですので、本作品でも団令子さんにあしらわれて地下室へ続く階段から転落死のあげくに、証拠隠滅のために崖から車ごと海に捨てられてしまいます。

珍しく野獣派な役どころかと思いきや、やっぱりいつもの久保明さんでした。

あと残るは、前科があり、猜疑心が強く用心深い下山です。なにせ西村晃さんですから、手ごわいのも納得です。

見りゃわかります。

まず下山はルミ子を味方にしようとします。さすが目の付け所がナイスです。ちょうどその頃、下山が昏倒させた警備員の証言から似顔絵が作成されたという報道がありました。

うん、そうだよね、暗がりでもあの顔は一目見たら忘れられないよね。

岩尾は下山と取引して、残った金を山分けして解散することにしました。んな、ねえ、ここまで来てそんなにアッサリあきらめるわけ無いじゃん、二人とも。

金庫から金を出そうとした下山は小柄だったため、そこに着目した岩尾は金庫の扉を凶器にして、下山をサンドイッチ攻撃、二重になっていた内側の金庫の扉に頭を挟まれた下山は圧殺されてしまいます。残るは岩尾とルミ子だけ。ルミ子は、自分のことを好きだと言ってはくれましたが、岩尾のことは全然信用してませんでした。

岩尾は下山にルミ子を五百万円でプレゼントするという約束をしていました。そのことを問い詰めると岩尾は、下山の言ってることはデタラメだと言い訳しました。

実は下山からそのことを聞いていたので、ルミ子はここで決意します。

やっぱ、コイツ信用できねえ。

「下山を安心させるために嘘ついた」とかなんとか言えばよかったのにね。

ルミ子は四千万円を独り占めしてトンズラすることにしました。下山を殺すために準備した仕掛けのある水筒には、岩尾が隠し持っていた青酸カリ(だと思います、氷砂糖みたいな薬品だし、中毒症状が劇症だし、びっくりした顔して死んでるし)を混入したウイスキーと大丈夫なウイスキーが入っています。

ルミ子は、岩尾が差し出したウイスキーのコップをそっと入れ替えました。案の定、ルミ子が飲むはずだったほうには毒が入っていたので岩尾はもがき苦しんで死んでしまいます。

さて、ここからが毒婦・ルミ子の見せ場です。

現金強奪犯が仲間割れして全員死亡、てな感じ?

ルミ子は自分の身代わりとして、小西から金を巻き上げようとしていたお京を呼び出して毒殺、下山、岩尾、そして彼女の遺体を自分の身代わりにして地下金庫の傍に並べると、灯油をぶっかけて火事を起こし、自分はさっさと逃げ出しました。

すべて大成功と思いきや、前の晩に訪ねてきた巡査・佐田豊の目撃証言により、刑事・渥美國泰がルミ子の跡を追ってきます。何も知らずに満面の笑みのルミ子の後ろから、ひたひたと刑事が近づいていくのでした。

ワケありの女が、知能犯の男の拾われて、悪事に利用されたようなフリをして、仲間割れを起こさせて全員自滅させてしまい、シアワセを掴もうとする話です。

限定されたシチュエーションで繰り広げるフィルム・ノワール。ツッコミどころは満載ですが、テンポとリズムが良いのでひきつけられます。ま、何に引き付けられるかといって劇画顔の山崎努さんが最もその、吸引力は強いのですが、今回はボウボウ眉毛の団令子さんの、クールビューティーな毒婦がタイヘン魅力的でした。

いかなり映画を観ても、およそ女優さんには何の興味もありませんが、悪女は好きです。男に媚びず、甘えず、対等にかけ引きする頭脳とハッタリ、リスクもリターンも高いところで勝負する強かさ。それでいて、女を捨ててない、男勝り=おっさんくさい、じゃないところがグッド。

ラストは「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンのようでした。最初から、上手く行くわけが無ありません。目の前にある、シアワセにすがって、それがスルリと指の間から零れ落ちてしまう、砂浜に残った団令子さんの足跡に思わず憐憫の情をもよおします。そう、悪女は同情されるのはゴメンです、ざまあみろと言われたい、のです。一番大切なものは絶対に手に入らない、それが悪女の宿命です。

いいっ、いいなあ団令子さん、でした。お、珍しく女優さん褒めちゃった。

強いて難を言えば、山崎努さんがアッサリ死に過ぎることと、西村晃さんが腕を使って加東大介さんを絞殺しようとするところ。あれじゃ猪首の加東大介さんの頚動脈や気管は絞められないだろうと思ったこと、でした。

2010年04月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-04-07