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ぽんこつ


■公開:1960年

■製作:東映東京

■企画:秋田亨

■監督:瀬川昌治

■脚本:舟橋和郎

■原作:阿川弘之

■撮影:藤井静

■音楽:真鍋理一郎

■編集:祖田富美夫

■美術:森幹男

■録音:加藤一郎

■照明:銀屋謙蔵

■主演:江原真二郎

■寸評:

ネタバレあります。


瀬川昌治監督の監督デビュー作。

ぽんこつ屋に住み込みで働いている熊田勝利(かつとし)・江原真二郎は、名前は強そうですが、とても善人なため貧乏くじを引くことが多く、同僚・清村耕次岡部正純たちからは愛着を込めて「まけ(負け)とし」と呼ばれています。勝利は機械の話をし始めると周りが見えなくなるほどのメカフェチでもありました。

大学で自動車部に所属している和子・佐久間良子と美沙子・小林裕子は卒論が遅々として進まず、ゼミの先生・柳沢真一に問い詰められて苦し紛れに「自動車事故について」論文を書くと宣言します。資料を集める時間も執筆している時間もないため、二人は卒論を映像で製作することにしました。

題して「動く卒論」。

なんというリベラルな女子大学生さんでありましょうか。自動車部なんてのに所属するくらいですから近代的な思想の技術系なんでありましょう。今なら卒論をAdobeのFlashでプレゼンします、というところでしょうか。

映像を作るには資金が要ると、美沙子の彼氏、耕平クン・曽根晴美からアドバイスされた和子は医者をしているお父さん・山茶花究が事故ったルノーを言葉巧みに、勝利がいるぽんこつ屋に叩き売って資金を調達、8ミリキャメラとテープレコーダを購入します。

二人は、交通事故の多発が社会問題化しているのに着目し、警視庁の井沢警視正・十朱久雄に突撃インタビューを敢行。

製作資金が足りなくなると今度はお見合い映像の製作というアルバイトを思いついた二人は、オールドミスのしず江・清川虹子の珍妙なダンスを撮影する羽目に。

さらに二人は人の良さそうな勝利に事故現場の「やらせ映像」に協力することを頼みます。

勝利は二人を工場の自分の部屋に招いて、廃車になった外国車から記念に集めたプレートを見せてあげます。手のひらサイズのテレビ、腕時計の文字盤に入るくらいの小さなラジオ、ガソリンじゃない燃料で走る車、機械大好きな勝利の純粋な「夢」は、同じくメカ好きの和子と美沙子のハートをがっちりゲットしてしまうのでした。

重厚長大なものが小型化するという技術予測や代替燃料、そしてコンピュータの登場はもっと以前から描かれていたことなので実はあまり驚きませんが、映画の中ではそういう荒唐無稽(当時としては)な話に目を輝かせ、年収も低いし、学歴も無いし、決してスマートではないけれど夢を持っている、今なら生活力の無さゆえに女子からは相手にされそうにない勝利の夢、技術系男子の男のロマンに魅力を感じる女子なんてめったにお目にかからない希少種。

そう、これは男子のシンデレラ・ストーリー、夢物語なのであります。

和子と美沙子は勝利に胸キュン。あからさまにライバル意識を持つ二人が可愛いのですが、しかし美沙子ちゃん、君には耕平というれっきとした彼氏がいるのでは?

そんな細かいことを気にしている暇はありません。映画のテンポはツッコミどころを与えることなくポンポンと進んでいきます。

恋の成就に障害の一つや二つはあって当然。

まずは美沙子の勘違いによる「勝利、実は美沙子と結婚したい」という誤解。こちらはあっさり、勝利が正直に「僕は和子さんが好きです」と美沙子に宣言したのでわずか数分で解決。

次は和子の縁談。見合いの相手がこれまた相手がお話にならないくらいのキザで幼稚なぼんぼん・一竜斎貞鳳だったので瞬殺。

次は社会的ステータスの違いによる両親の不安。これも、和子の機関銃のような説得に父と母・沢村貞子があっさりと折れてしまい、これまたスピード解決。

さらには勝利が廃車の中から見つけた3万円が持ち主不明のため遺失物として勝利の金になっただけでなく、ぽんこつ屋の社長・上田吉二郎に頼まれて間違えて買った馬券が大当たりを取ってしまったため一気に100万円くらいの大金に化けてしまい、それもこれも縁起の良いナンバープレートのご利益か、そしてビアホールで偶然出会った占い師・東野英治郎のアドバイスに従って「押しの一手とムードがラッキーアイテム」を忠実に守ろうとした勝利はついに和子とのデートにこぎつけます。

勝利は和子にプロポーズ、なぜか追いかけっこをする二人。シアワセな二人の結婚式にはすでに赤ちゃんが生まれてしまった美沙子と耕平クンも参列します。

世はスピード時代ということでしょうか。

佐久間良子はぽっちゃり唇に黒目がちの瞳でモテ度MAX。情念は濃いけど幸は薄そうな役が似合いますが、本作品では男に媚びたりすがったりするヘタレ女子ではなく、ノビノビと言いたい事をポンポンと言う現代娘で同性からの受けも良さげです。

江原真二郎も世間からスポイルされた役どころに威力を増すところがあるように思います。それが本作品では善人丸出し、見てて気恥ずかしくなるくらいのいいヤツなのですが江原さんが二枚目なため、女子としては何をやってもオールオッケー。これも一つの人徳というものでありましょう(か?)。

難を言えば、二人の恋が成就するまでのハードルが存外低かったことでしょう。それを補って余りあるテンポとスピードが心地よく、喜劇とはあまり深くモノを考えないで見たほうが楽しいという当たり前のことを再認識させてくれました。

予定調和だろうが、なんだろうが映画はハッピーエンドが何よりです、今も昔もそこだけは変わりませんね。

電器屋の店員に潮健児、競馬の予想屋に顔の怖い関山耕二、二人が8ミリキャメラを買いに行く店の人に岩城力(岩城力也)、東映東京の常勤の皆様もしっかりと出演。喜劇サポートは若水ヤエ子、ほか多数。出てくるたびにムカつく何様女子の山東昭子は社長令嬢役(ってもお父さんは上吉ですが)で今回は心優しい下町のお嬢様でありました。

映画俳優に芸を求めてもそれはせん無いことなので、随所に芸人さんや、芸と呼ばれるレベルの演技ができる達者な方々を配置し、主人公二人のママゴトのような恋愛物語を盛り上げておりました。

2010年03月14日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-03-17