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あかね雲


■公開:1967年

■製作:松竹

■製作:中島正幸

■監督:篠田正浩

■脚本:鈴木尚之

■原作:水上勉

■撮影:小杉正雄

■音楽:武満徹

■編集:杉原よ志

■美術:戸田重昌

■録音:西崎英雄

■照明:中村明

■主演:岩下志麻

■寸評:

ネタバレあります。


岩下志麻さんの映画を観て、はじめて泣いちゃいました。

日本がそろそろ本格的に戦争を始めようかという頃、予備役の二人が連隊を脱走します。脱走兵は民家に押し入って衣服を強奪、二人の内一人、清川・織本順吉の提案で、アシがつくのを警戒してバラバラに逃げて落ち合う約束をします。憲兵隊の猪股・佐藤慶はすぐに二人の落ち合う先を推理して手を回しました。清川は列車に飛び乗りますが憲兵隊に連行されます。しかし、もう一人は逃げ延びました。

清川を置き去りにして走り去る列車の行く手は、血の色のような「あかね雲」でした。

ちなみに本作品はパートカラーです。

1年後、石川県の輪島にある寂れた旅館に、まつの・岩下志麻という可愛い女中さんがいました。まつのは故郷に神経痛もちの父親・信欣三がいるので少ない賃金から仕送りしています。まつのにはお兄さん・河原崎長一郎がいました。ある日、その兄さんに召集令状が来てしまいます。両親の生活はまつのが一人で背負わないといけなくなるのでした。まつのには芸者をしている、姉と慕うよき相談相手の律子・小川真由美がいました。彼女は山代へ出て稼ごうと、まつのを誘いますが、因業な宿屋の女将さんは「あんな淫売について行くな」とボロクソに言います。

まつの、通称・まっちゃん。化粧っ気のない純朴な表情に胸がキュンとしちゃいます。

旅館に小杉・山崎努という缶詰の行商をしている男の人が泊まりに来ました。彼は顔が広いので、まっちゃんは山代の景気などを教えてもらいます。彼は親切でしたので、山代に出てきたら就職口を世話すると約束してくれました。まっちゃんは、律子もいるし、小杉さんは頼りになりそうだし、何よりお金がたくさんほしかったので、旅館を飛び出して、山代行きの列車に飛び乗りました。まっちゃん、希望に満ち満ちての出発です。

まっちゃんの前途を明るく照らすような「あかね雲」がキラキラします。ここだけパートカラーです。あ、まっちゃんの着物の柄って赤いお花だったのね。

山代に着いたまっちゃんは律子が住んでる家に行きます。律子はきちんとした旅館で女中奉公をさせようとしますが、ついでに挨拶に行った小杉のところで、まっちゃんは女中よりも仲居さんのほうが手取りが多いことを聞かされて、ついそっちへ就職してしまうのでした。その仲居さんの置屋の女将・宝生あやこは小杉にマージンを支払っていました。小杉は、自分のことを全然疑わずに感謝するまっちゃんに思わずそのお金をあげました。

律子、カンカンです。仲居さん、ってもやることは芸者さんと同じで、ひょっとするとアフターまであるらしいのです。まっちゃん、どうしていいのかパニックです。でも、お金は欲しい、お父さんを入院させたい一身のまっちゃんでした。

小杉は取引先の上司、久能川・花柳喜章を連れて来て、まっちゃんに寝てくれと懇願しました。まっちゃんはバージンだったのですが、100円くれるという小杉の言葉を信じて一夜を共にします。「バージンが(しかも、可愛いまっちゃんのがっ!)たった100円ですって!」と怒る律子、いや、律子さん怒るところがちょっと・・・いえ、これは身体を売ってしまう商売に身をやつした律子なりの思いやりなのです。

小杉も物凄く後悔します。いたたまれずに山代の夜の街を徘徊します。スモークが焚かれたお灯明がたくさん並んだ場所までたどり着いた小杉。もしやここで、あのドスケベジジイの久能川を粉砕すべく、頭に懐中電灯でも括り付けて、ライフル持ち出したらどうしよう・・・ってそういう「八つ墓村」みたいなことはなりませんでしたが。

小杉のために、お父さんのために、まっちゃんは半泣きでしたが、ヤっちゃった後は意外とサバサバ。おいおい、まっちゃん・・・律子が心配したのはこっちのほうでした。

まっちゃんは仲居生活も板につき、同僚の仲居さん・宮本信子と一緒に金沢に遊びに来ました。まっちゃんは金沢にいる小杉を訪ねます。小杉は久能川と寝るように頼んだことをまっちゃんに謝りますが、まっちゃんは困ったときに親切にしてくれた小杉のことが大好きになっていました。

憲兵隊の猪股が、まっちゃんのいる置屋さんにやってきます。猪股は小杉のことを問いただしましたが、事情は説明しませんでした。一緒に来ていた県警の鴨下刑事・野々村潔に対して猪股は、まっちゃんが売春したのを公表して小杉を人身売買の罪で逮捕しようと言い出します。

まっちゃんは、身体を売ったことを女将さんにも、お父さんにも秘密にしてたのに・・・あんた!実のお父さん(父・野々村潔、娘・岩下志麻)に向かってなんてこと言ってんのさ!・・・あ、いや、違いました。

小杉はあの、逃げ延びた脱走兵でした。小杉は正体を久能川に見破られたので口止めとしてまっちゃんを斡旋したのでした。なら、脱走兵だって堂々と逮捕すりゃいいじゃん!猪股!

「だって脱走兵だなんて公表したら国家の恥だもん!」という猪股の一言に、この作戦を承諾せざるを得ない鴨下刑事でありました。まっちゃんは置屋さんをクビになります。そこまで猪股は計算してました。故郷に帰ったまっちゃんは自分が身体を売ったお金で元気になったお父さんを見て、本当に嬉しそうです。猪股はいずれまっちゃんが小杉に会いに行くだろうと読んでいました。

ひっそりとした漁師町でまっちゃんは小杉に再会します。二人は30分だけの逢瀬を果たしました。猪股と鴨下刑事がやってきて、タバコを買いに外へ出たまっちゃんを問い詰めます。まっちゃんは「小杉さんは悪くない!私に親切にしてくれた、ただ一人の人だ!」と叫ぶのでした。

物語が展開するブリッジとして登場する「あかね雲」が、観るものによっては明るい希望であり、血まみれの過去を思い出させるトリガーだったり、人間のドロドロも大自然の太陽はまったく無関係に昇ったり沈んだりするわけで、誰も、見ている観客も含めて、誰一人、まっちゃんを救えなかったわけです。切ない、なんて切ないのでありましょうか。

でも、いました、一人だけ、観客の心を救ってくれる人が!小杉を逮捕しに行く猪股と鴨下に放置され、泣き崩れたまっちゃんの、散乱したタバコや手提げを拾ってくれた巡査さん、ありがとう!

お志麻さん演じる、まつのは無学で向上心のかけらもない田舎娘でありますが、大切な人を思いやる、その真心に、観客のハートはわし掴みでありました。いやあ、実際のところ、お志麻さんが出てる映画で、お志麻さんの芝居見て泣いたのは本作品が今のところ唯一であります。

2010年03月13日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-03-07