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なみだ川


■公開:1967年

■製作:大映

■企画:奥田久司

■監督:三隅研次

■脚本:依田義賢

■原作:山本周五郎

■撮影:牧浦地志

■音楽:小杉太一郎

■編集:谷口登司夫

■美術:内藤昭

■照明:

■録音:大谷巖

■主演:藤村志保

■寸評:細川俊之、日本のアラン・ドロン(注:1960〜1970ごろに活躍した仏俳優)と言われたこともあったっけ。

ネタバレあります。


山本周五郎の原作映画にはホンモノの悪党とか、スーパーヒーローは登場しませんが、本作品のお姉さんは本当のホンモノのスーパーヒロインでありました。

日本橋に腕の良い彫金師のお父さん・藤原釜足と、若干ボンヤリしてるけど気立ての良いおしず(姉)・藤村志保と、仕立て屋の内職をしているしっかり者のおたか(妹)・若柳菊がつつましく暮らしている家がありました。おしずは、美人で評判の妹に対して「おたふく」と呼ばれているらしいですが妹のことが大好きです。おたかにはいいところから縁談の話が来てるのですが、ある理由で断ってしまいました。

それは前科のある兄の栄二・戸浦六宏がたびたび金をせびりに来てお姉さんが断りきれずにお金をあげちゃうこと、そしてお姉さんより先に嫁ぐのがなんとなく気が引けている、ということ。栄二はまたもやお金をもらいにやってきますが妹は毅然と追い返します。栄二は今度はお姉さんを見つけてお金を要求します。お姉さんは小唄の生徒である木場の鶴村・安部徹に頼んでお金を工面し、栄二から絶縁しますという誓詞を取ります。

お姉さんは妹の縁談の相手、信濃屋のぼんぼん・塩崎純男の両親に、兄とは絶縁したこととを告げて、さらに自分が妹を説得すると約束してきます。お姉さんはお父さんの仕事仲間の工房で働いている、御家人の冷や飯から民間人(家出→ちんぴら→職人)になった職人の貞二郎・細川俊之のことが好きですが貞二郎はそうでもなく、酒が好きでやたらと二枚目で女にモテるのでお姉さんのことは眼中に無しでした。

「自分が嫁に行くことが決まれば妹も嫁に行くと決心するだろう」とお姉さんは読んで、自分は貞二郎と結婚するんだと妹に言います。「うっそ〜!」という妹に対して精一杯に嘘をつくお姉さんでした。

藤村志保が「クレヨンしんちゃん」みたいに諺を大真面目に間違うので、妹は心配でなりません。実際のところ、観てるほうも「大丈夫なのか?」と本気で心配しちゃいます。

妹が貞二郎に確認したところ、お姉さんの見え透いた、しかし愛情たっぷりの嘘はスグにバレます。それどころか、妹はお姉さんの気持ちを汲んで、お姉さんとデートして欲しいと貞二郎に頼むのでした。貞二郎と船宿で会ったお姉さんは、とっくに嘘がバレて貞二郎に怒られるんだと覚悟していました。お姉さんがあまりにも純粋に妹のシアワセを願っているので、心にタンコブのある貞二郎はズキュン!と来てしまい、そのまま抱いてしまいました。

おいおい、貞二郎、っていうかお姉さん、ボンヤリしてるくせにヤルときゃヤります。

しかしお姉さんに岡惚れしていた鶴村は、お姉さんに愛人になれと迫って実は断られていたくせに、貞二郎を呼び出して「あれは俺の女だ」とタンカをきります。貞二郎は鶴村にお世話になっていたし、お姉さんは鶴村に貢がせていたらしいと誤解してしまい、お姉さんとは何でもないと宣言してしまうのでした。

ったく、珍しく純情なオッサンかと思ったら、厚かましくて、暑苦しくて、見苦しい、いつもの安部徹(が演る役と同じ)じゃんか!

結納の日取りが決まってヤレヤレと思っていた妹のところへアサリ屋・木村玄(木村元)が恐怖の手紙をもってきます。なんと、絶縁したはずの栄二がまたもやお金をよこせと言うのでした。お姉さん、今度は引きません。妹は絶望的な気持ちになりますが、お姉さんは腹をくくります。お姉さんは短刀を買いに出かけました。

お、お姉さん!いくらなんでもイキナリ過ぎです!早まっちゃいけません!

刀屋の番頭さん・玉川良一(よっ!職人芸!)は守り刀を買いに来たと思ってますから、お姉さん(真顔)の「これで一突きしたら人は殺せますか?」というドン引きな質問にもジョークで返します。おまけに人の刺し方まで伝授してしまうのでした。

結納の使者と入れ替わりに栄二がやってきます。お父さんは怒鳴りつけて追い返そうとしますが男子と男子の対決は腕力が勝負となりますし、やっぱ息子ですから冷酷なことは言えません。お姉さんが直接対決することになりました。栄二は思想犯として捕まったらしいので「貧乏人を救済するための資金」だと言い張りますが、ならまず自分の家を救っていただきたいものだとお姉さんは主張します。

そーだ!頑張れ!お姉さん!観てる方は全員、お姉さんの味方です。

居直った栄二は、次は妹の嫁ぎ先に金をもらいに行くとほざきました。妹のシアワセを奪うのだけは許さん!お姉さんは帯に隠した短刀で栄二に突進!あわやというところで栄二は手傷を負っただけでセーフ。お姉さんは「お兄さんを殺して自分も死ぬ」と叫びます。栄二も極悪人じゃないので、お姉さんっていうか上の妹の一生懸命さと下の妹のシアワセを心から祈って一家の前から去っていきます。

なんか、実はいいヤツだったんじゃん?栄二ったら。だって、おしずが出て行く栄二に「兄さん!」って叫ぶところ、マジで泣けます。なんだかんだ言っても、家族だし、兄弟だし。腐れ縁でも身内だし。

一部始終を物陰から見ていた貞二郎はお姉さんの真心に完全にノックアウト、出て行く栄二に「おしずの婿」だと名乗るのでした。友吉とおたか、貞二郎とおしず、お父さんはちょっと寂しいですが万事めでたし、めでたし。

お姉さんと栄二の修羅場に偶然遭遇した貞二郎がなかなか助けに入らないので、なんだコイツ弱っちいな!とか、じれってーなーと思ってましたが、それだけお姉さんの迫力が凄かったということでしょう。だって、結果的にだとしても貞二郎に迷惑かけたら、やっぱりお姉さん、死んじゃうかもしれませんからね。

自己犠牲というとなんだかクサイ感じですが、この、お姉さんのやることなすことを見ていると、人を心から思いやること、多少のやり過ぎを勘案しても、人を心から愛することはなんてハッピーなんだ!と思い出させてくれます。人の世はなかなか思い通りには運びませんが、悲しいことやつらいことを共有しつつ、家族が互いにいとしみあうことの大切さを今一度、噛みしめようと思った次第です。

さて、ほぼすべての人々がシアワセになった今、一人忘れ去られた鶴村の運命は?もう、誰も気にしちゃいませんが。

2010年02月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-02-07