とべない沈黙 |
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■公開:1966年 ■製作:東宝、ATG ■製作:堀場伸世、三輪孝一 ■監督:黒木和雄 ■脚本:松川八洲雄、岩佐壽彌、黒木和雄 ■撮影:鈴木達夫 ■音楽:松村禎三 ■編集:黒木和雄 ■美術:山下宏 ■照明: ■録音:加藤一郎 ■主演:加賀まりこ ■寸評: ネタバレあります。 |
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蝶という生き物は生命感が希薄な感じがして、見るほうがいろいろと意思入れをしやすいアイテムと思われます。その、ヒラヒラと飛ぶ様が人魂にも見立てられたりします。 北海道にいるはずのないナガサキアゲハを「捕った」少年・平中実は学校の先生・小沢昭一に「それは買った物だろう」と言われ、大学の偉い先生・戸浦六宏にも完全否定されてしまいます。常識的にありえない、常識的にいないはずのナガサキアゲハはここにいてはいけない。 少年は草原でキレイな女の人・加賀まり子に出会い蝶を渡します。女の人と一緒にいた老人・山茶花究は「なぜ蝶を殺したのか?蝶は死んだら蝶ではない」と言われた少年は蝶を川に捨ててしまいます。 蝶は長崎にいます。被爆地をヒラヒラと飛んでいます。幼虫がザボンの葉っぱを食べていると、そのザボンが長崎のお土産として汽車に乗りますが幼虫に気がついた乗客に窓から捨てられてしまいます。 幼虫は山口県の萩に着きます。不思議な女の人・加賀まり子も一緒です。未亡人・木村俊恵が若い男・長門裕之と真昼間から情事にふけっています。男は未亡人に逃げようと言いますが未亡人は一緒に行きません。 若い男にくっついた幼虫は広島にやってきます。若い男は未亡人の夫を殺害して逃げていたのでした。広島の原爆の日、暑い夏の日、平和記念公園でのセレモニーは粛々と行なわれています。青年・蜷川幸雄がやってきたのはスラムのような住宅密集地です。被爆者は様々な誤解もあって、差別されています。いつ発症するわからない原爆症におびえながら、結婚も断られたりしています。青年は若い女性・加賀まり子に結婚を申し込みますが女性は承諾しません。 若い女性は突如、絶叫するのでした。 幼虫は京都に来ました。ザボンの柄のカサをコールガール・加賀まり子にプレゼントした中年男・小松方正は彼女を抱きます。しかし、突如降ってきた雨に軍隊時代の虐殺の経験を思い出し、錯乱してしまうのでした。 大阪では冴えないサラリーマン・渡辺文雄が女・加賀まり子の顔がクローズアップされた大きなポスターの前に立っていました。サラリーマンはキレイな女と一夜を共にするという妄想を抱きますが実際は通天閣の近傍にあるボロアパートでブサ女と寝てしまいゲロを吐く。 ここから幼虫は突如、香港へ飛んでしまいます。 香港の麻薬組織のボス・水島弘に報告されたところによると、幼虫そのものが麻薬取引のための暗号だということでした。麻薬の争奪戦の舞台は横浜へ。 運び屋・田中邦衛が突然殺されたり、うっかり幼虫がくっついてしまった男は殺し屋・日下武史についうっかり射殺されてしまうのでした。 幼虫は東京へたどり着きます。 国会では大混乱の中、日米安保条約可決。戦車が池袋を走り抜ける状況。それを見つめていた権力者らしき老人・千田是也、東野英治郎は「幼虫が蝶になっては困る」と呟きます。サラリーマンたちは思想もなく、不毛な日々でも「年収のことを考えたらカッコよく生きるなんて割に合わない」とぼやきながら酒を飲んでいます。 長崎から旅立った幼い虫が戦後からジワジワと現代へ旅する映画。 長崎、広島では原爆の傷跡が未だ生々しいのに、そこからはるかに物理的な距離が離れるほど、すでに戦争ははるか昔の出来事であり、人たちは今の現実を生きていて誰も、長崎や広島であったことを含めて戦争を思い出すことが無い。 思い出されては困る人すらいる。東京では戦争をまた起こすかもしれない現実が進行しています。戦後の日本に生まれたばかりの平和は、このように脆くて儚い。夢のようなモノ。ある人たちにとっては得体の知れない暗号であったり、大きく育っては困るもの。 幼い虫が蝶になられたら困る、それは日本人が平和主義者になっては困るということでしょうか。 北海道へたどり着いた(と少年は思う)蝶は殺されて標本になっていたのか、それとも空を飛んで少年に捕まったのか。 蝶は自分が手に入れたのだと言っても、大人に信じてもらえず、否定されて、ついには捨ててしまう、少年は戦後になって生まれたばかりの日本人そのものに思えました。 (2010年01月17日 ) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2010-01-17