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西陣の姉妹


■公開:1952年

■製作:大映

■製作:服部静夫

■監督:吉村公三郎

■脚本: 新藤兼人

■原作:

■撮影:宮川一夫

■音楽:伊福部昭

■美術:小池一美

■編集:西田重雄

■録音:大谷巌

■照明:岡本健一

■主演:三浦光子

■寸評:三浦光子って口元にホクロがあるので初見は木暮美千代かと思っちゃいました。

ネタバレあります。


老舗の崩壊物語。こんなキレイな娘を三人も持っちゃうなんて、ちょっと羨ましいぞ、お父さん!

戦後、西陣の高価な織物は芸妓さんたちの帯くらいしか需要がなく、街全体が不景気でした。

老舗の織り元、大森屋の主人・柳栄二郎は借金で首が回らなくなってしまい、幼馴染で同業者の義右衛門・進藤英太郎に金を借りようとしますが義右衛門もまた不況なので都合ができないとすげなく断ります。大森屋の主人はピストル自殺をしてしまうのでした。

残ったのはおっとり型の妻、お豊・東山千栄子、バツイチ(夫は戦死)の長女、芳江・三浦光子、しっかり者の次女、久子・宮城野由美子、東京で学生をしていて卒業したら結婚予定の富子・津村悠子、そして機織職人は住み込みの次郎爺・殿山泰司ら十数人。職人たちは、仕事と住処を失うのではないかと不安しきり。お葬式にもかかわらず、金貸しの高村・菅井一郎や義右衛門たちは借金の督促に来ています。高村は債権者代表みたいに偉そうですが、義右衛門は自殺の現場に居合わせた負い目があるのでちょっとは遠慮しています。

そこへ主人の妾で、元芸者の染香・田中絹代が焼香しに来ます。彼女は愛人のルールに則った(結婚したがらない、子供をつくらない、お金をかりない)美人で、本宅には玄関から入らず台所へ回るような人でしたので本妻さんともある意味、良好な関係を構築していますが、世間の目は当然ながら厳しく、弔問客の冷たい視線に晒されます。

久子は染香が遺影を見てマジで涙ぐむのを見て、染香を見直すのでした。

番頭の幸吉・宇野重吉の発案で、店舗兼用の邸宅を担保にして資金をこさえ、原材料を調達し、品物を売って借金を返済することになりました。職人達は大喜び、老舗のピンチとあって糸屋さんや染屋さんも協力的です。幸吉は、大森屋の権利書と実印をもって、こともあろうに高村のところへ行ってしまいます。期限は1カ月ですが、すんなり借金できてしまいました。

ああ、幸吉っつあん!それは罠だってば!ケンカしている相手に金を借りに行く馬鹿はいませんし、これから潰そうと思っている相手に善意で金貸す人間なんていやしません。高村の目的はズバリ、貸しはがしなのでした。

せっかく作った品物を納めた問屋が受領拒否、問屋も倒産するくらいの不況ですから、案の定、代金の回収はできず、元本はおろか利子の返済もできません。高村は意気揚々と大森屋に乗り込んできて、最初は見るだけって言ったくせに、書画骨董を全部出させて買い叩いていこうとするのでした。家と資産をまるごともっていこうとする高村に、幸吉っつあんはついにブチギレ、骨董品の日本刀を振りかざして高村に斬りかかりますが、このオヤジ、案外と運がいいのでそのまま大通りまで逃げ出します。

チャリンコでダッシュのお巡りさんに幸吉は逮捕されますが、警察も事情を聞いて気の毒がってくれたので不起訴になりました。ここんところ、ゲリラロケでしょうか?いきなりドキュメンタリータッチの絵柄でした。

破談覚悟だった三女の富子の婚約者に会うため、久子は東京へ行きますが、相手の安井・三橋達也はナイスガイだったので実家の倒産なんてノープロブレムと言ってくれ、結婚を約束してくれるのでした。ほっと一安心の久子、そして大喜びの富子でありました。

ついに自宅は借金のカタに取られてしまい、解体されてどこぞの別荘として移築される予定。それだけ立派な歴史のある建物だったっつうことですね。八方塞の大森家、しかし染香がお金を持ってきてくれます。それは亡き主人が買ってくれた妾宅を売って、大森家に「お返し」するお金だと言うのです。

なんという立派な女子でありましょうか!そんな染香に手を出そうとした高村なんて斬られちゃえばよかったのにぃ!

職人たちは退職金をよこせと団交しにやって来ます。染香からもらったお金も無くなりました。そして、重篤だったお豊も死んでしまいます。富子は安井と結婚するために東京へ、見送る久子は「二度と西陣に戻ってくるな」と言うのでした。そう、もう戻ってくる家も家族も、そこにはいないのです。

久子は生活力の無い姉の芳江と結婚して欲しいと、幸吉に頼みます。幸吉は久子が好きだったのですが、久子の頼みなので受け入れます。

職人たちも、奉公人も皆、西陣を去っていきました。かすかに残った自宅の敷石すら引っ剥がされてしまいます。戦後のモノ不足なのである意味、エコロジーな感じですがそれはともかく、久子は解体現場を一度も振り返らずに遠くの親戚を頼って歩いていくのでありました。

住み込みの職人だった初絵・日高澄子が夜の女になったのを連れ戻そうとした久子に彼女は叫びます「立派な職人になろうと努力したのにすべてがパーだ!」と。職を失うということは、自分自身を否定されたようなものでありますから、特に職人と呼ばれる人はそうです。

失われていくもの、変わっていくもの、文明社会ではやむをえないことでありましょうが、変わらないもの、それは人間の真心であります。世間からはさげすまれている染香の気風に惚れちゃいました。

名古屋で事業をしている幸吉のお兄さん役で近衛敏明が出てきます。新東宝に行ったときには「なんだかなあ」というエロいオヤジ(という役が多かった)でしたが、本作品では弟のためを思い心からの忠告をしてあげるステキな兄貴でした。不当な解雇に憤るプロレタリアート代表は、飛び切り若い伊達三郎。後の因業なイメージは全然なくて、フランス映画に出てきそうな彫りの深い二枚目でした。これもヒトツの世の流れかと、視覚的に実感した次第です、後の世の観客としては。

2009年12月14日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-12-15