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おとし穴


■公開:1962年

■製作:勅使河原プロダクション

■製作:大野忠

■監督:勅使河原宏

■脚本: 安部公房

■原作:安部公房

■撮影:瀬川浩

■音楽:武満徹

■美術:山崎正夫

■編集:守随房子

■録音:奥山重之助

■照明:久米光男

■主演:井川比佐志

■寸評:

ネタバレあります。


おとし穴ってつまり、罠のことです。

この映画には幽霊がいっぱい出てきますが、ちっとも幽霊っぽくありません。ヒュードロも、うらめしやもありません。日常に、ごく普通に生活しています。

炭鉱を逃げ出してきた男、名前も分からない男・井川比佐志は息子・宮原カズオと、一緒に逃げてきた男とともに「石炭の鉱脈がある」と農民を騙して寝る場所とご飯をもらい、穴を掘って働いていました。どうせバレてしまうウソなので、男と息子はまたもやトンズラし、「組合のあるしっかりした会社」に就職すべくバスに乗り、港湾作業員のキツイ仕事にありつきます。

男は会社から仕事を紹介され、息子を連れて山へ行きますと、そこは事故が続いて潰れた鉱山で人は住んでおらず、ただ一軒残っている駄菓子屋に女・佐々木すみ江が住んでいるだけでした。男は一本道を歩いていて、背後から来た白い服の男・田中邦衛に刺されて泥沼の淵で息絶えます。息子は一部始終を見ていました。駄菓子屋の女も見ていました。白い服の男は女に口止めをして金を置いて去っていきます。

男は幽霊になってしまいます。幽霊になると、さっきの廃坑の町がいやに賑やかです。死者たちは死んだままの状態でそこに「住んで」いるのでした。警察が来ます。ドスケベそうな駐在所の巡査・観世栄夫の電話で県警らしいところから鑑識と一緒に新聞記者・佐藤慶がやって来ます。

死んだ男の顔は大きな炭鉱の組合長、大塚・井川比佐志(二役)らしかったので記者が電話すると本人はぴんぴんしていました。男は組合長に間違われて殺されたらしいです。組合は第一と第二に別れていて仲が悪く、殺された男にそっくりだったのは第二組合の組合長だったため、大塚は第一組合の組合長を疑います。新聞記者も組合同士の対立が背後にあると思います。

巡査は駄菓子屋の女を強姦します。女は金欲しさに目撃した犯人の人着を「炭鉱夫」だと嘘の証言をしていました。白い服の男に言われたとおりにしていました。しかし白い服の男は女を殺してしまうのでした。

映画の最初のほうは、貧困問題を取り扱った社会派のアレかと思ってましたが、男が幽霊化してから後はなんともシュールな展開です。女が殺されたと自覚する場面も、悲壮感も無く、ごく日常のエピソードがごとく展開します。男は落盤事故で死んだ幽霊仲間から、死んだときの感覚や状態が永久に続くと教えられます。

大塚は第一組合長の男と、目撃者である女が住んでいる駄菓子屋で話し合おうとやってきますが女はすでに殺されており、大塚が父ちゃんにそっくりだったので駄菓子屋に来た息子は声をかけられると逃げ出します。第二組合長と大塚は言い争いを始めてしまい、最初に男が殺された沼で、男が殺された凶器で大塚が刺され、逆上した大塚が第二組合長を殺してしまいます。

廃坑の町に生きている者は、あの、最初に殺された男の息子と、全てを遂行し見届けて去っていく白い服の男と、死体というご馳走目当ての野犬たちだけになりました。白い服の男はスクーターで去って行きます。駄菓子屋の女はシュミーズ一丁でダッシュして後を追います。生きてるときはグダグダしてたくせに、死んだらやたら元気な彼女です。息子は駄菓子屋でお菓子をたっぷり万引きし、泣きながら町を走り出ます。

勅使河原監督、というかATGは「穴」が好きみたいです。穴に落ちたり、埋まっちゃったり、埋めちゃったり、人間の通常の生活にぽっかりと空いた異次元空間にハマることを不条理映画とかシュールとか言うらしいです。同じ監督のほかの映画とは違って、小賢しいところが無く、幽霊がどうして自分が殺されたのか?を犯人に直接質問する、当然ですがコミュニケーションは成立しませんですが、いちいちメモしたりしてますから報告の義務があるのでしょう、謎の組織のエージェント、きっとたぶん体制側のナントカがビジュアル化されてんでしょうが、真っ白な服に手袋というブルジョワな感じというストレートなところもわかりやすいです。

単純とも言いますが。単純な語り口で展開される、超現実。

経済的に死んでる町に、生命的に死んでる人たちで賑わっているというアイロニー。死んだときに空腹だと死んでも空腹なままだということは、貧困は死んでも貧困ということですから、こらもう絶望的しかも永続的な絶望です。死んだときにあられもない格好だとそのまんまというのもありますし。

井川比佐志=冴えない男、ほとんどすべての市井の人間の代表が、突如として巻き込まれる超現実。それが「おとし穴」の正体。

物凄いブラックユーモアであります。奇抜でなく、これは大変に良質な喜劇でありました。

2009年12月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-12-06