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宗方姉妹


■公開:1950年

■製作:新東宝

■製作:児井英生、肥後博

■監督:小津安二郎

■脚本: 野田高梧、小津安二郎

■原作:大仏次郎

■撮影:小原譲治

■音楽:斎藤一郎

■美術:下河原友雄

■編集:後藤敏男

■録音:神山正和

■主演:田中絹代

■寸評:

ネタバレあります。


宗方家のお父さん・笠智衆が癌で余命いくばくもないことをお父さんのご学友である大学教授・斎藤達雄から聞いた姉妹の姉、節子・田中絹代は京都に住んでいるお父さんとなるべく一緒にいようとします。お転婆な妹の満里子・高峰秀子にはお父さんの病気が深刻なことは当然秘密です。満里子は顔に出やすいタイプ、お父さんに病状の悪化を知らせないようにするためです。

しかし満里子はそんなことおかまいなしの天然なタイプ。節子の昔の恋人、田代宏・上原謙が神戸で商売をしているので、ちょくちょく遊びに行ったりしています。田代はフランス帰りのハンサムなのでセレブな若後家の真下頼子・高杉早苗からもモーションかけられたりしているので、姉思いの満里子は気が気じゃありません。

勝手にお姉さんの日記読んじゃう満里子の無神経さはどうしようもありませんが、動機があくまでも純粋なのでまだ許せます。自分ことを名前で呼ぶ女は、同性からの反感を買うものですが、男子には概ね好評のようです。だから男子は・・・(以下自粛)。当然ですが、満里子=デコちゃんくらい「超カワイイ」場合に限定です。

節子はすでに結婚していて、亭主の三村・山村聡は現在無職。毎日、猫と遊んで酒飲んでばっかいます。家計を支えているのは節子で、バーを経営しており、満里子もそこの従業員です。バーには特攻崩れの前島くん・堀雄二がいます。彼もまた三村と同様、復員してきたら働き口が無いのでとりあえず節子のバーでバーテンダーをしているわけです。

満里子は「マスオさん」してるくせに態度のデカイ三村が嫌いです。節子は今でも田代のことが好きに違いないのですが、飲んだくれの三村にかいがいしく尽くしています。ある日、満里子は田代に強引なプロポーズをします。本当はお姉さんとくっついて、義兄の三村がいなくなってほしいのですがどうやらそうはならないとわかったので、はなもちならない(と、満里子には思える)頼子にもって行かれるくらいなら、自分が結婚してやる!という実に単純な思考回路なのでした。

お父さんは実は、自分の余命が少ないことを感じ取っていました。しかし、お父さん、波乱万丈な娘達とは違って実に人生を達観しています。節子は自分の内なる悩みも相まって思わず涙してしまうのでありました。

三村も実は節子の日記を読んでいたので、田代との仲を疑っていました。ついに忍耐の限界に来た節子でしたが、先にキレたのは三村でした。近所の飲み屋のねえちゃん・仙石規子も褒めるほどの貞淑な妻、節子への引け目と、田代への嫉妬と、それよりなによりイイトシこいた大の男が日中ぶらぶらしていなければならないという自分への苛立ちが、節子へのビンタ連発(合計8発弱)に爆発。

ついに節子は三村との離婚を決意するのでした。

派手でデカイ、山村聡がちっちゃい田中絹代の顔面張り飛ばすところは思わず息を呑みました。田中絹代の頭が飛んでっちゃうんじゃないかとハラハラしました。「てめえ!何しやがるんだ!それでも男か!」と観客の怒りを一身に買った亭主の三村はそのままフラフラと外へ出て行くのでありました。

上京していた田代が宿泊している宿へ相談しにきた節子、それはもう次のステップへの明るい兆し。そこへ酒臭い三村がやって来ます。就職が決まって遠くへ行くと告げると彼は出て行きました。

泥酔の上に雨で身体の冷えた三村は家に帰り着くとそのまま心臓麻痺で死んでしまいます。

山村聡、最後に男を見せました、合掌。

節子は罪の意識から田代とは別れてしまいます。ダメンズに尽くす節子の考え方を古いと軽蔑していた満里子は、自分の意思を貫いたお姉さんを少し尊敬するのでありました。

いやあ、かわいいですなあ、高峰秀子。そして彼女のかもし出す現代的な空気感がイキイキと、平成の御世でも全然平気なセンスが、これまたイイ!最初は、彼女が演じる満里子の馬鹿娘ぶりに辟易するのですが、真っ直ぐでポジティブな考え方が、スクリーンからはじけてくる様で、最後のほうでは観客全員を味方につけてしまいます。

お姉さんの田中絹代ですが、またもや上原謙とは結ばれないわけですが、「別れましょう」と田中絹代に言われた上原謙が「え、またですか」という顔をするのがイヤハヤなんともという感じです。て言うか、節子って結局何がしたかったのか?よくわかんないんですよね。熱烈大好きだった上原謙と結婚に踏み切れなかった理由もよくわかんないし、上原謙のほうにも責任あるのか?ないのか?なんで三村なんだ?とか。意地になって三村に尽くしてたような気もするけど、なんとも中途半端な印象でした。

その反動かもしれませんけど、高杉早苗の凛とした感じのほうがレベル高でした。ステレオタイプな高ビーと思わせて、大人の女の魅力爆発でした。

この映画で一番のもうけ役は山村聡でした。イケてるガタイとマスク。ヤサグレていたのは実は大好きな節子を幸せにしてあげられないジレンマ。本当は申し訳ないと思っていてもそれを言い出せないのは、男のプライド。痛いところに塩を塗りこんで、ある意味夫婦和解のチャンスを奪っていたのは満里子のコドモなストレートさ。大人の男女には子供がクチバシ突っ込んじゃいけないデリケートな部分があるということを、分かって欲しかったのについにそれを果たせず、身を挺して節子を送り出そうとしてのに・・・大人の男のプライドに押しつぶされて自滅する、そんな弱い男子に大人の婦女子の腰は蕩けるものなのです。

ところでお父さんの癌はどうなったのでしょうか?何時の間にやらウヤムヤになっているような・・・。

2009年11月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-11-15