「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


海よ俺らの歌に泣け


■公開:1961年

■製作:千代田映画、新東宝(配給)

■製作:吉野達弥、風祭清隆

■監督:田口哲

■脚本:田代淳二、田口哲

■原作:

■撮影:柾木四平

■音楽:吉野達弥

■美術:

■照明:小原悠平

■録音:山王スタジオ

■助監督:

■主演:白根一男

■寸評:白根一男さんは現役バリバリです。

ネタバレあります。


埋もれていたプリントが発見されるのは考古学のようで興奮します。しかしながら必ずしもお宝が発見される、いわんやお宝と認定してよいものかどうか?というある種の博打であることも確かです。その前に、なぜ埋もれたのか?という原因を考えてみれば分かりそうなものですが。とまれ、観ないでアレコレ言うのはペラペラの映画ジャーナリストのすることですから、日本映画ヲタクとしては観ずにはおられません。責任感というヤツでしょうか、誰の何に対してのアレだか分かりませんけど。

若い頃の白根一男は、くりいむしちゅーの上田隆也にやや似ています。今は似ていません。

声だけは聞いたことあるよなあ、と思いましたが昭和歌謡曲の歌唱法ですのであまり確信的ではありませんが、調べたら「次男坊鴉」でした。

船員の白根一男は歌が上手だったので、興行師の目に留まります。父親は釣具店を営んでおり、きっとたぶん足が不自由な特徴から推察するに元は海の男であったのでしょう。息子が一人前の船乗りとなるよう、苦しい家計から商船学校へも行かせてもらっています。

硬派に育てたはずの息子がチャラい歌手(海の男は非チャラい系)になるなんてお父さんの反対は凶行でしたが、母親と妹がバックアップ。白根は作曲家で自らバンドを率いている小松方正に見出されてキャラバンに加わるのです。しかし場末の興行でも客の入りは今ヒトツ。酔客のオゲレツ視線もたまりません。女性歌手や踊り子さんたちは、華やかな東京へ出たほうがチャンスが多いと悟って退団してしまいます。ますます落ち目の小松方正ですが、白根一男は好きな歌で食っていける日を目指して磯でトレーニングを積むのでした。

その姿が偶然にも東京の某有名レコード会社、東芝ですが、部長の目に留まります。しかし楽団は出発の時間が迫っていたので会うことはできませんでした。部長は、白根一男のバツグンの歌唱力が忘れられませんでした。

東京へ出た楽団でしたが仕事はありません。しかたなく昔馴染みの元歌手、左京未知子とその娘の万里昌代が経営しているスナックの2階に居候します。小松方正の母親が危篤となり、楽団を離れたことで楽団員たちはますます経済的にピンチになります。白根一男に惚れている万里昌代が紹介した新人歌手のオーディションは偶然にも、あの磯ですれ違った部長の会社でした。しかし、ここでも部長は会えずじまい。

じれったい展開です。おまけに白根一男が天文学的に下手糞な「緊張して歌をトチってしまう演技」をするものですから、見ているこっちはさらにイライラします。

千葉方面で流しのバイトをする楽団ですが、白根一男はふとしたことからダンディでキザな地元の紳士、天知茂(特別出演、なのにビリングは二枚看板)に出会います。顔が濃くて殺陣の上手なチンピラたちに白根一男が絡まれたところを、60年代ムード満載のトロくさい技斗で助ける天知茂は、カッコいいんだか、カッコ悪いんだか判断に迷いますが、結局、これといって白根一男を助けることもなく「夢をあきらめちゃいけないよ」と優しく励ますのでした。

ボロアパートに帰ってきた白根一男を迎えたのは万里昌代でした。東京でレコード会社の部長とコンタクトが取れた彼女の紹介で、やっとこさ部長と出会えた白根一男は、歌謡コンクールへの出場を果たします。テレビデビューが約束されたその会場に、大反対していた父親、母親と妹も駆けつけます。これで父と子のわだかまりも解消されるのでしょう、経済的にも恵まれ、なおかつ楽団員たちからも暖かいエールを送られて、よかったね!白根一男!

筋立てだけ見ると、歌謡曲映画として成立していますが、お父さんのエピソードも、小松方正のアレコレも、万里昌代とのメロドラマも、何一つドラマが無い映画なので、はたしてこれを映画と呼んでいいのかどうか迷います。

いっそ、プロモーションビデオとかのジャンルに入れてはどうでしょうか?しかもマイケル・ジャクソン登場以前の。

MジャクソンのMV(BAD)で、ウエズリー・スナイプスがデビューしたり、マドンナのMV(BAD GIRL)にクリストファー・ウォーケンが超カッコよく出演していた例もあることですから、白根一男のMVに天知茂と万里昌代が出ていたって不思議じゃないわけで、いわば先駆者的な作品なんだと思えば、なんだかお得な気分になってきませんか?なりませんか?

ドラマが無いと断言しましたが、技斗も悲惨でした。

ですが、新東宝の体育会系、泉田洋志と天知茂のカラミだけは一応映画っぽくなってました。っつーか、なんで主役が全然立たないんだ?と不思議ではありましたが、まあ、そんなことはどうでもいいような気がします。

唯一の救いは白根一男の歌が上手いことでしたが、まあ、そうでなければ映画の企画そのものが立ち上がらなかったかもしれませんけども。映画の中に繰り広げられる往年の新宿コマ劇場的ムード、歌手のワンマンショーの添え物芝居とかの空気感をじっくりとお楽しみください。

だって客層がほとんど同じだもん。

2009年09月06日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-09-06