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異常性愛記録 ハレンチ


■公開:1969年

■製作:東映

■企画:岡田茂、天尾完次

■監督:石井輝男

■脚本:石井輝男

■原作:

■撮影:わし尾元也

■音楽:八木正生

■美術:鈴木孝俊

■照明:和多田弘

■録音:荒川輝彦

■助監督:篠塚正秀

■主演:若杉英二

■寸評:「ユタニ家具センター」とタイアップ。

ネタバレあります。


若杉英二、以前は天城竜太郎という芸名の時もありました。経歴をサクっと調べても、元は普通のサラリーマンだった人で、松竹大船へ入社後は主演作品もある二枚目俳優でした。縦横ともに大柄でパッチリとしたキレイな二重の眼で、明智小五郎の役なんかもやってました、つまり青少年のヒーローでもあったわけです。次に移籍した新東宝でも概ね二枚目の役どころで活躍、多少目張りが濃い人でしたけれど。そして東映(ただし主にニュー東映、第二東映)に来てからは脇役でしたがそれでも普通の人の役でした。

それが、どこをどう巡り巡ってこのような役をやることになったのでしょうか?俳優さんにそういうことを訊くのは野暮ではありますが、しかし、確かに俳優さんとしてはジリ貧という気もしないでもないし、二枚目を張るにはすでに年齢がアレだし。

だからといって、変態の神様=石井輝男にその将来を預けてしまったというのが凄すぎです、何が凄いのか?は怖くて言えませんが。時代劇や現代劇の元二枚目が、変態SMプレイに走るという衝撃、本作品は確かに馬鹿馬鹿しくて仕方の無い映画ですが、若杉英二の俳優人生に鑑みるとかなり切ない映画です。

21世紀においては、この男=主人公の行為はストーカーということになるので犯罪になります。

典子・橘ますみには老舗の染物会社の経営者、深畑・若杉英二という恋人がおりました。恋人ってもどこでどうやって知り合ったとかぐちゃぐちゃしていてよく分かりませんが、知りたくもないですが、そんなイキサツがどうでもいいくらい、深畑は典子ママを終日監視していたり、合鍵を持っているので典子ママのアパートで帰宅を待ってトイレにまで一緒に入ろうとするくらいの「愛してるんだよ〜ん」パワーが変態レベルまでに高まっています。しかし、典子ママは神様のような母性本能で、このド変態がママに冷たくされると流す涙に絆されていつまでも別れられないのでした。

深畑は驚くことに妻子持ちです。しかし妻は夫の浮気を知りながら放置プレイ、病弱な妹がいて、彼の家庭は冷え切っています。しかし商売だけは、社長がこんなでも老舗の信用でなんとか上手く行っているようです。

今日も今日とて深畑は典子ママをストーキングしますが、ママは「お父さんの病気見舞い」を理由に外泊してしまうのでした。当然、そんなのウソで典子ママは二枚目のデザイナー、吉岡・吉田輝雄を好きになっていました。典子ママの告白を聞いた吉岡は、別に吉岡じゃなくても店の常連の寺内・小池朝雄でさえ同情するほどの恋人=深畑の変態ぶり。「早く別れなさい」と、なんなら僕が話をつけようかとまで言ってくれるのですが、典子ママとしては、深町が逆上して何するかわかんないことの恐怖と、処女を捧げちまったという事実が、あっさり&スッパリな別れを切り出せずにいるのでした。

典子ママはダメンズにくっつく典型的なタイプ、私がいなきゃダメなんだとかそういうレベルの低いプライドを持つ客観性ゼロの女性なのですが、うっかり妊娠してしまいさすがあいつの子供を産むのは正直どうもというというギリギリの理性のおかげで、産婦人科医・沢彰謙により堕胎します。生きるか死ぬかの危険な目に遭っている最中、深畑は典子ママとの別離に耐えかねたのでしょうか、元々相手は誰でも良かったのでしょうか、それにしてはゲイボーイの好みも難しそうですが、ブラとパンティをつけてホテルでSM変態プレイに興じていたのでした。

深畑が手足舐めたり、鼻毛のアップを撮られちゃったり、そんなものはほんの序の口でした。汗だくになりながらオカマとSMプレイを延々と繰り広げているのを見ると、むしろ怖いとか汚いとかそういう気持ちではなく、ただただ気の毒で気の毒で、泣けてくるほどです。典子と吉岡が郊外のホテルに一泊し、朝日を浴びながらの公道上での(え?)ディープキスだって、露出狂の気が否定できないような気もしますが、本作品の90パーセントは深畑の乱痴気騒ぎなので全然気になりません、相対評価においては。

ついに深畑と本気で別れる決心をした典子ママ、当然ですが深畑は許しません。自分も死ぬ!と叫びますが、本気で死ぬようなヤツは予告なんかしません。雷雨の中、典子ママを待ち続けた深畑は目の下にパンダのような物凄いクマを作って、飛び出しナイフ片手に吉岡の住むアパートに向かうのでした。

最後は深畑と吉岡の一騎打ち。女子から見ても羨ましい吉田輝雄(当時)のスマートなウエストの優に5倍はありそうなジャンボな体躯の若杉英二、あの、長身な吉田よりもさらにノッポの若杉が華奢な吉田の背骨をへし折りそうな迫力でしたが、運動神経が今ひとつだったようで技斗のレベルとしては二人の表情の作り込みのわりには淡白でした。

しかしというか当然の成り行きとして神様は吉岡に味方しました。落雷で帯電したらしい外廊下の手すりで感電して黒焦げになり、アパートの2階あたりから転落死する深畑に、情け容赦の無いホース雨が降り注ぎます。吉岡と典子ママはシッカリと抱き合うのでした。そんなもん目の当たりにして「もう離さないぞ!」と言い放つ吉岡、本当にこの二人は大丈夫なのだろうかと心配する観客よりも、あまりの馬鹿馬鹿しさにヘソで茶を沸かす観客のほうが大多数というエンディングでした。

時代劇が似合う古風な美人顔の橘ますみを執拗に愛撫する若杉英二ですが、しかし、よく見てみると橘ますみがパンツ脱がされるシーンがあまりありません。むしろそのほうがリアルに変態っぽくて、逆に引いてしまうほどの生々しさがありました。別のシーンでは可愛さ余って橘ますみを折檻する若杉英二ですが、どうにもこうにもその手の表情に殺意が感じられません。若杉英二のいっぱいいっぱいな感じが伝わってきて、その顔がどれくらい歪んでいたのか見たくもあり、見たくも無しでした。

こんな役をやってしまったらその後の若杉英二の俳優生命が物凄く心配ですが、、ほどなく第一線から姿を消してしまいました。ああ、やっぱり。しかし突如、1999年石井輝男監督の「地獄」にゲスト出演、役名が自分で名乗る「若杉英二」だったのには驚きましたが、30年くらい経ってるはずなのにほとんど外見が変わっておらず、しかも年齢のわりには二枚目できりっとした印象だったので、なんだかほっとした次第です。

結果的に俳優生命を本作品に賭けた若杉英二のそれまでの圧倒的な二枚目のキャリアを思い出す人は今ではほとんどいないでしょう。本作品が彼の代表作になってしまったという事実は今となってはもう取り返しがつかないと思うので、そっとしておいてあげることにしました。

典子のお友達の部屋には豪華な家具がありまして、曰く「ユタニ家具センターで買うたんや」なんか唐突だなあと思っていたらタイアップでした。当時、「ユタニ(湯谷?)家具」というのは関西方面で製作されるテレビドラマでもタイアップしてたような記憶がありますが、本作品が封切られたとき、社内での評判はどうだったのか、知りたいところです。

2009年08月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-08-24