女の勲章 |
|
■公開:1961年 ■製作:大映 ■製作:永田雅一 ■企画:土井逸雄 ■監督:吉村公三郎 ■脚本:新藤兼人 ■原作:山崎豊子 ■撮影:小原譲治 ■音楽:池野成 ■衣装:中村乃武夫 ■美術:間野重雄 ■照明:久保田行一 ■録音:須田武雄 ■特技監督: ■主演:京マチ子 ■寸評: ネタバレあります。 |
|
女の勲章とは名誉か地位かそれとも愛か? 戦争で焼け出された大阪、船場のセレブ、式子・京マチ子は船場を捨てて小さな家を買い細々と洋裁学校を、3人の弟子と一緒に力をあわせて経営しておりました。デザインセンスのある倫子・若尾文子、型紙製作技術を得意とするかつ美・叶順子、袋物屋さんの娘で縫製技術に優れた富枝・中村玉緒。そして大学の仏文科を優秀な成績で卒業し家業を継ぐかと思いきやインチキブローカーまがいのヤバイ仕事も平気でやってきた銀四郎・田宮二郎は経営の手腕を式子先生に買われていつのまにか側近となっており、3人のお弟子さんたちはなんとなく面白くない。 あまり人を疑うことを知らない式子お嬢様に対して、腹に一物ある3人のお弟子さん達は、洋裁学校から服飾学院へと拡大していく過程でいよいよ女の本性丸出しになっていきます。そもそも手に職をつけて自立しましょうという女性たちですのでヴァイタリティは人一倍ですし、男に牛耳られることを素直に受け入れるとも思えません。 田宮二郎、のっけから徹底的なお調子者ぶりをスパークです。今、あれだけの台詞を立て板に水でやってのける俳優さんはあまりいないでしょう。京マチ子がコロっといってしまうのも無理ありません。 貧乏アパート暮らしの倫子は繊維会社の宣伝部員、野本・内藤武敏と肉体関係があって、そのツテで、式子先生に恩を売ろうとしますが銀四郎に見破られてしまいます。銀四郎は自分の野心を満たすためだけに事業を拡大し女を抱くタイプの打算的な人間だったので、同じ思考の倫子はすぐに共犯者となります。 技術職であるかつ美は学院のチェーン展開により、分校の校長先生になります。元々、あまり欲の無いかつ美ですが銀四郎は、支配下に置くために肉体関係を持ちます。そして最後に残ったのが、ドン臭くてノンビリした富枝でしたが、彼女はファッションを切り売りするのではなく自社製品として売り出したほうが実入りがいいし、製造工程を管理することで品質の向上が達成され、ブランドの価値も向上するというビジネスモデルを銀四郎に提案するほどの実業家でした。 銀四郎と寝ることさえも、あくまでも彼女としては、このチームのワークフローに従うだけという徹底ぶりなので、ビジネスも色恋もヤリ手の銀四郎ですら呆れてしまうのでした。 銀四郎のビジネスセンスは決して悪いものではありません。マスコミを味方とすべく大学の同期で新聞記者の曽根・船越英二を式子先生に引き合わせて提灯記事を書かせ、関西ファッション業界の大ボス・細川ちか子や、ライヴァルでベテランで同じく重鎮とおぼしき康子・村田知栄子が、新人つぶし(式子先生の学院のことですが)のために企画したファッションショーを逆手にとって、式子先生を新進気鋭のデザイナーとして売り出しに成功します。 銀四郎に身体を許したっていうかほとんど強引に処女(え?)を奪われた式子先生。まるで少女のようだった最初の頃とはうってかわってグッとエロい感じになっていきます。このあたり、海千山千の3人のお弟子さんたちのほうが経験豊富でしたので銀四郎と関係もっても平然。学園の理事長として銀四郎がステータスを利用したのは、仏文学者で大学の恩師で京都のボンボンであった白石教授・森雅之でした。 田宮二郎と船越英二と森雅之と一緒にお食事する京マチ子っていうか式子先生、一生に一度でいいからこんな昭和のイケメンたちと食事をしてみたいもの、まさに式子先生、人生で絶頂の瞬間なのでした。 フランスで気難しいデザイナーから型紙の提供を受けるために渡仏した式子先生と繊維会社の社員・杉田康ですがイマイチ商売がうまくいかないので、同地に滞在していた白石教授に援助を求め、見事に商談成立、そして式子はインテリな白石教授と結ばれてしまい、結婚の約束をします。 せっかく稼ぎのいい牝を手に入れたのに他の雄に奪われてはタイヘンと、まるで群れを率いるライオンの雄と同じ心理状態に陥った銀四郎は、別れ話を持ち出してきた式子先生に慰謝料を請求、他の弟子との関係がバレても開き直って啖呵の切りまくり。式子先生の全財産はすでに抵当に入っておりさらなる莫大な借金生活になる予感、それを目の当たりにした白石先生は「僕と君とでは住む世界が違う、借金返すために一生懸命働きなさい」という言葉を残してあっさりと婚約解消。 京都に親からもらった大邸宅(庭の池に巨大な鯉が多数遊泳)はあるけど、かつて女房が若い男に走って自殺してからなんとなく落ち目の白石教授。もしアンタがちゃんとした男なら「全財産を投げ出してでも君を助ける!」くらいのことは言いなさいよ!まったく、映画の中で森雅之が頼もしいと思ったことなんて一度もないわ!50ヅラさげてまだ優柔不断のアンニュイで世間が許すとでも思ってるの?要するに打算で人を愛したってことよね?インテリが聞いて呆れるわ、本当にアンタってサイテーね! ・・という風なことを言える式子先生ではなかったのでそのストレスは彼女の内へ内へと向かうのでした。服飾学院の本校に掲げられた、式子先生の紋章のステンドグラスの前で、学校の備品であるボディをハサミでメッタ刺しにする式子先生。このシーン、かなり怖いです。 華やかなファッション業界の裏側がドロドロなのは、本作品のファッションショーのシーンでも赤裸々です。モデル・市田ひろみが直前にネックレスを破壊してしまい泣きながら拾っているかと思いきや、ステージでは何事もなかったようにウォークする。まさに、女の戦場。そこで式子を含めた女たちが手にした勲章とは? 式子先生がもっと打算的な人だったら、自決の道は選ばなかったかもしれません。 さすがにヤバイと思ったのか銀四郎は式子先生の死を芸術家の精神的な行き詰まりによる発作的な自殺とマスコミに発表しますが、裏事情を知っていた曽根からは罵倒されてしまい、ついに銀四郎のマジックは消えてしまうのでした。3人の弟子は銀四郎を置き去りにして式子に死に化粧をしてあげるべく霊安室へ向かいます。 稼ぎ頭を失い、その弟子たちからも総スカンを食い、友情をドブに捨て、恩師との絆も断ち切った銀四郎の未来はどうなるのでしょう?ドライというより索漠という言葉がピッタリくる彼はきっとこれからも一生、渇き続けるのでしょうね。そして倫子は、冴えなくてチビで小太りで額の生え際が危険水域だけど声のイイ野本さんと復縁しなさい。アナタに踏まれても蹴られても彼ならきっと支えてくれそうよ。 スカしたスーツよりも、くたびれたランニングシャツ、なんか夢も希望も無いけれど現実なんてそんなものかも。 虚業に生きる人たちのドロドロした生態がハイテンションで駆け抜けます。田宮二郎の細マッチョな上半身にドキドキする婦女子多数で今後の出世を充分に予見させます(そうでしょうか?)。池野成の楽曲が情念ドロドロな映画の空気を過剰に盛り上げて素敵でした。ファッションショーの取材というかスタッフの中に仕出し時代の中条静夫を発見。「透明人間と蠅男」のときは田宮二郎が仕出しだったのにねえ・・・。 (2009年08月10日 ) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2009-08-11