「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


若い狼


■公開:1961年

■製作:東宝

■製作:金子正且

■監督:恩地日出夫

■脚本:恩地日出夫

■原案:

■撮影:逢沢譲

■音楽:間宮芳生

■編集:

■美術:竹中和雄

■照明:森弘充

■録音:斎藤昭

■特技監督:

■主演:夏木陽介よりも星由里子

■寸評:夏木さんと星さんのキスシーンは連続23秒程度でした。

ネタバレあります。


恩地日出夫、監督昇進の記念作。ちなみに助監督は同期の森谷司郎。

川本信夫・夏木陽介、年少出たのはいいけれど、故郷の炭鉱は廃坑寸前、父親は音信不通、幼い弟妹がいて、一人残った母親・菅井きんは毎日日雇いで息子のことまで手が回らず、再会を約束した幼馴染の道子・星由里子は東京へ出たっきり。働くにも働けず、隣近所からも白い目で見られる、八方塞の信夫は、転勤した恩師・小栗一也と道子を頼ってひとまず東京へ。

元同級生で、今は大学生になっている福井・鈴木和夫は新宿から四谷あたりの盛り場をうろつく不良学生になっており、道子はズベ公たちの姉御におさまっていた。わずかな間に自分を取り巻く環境の変化に戸惑う信夫である。福井はヤクザのチンピラのさらにその下のカスだが、一応、彼らをバックにしているので金回りは良い。信夫と道子は下宿代をピンハネされてもとにかく二人で堅気の生活を送ろうと決意。

が、しかし、少年犯罪は前科にならないというのは建前であることをイヤでも知ることになる信夫。少年院にいたときは、ある意味、みんな平等だったが、一般社会はそうはいかない。犯罪者と犯罪者でないものの差はまさに天国と地獄。賃貸入るのだって保証人が必要だし、就職活動するためには米穀通帳つまり身分証明が必要、頼みの恩師も現在は入院中であり親切な隣のベッドの入院患者・織田政雄も少年院にいた経歴では就職の斡旋もできない、と。

イイ若いモンがフラフラしてると、怪しいヤツに捕まっちゃうもので、地元のヤクザである貝山一家が養育しているチンピラ集団の白狼会を仕切っている坂田・西村晃という男に偶然出会った信夫は印刷工場への就職を世話してもらうが、今度はそこの従業員・佐田豊からスト破りの手伝いになるからやめて欲しいと懇願される始末。

一緒に少年院を出た桜井・田中邦衛は、貝山一家に対抗している新興勢力の田波一家が組織している柏会に入会。桜井は本当にイイヤツで、ヤクザになろうかと迷い始めた信夫に対して、普通の生活への憧れと現実を語り、信夫の堅気決意にエールを送ってくれるのだった。さらに、柏会の幹部である有沢・飯田紀美夫はズベ公たちと紳士的に付き合うし、道子の相談相手でもあったので、自らもまた少年院上がりという過去を持つため「ヤクザになんかなるな」と信夫を諭してくれようとさえするのであった。

元はヤクザだが今では右翼団体に転進し、アカ狩りというコンセプトに基づいて活動をしており、斬った貼ったの暴力沙汰を原則禁止としている柏会って、組員にもイイヤツ多いし、この映画の世界観に限定すればこういう組織に入れば信夫もなんとかなったかも?と思えてしまうほどである。

弱いものには強く、強いものにはヘラヘラする頭の痛い野郎である福井は、白狼会と柏会の両方に出入りしていたために、柏会会長・中丸忠雄に説教された挙句にぶっ飛ばされてしまうのであった。それを逆恨みした福井は、白狼会と小競り合いを起こした子分たちを助けようとして逆に白狼会に付け狙われることになった有沢の居場所を坂田にチンコロするという所業に出る。

「テメエみたいな節操の無いヤツは大嫌いだ」とヤクザにシメられる福井のシーンが存外の爽快感。それだけ福井の根性が腐りきっているということでもあり、彼こそが信夫をスポイルする一般社会の象徴なのである。

結局、有沢の思いは信夫に届かなかった。

ヤケクソになった信夫は白狼会に入り、偶然参加した有沢襲撃でついうっかり有沢を刺殺してしまう。白狼会はそそくさと信夫を現場に残して立ち去る。車のボンネットに晒し者になった有沢の死体に、未来の自分を重ね合わせる信夫の視線が、物悲しいくらいの長回し。

今度は大人の刑務所に収監された信夫。残された道子は、有沢に連れて行ってもらった競馬で当てたお金を持って信夫と二人で行ったデパートで買った小鳥と一緒にパチンコ屋に就職するが、そこも追い出され雑踏の中に消えていく。

この映画は信夫の映画ではなく、むしろ道子の映画だと言える。わずか3日の間の出来事。信夫と再会してからは1日とちょっと。道子は人生最高の瞬間からふたたびどん底へ落ちてしまう。盲目のおばあさんにはどんなに苦しくてもなけなしの小銭を恵んでいた道子はついに彼女の前を素通りするに至る。

クソ野郎の福井は有沢暗殺の功績でもって白狼会で出世していくことだろう。末端の構成員一人の死ぐらいではびくともしない柏会もまた同じように堅気の仮面をかぶって勢力を拡大していくのである。

色々と詰め込み過ぎでメッセージが散漫になったような気もするが、夏木陽介のある意味、淡白でストレートな演技によってクサミがなくなった分、星由里子が俄然輝いていた。そらまあ、逆毛をたてまくった星由里子が最初に出てきたときは、何のコントが始まったのかと思ったけどさ。綺麗な顔ではすっぱな台詞を放つのが、これまたキュート。信夫の帰りをおんぼろアパートで小鳥相手に待っている姿は、フランス映画のワンシーンようにキュンとなる。

夏木陽介は一生懸命だし、顔キレイだし、映画向きの俳優さん、つまりアップに耐えられる人だとは思うが、芝居に対する思い入れが常に薄い人でもあった。表出している部分は分かりやすくていいのだが、どうして信夫が不良になったのか?が体現できていない、そこんところが物足りない、残念。

当時、すでに東宝男性アクション映画において善悪両面ともイケてる強面キャラとしての地位を確立しきっていた中丸忠雄は、ワンシーンだけでも「お、出た」と思わせる存在感であり、チンカス野郎・福井に男の拳を叩き込んだ唯一人の大人であった。当時若干28歳、どこをどう頑張ればあの押し出しが手に入るのだろうか?

途方も無く老けた大学生がいっぱい出てくる「若大将」シリーズだが、今回は少年院の同級生に田中邦衛。ティーンズは無理だろういくらなんでも。だってさあ、実年齢だと中丸忠雄よりも年長である。

最後のほうで有沢の死体にむらがる野次馬に児玉清の顔が見える。まだ、全然出てこないけど長身でハンサムなのでなんとなく印象に残る、ファンは見てみ。ほかに、白狼会のチンピラに西条康彦岩本弘司、柏会の葬儀の立ち番に二瓶正典、東宝映画のお馴染みのチンピラチームも活躍。

2009年07月19日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-07-19