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やくざと抗争


■公開:1972年

■製作:東映

■企画:俊藤浩滋、 吉田達

■監督:佐藤純彌

■脚本:石松愛弘、佐藤純彌

■原作:安藤昇

■撮影:稲田喜一

■音楽:日暮雅信

■編集:田中修

■美術:北川弘

■照明:大野忠三郎

■録音:小松忠之

■特技監督:

■主演:安藤昇

■寸評:

ネタバレあります。


東映のやくざ映画に興味がなくて、地上波テレビしか受信しない、そういう大多数の人たちにとって安藤昇はまったく関係が無いと言ってよいと思います。安藤昇を知らなくても人生にたいした影響はないかもしれませんし、知ってる人のほうが変わっているかもしれませんが、当時のアレコレを封印する人が多い中で(そらそうですね犯罪ですから)堂々と本にしてしまい、しかもそれが映画化されているということで(おまけに本人主演)、興味を持ってみると実にユニークな体験をした人であるわけですよ。

しかもね、二枚目です。おまけに他の俳優達、特に東映のそういう人たちの中にあっても、ズバリ本物の迫力、圧倒的な目力ですから、目つきの悪さではダントツの藤山浩二が甘ったるく見えるほどです。比較対象にやや難があるかもしれませんが、本当です。

冒頭、活弁・松田春翠による当時の記録映画が流れるので、時代背景がわかりやすくて親切です。昭和6年頃、映画の中ではリアルタイムなのに、どうしてあんなにフィルムに雨が降ってるんだ?とか、そういうことは気にしないように。

満州事変の頃、アカの若者三人が胡散臭い大人に唆されて革命資金強奪のために銀行を襲撃します。その大人というのは実は特高警察のスパイ、高橋・渡辺文雄でした。犯行に使われた凶器は、新宿でブイブイいわせていた愚連隊(注:死語)のリーダー、通称「爆弾マッチ」こと、松崎・安藤昇が不良学生から取り上げたパチンコでした。高橋は愚連隊のレートでは目もくらむような大金で、爆弾マッチからそれを購入し、学生たちに渡していました。

特高警察はなにがなんでもアカ学生たちを犯人にして、芋づる式に仲間を検挙したいので、拳銃を手に入れた人物が学生であるという証言を爆弾マッチから欲しいので、彼をしょっ引いて拷問します。このときの刑事役が藤山浩二だったので当時の警察の暗黒ぶりが実に良く体現されています。

フンドシをチラチラさせて(ややセクシー、かつモチ肌)吊るされて一方的に痛めつけられた爆弾マッチは、活動家たちがぶち込まれている豚箱へ放り込まれます。そこにいたのが反戦運動をしていた医者の白木・近藤宏でした。

爆弾マッチの子分たち、小光・堀田真三、勝・渡瀬恒彦、政・藤竜也らはヤクザではありませんでしたが、やってることはチンピラでした。売春宿のやり手婆・武智豊子とモメた爆弾マッチたちは、大木戸組の組員たち・土山登志幸佐藤晟也、等といざこざを起こします。そこへ、やたらとカッコいい幹部の梅津・菅原文太が現れてコトを収めてくれた上に、女と遊ぶ金までくれるのでした。

モノの本によりますと、ポーカーフェースで硬派な梅津のモデルは万年東一という実在の人物らしいです。ま、安藤昇も実在のアレですが。万年東一という人は生涯ヤクザにならず、ですがやってることはヤクザなんですけど、とにかく大物だったらしく、安藤昇(本物かつ本人)も高い評価をしていた人だそうですから、映画の中でも実質主役クラスの取り扱いです。

爆弾マッチには女郎のお栄・藤浩子という恋人がいます。彼女の実家は田舎で貧乏、おまけに兄貴は戦争に取られてしまったので、妹も身売りをする予定。なんとしても金を稼いで、それだけは食い止めたいので、一生懸命客を取って健気に身を売るお栄なのでした。

お栄の前では純情青年化する安藤昇がなんかちょっと可愛かったです。カワイイっていう年齢じゃないんですけどね、実は。でも、設定上は血の気の多い若者、なので。

爆弾マッチたちはお栄の足抜けを手伝って失敗し、大木戸一家にボコられますが、またもや梅津に救われ、白木の病院へ担ぎ込まれます。それでも懲りない爆弾マッチは、お栄のために大木戸一家の縄張りで賭場を開きますが、またもや梅津たちに粉砕され、さらに逆上した爆弾マッチは梅津に斬りかかり返り討ちにされ、重傷を負います。

お栄は大木戸一家の幹部、喜久沢・室田日出男を骨抜きにして浅草へ同伴、隙を見て行方をくらませます。腹の虫がおさまらない爆弾マッチは、ヤクザから右翼団体へ華麗に転身していた大木戸組長・天津敏の宴席に単身で殴り込みます。しかし負傷中のためあっさりと取り押さえられます。梅津は、もうヤクザじゃなくて右翼団体なんだから死傷事件はまずいし、ここまで根性のある爆弾マッチをぜひとも右翼活動家として採用しましょうと大木戸を説得します。梅津と男の友情で結ばれ、活動家となった爆弾マッチでしたが、結果的に白木と対立することになってしまいます。

選挙運動の絡みでまたもやトラブルを起こした爆弾マッチは、高橋の息のかかった警官たちに逮捕されます。このドサクサにまぎれて、お栄は喜久沢たちによって女郎屋へ連れ戻されそうになりますが、舌を噛み切って自害してしまうのでした。

薄幸の美女というには少々、顔立ちがバタ臭くゴージャスな感じでしたが、お栄役の藤浩子という女優さんは、やや中島ゆたか似で、当時ポスト藤純子の一人。台詞や声質や演技は正直どうもというところですが、映画女優さんとして不可欠のフォトジェニック度は馬鹿高いです。それに顔もちっちゃいし、背も高そうです。従いまして安藤昇の恋人役としてはややマズイ感じでしたが、昔の映画女優さんは実に女優顔だったなあと思いました。

お栄を失い、大木戸組長の命令で仕方なく白木を刺殺した盟友の梅津(白木殺害後、自害)をも失った爆弾マッチは、梅津の葬儀の席で特高警察の高橋と大木戸を刺殺しますが、組員達に刺されまくって絶命するのでした。

とにかくヤラレまくりの爆弾マッチですが、根性で不死身。無敵じゃないけど物凄くタフという役どころで、ヤンチャぶりを発揮します。対する梅津役の菅原文太はソリッドで寡黙で、かなりのもうけ役でした。白木のところにいる真面目で健気な助手の役で小林稔侍が出ています。アタマの壊れたチンピラや、オカマ掘られる気弱なチンピラ(ようするにチンピラ)ではなく、反戦活動に心酔する純粋な医者の助手という役どころは個人的に珍しかったです。

血なまぐさい抗争、字面のとおりの映画です。タイトルバックからして画面一面に血糊がボタボタですからね、その段階で不特定多数が視聴するメディアはアウトです。

戦時中から戦後にかけて、ヤクザも警察も、日本という国全体が「抗争中」だったわけで、やってることに大差なしというか、ヤクザを道具に使うというのは未だに脈々と受け継がれていて、その中で万年東一という人はすごくカッコよかった、というのが観終わった感じでした。

2009年07月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-07-05