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日本沈没


■公開:1973年

■製作:東宝

■製作:田中友幸

■監督:森谷司郎

■脚本:橋本忍

■原作:小松左京

■撮影:村井博、木村大作

■音楽:佐藤勝

■編集:池田美千子

■美術:村木与四郎

■照明:佐藤幸次郎

■録音:伴利也

■特技監督:中野昭慶

■主演:小林桂樹と丹波哲郎

■寸評:

ネタバレあります。


この映画、実に50回も劇場で鑑賞。昔は劇場に入替なんぞというこしゃくな制度は存在しなかったため、一日に2回は確実に鑑賞。そして何時の間にやら50回、若気の至りというのはこのことでありましょうな。繁栄を極める日本(当時)の映像がダイジェストに流れて、佐藤勝先生の楽曲が流れるとテンションは最高潮、準備完了。

海洋開発株式会社に勤務する小野寺・藤岡弘は、偏屈な地球物理学者の田所博士・小林桂樹、温厚な幸長助教授・滝田裕介とともに、深海底「わだつみ」に乗船し、日本海溝の最深部で巨大な乱泥流を目撃。田所博士は日本列島の水没を直感。

東宝映画において、ここまでハードな、コメディリリーフやペーソスがなく、ようするに非ほのぼの系の小林桂樹を目撃することは過去にあまり経験がない。従って、その、パラノイアとも思われる、いや実際のところトンでもない経験が多くの人を神がかり的に変質させるのと同様に、その気迫はクサミにならず、日本と日本人に対する愛情の深さをヒシヒシと感じさせる。まことにいいキャスティングでしたなあ。

上司の吉村部長・神山繁から、田舎のセレブで美人の令嬢、玲子・いしだあゆみを紹介された小野寺は葉山でイチャイチャしている最中に、天城山が大噴火。それをきっかけに三原山も噴火を起こし、熱海、熱川の一帯が全滅。事態を重く見た山本総理・丹波哲郎は、地震大国日本のパニックをおそれて非公式に調査チームを編成。その頃、田所博士は政財界の黒幕と呼ばれる百歳超の渡老人・島田正吾と面会。これは後に分かるのであるが、老人が田所の人物を見定めるための面接。

情報科学が専門の中田・二谷英明、日本のCIAこと内閣調査室の邦枝・中丸忠雄、そして山本総理秘書の三村・加藤和夫の訪問を受けた田所博士は、日本海溝の調査を秘密裏に依頼される。深海底の操艇者に指名された小野寺は強行的なスケジュールの中で探査機を日本海溝の各所へ設置することに成功。中田、邦枝、幸長たちは調査船に水上飛行機で到着、田所博士から調査結果の衝撃的な報告と予測を聞かされる。

東京を中心とした大地震のシーンは、本作品にも登場する有識者からのアドバイスを受けていたが、当時は否定的なコメントも多く、特に、空爆じゃねえんだからよー!と思われるほどの火薬とガソリンの大盤振る舞いを敢行した昭和の火薬馬鹿・中野昭慶の特撮は「如何なものか?」と公開当時は首を捻ったのだが、地下にあらゆるインフラが埋め込まれた平成の日本・東京においては、劇場版「パトレイバーthe MOVIE」の情報インフラのパニック・シミュレーションの記憶も相まって、あながちこれはアリなのかも?と思う次第である。

だってさー、地下にあんなにたくさん地下鉄とか高速道路とかを埋めちゃったでしょう?つまり、空中と地下に大量のガソリンや電気が常に存在している状況なわけだから、アリだよね、アリ。

交通インフラも寸断された都心の被災者が目指したのは皇居(劇中:宮城)。宮内庁は別レイヤーだから当然のことながら門は閉ざされたままで、警備する機動隊員が民間人を頭を警棒でボカスカ殴るところはTV放送のときは思い切りカットだったが、何千人という群集は中間芝のあたりまでしか行けない。消火活動中のヘリ(隊員・地井武男)から報告を受けた山本総理、というか丹波哲郎の「門を開けてください!」のホットラインでの台詞に、得体の知れないサムシングが心の中で燃え上がった人は多い。思わず「丹波先生、かっけええ!」と叫んだね、私は心の中で、だけど。

そう、この映画は大人の俳優、平成の時代には絶滅してしまった希少種の、大芝居合戦を堪能すべき映画なのである、今となっては。初公開後のロングランを経て、度重なる実世界での天災に配慮して上映や放送の機会が減少してしまったがゆえに、公開当時の話題性のみが先行してしまったが、本作品のドラマ部、本編の充実度は圧倒的である。この映画を特撮映画に分類してはイケナイ。っていうかさ、特撮映画っていう称号は俳優さんさちに失礼だと思うのである。それくらい、イイ芝居。

廃墟と化した東京で、秘密計画に携わっていたために会社を無断退職していたい小野寺は元同僚の結城・夏八木勲から不義理を理由にボコられるが、このときに止めに入ったのが中田と邦枝。技術系と事務系のくせに、と思ったが演ってるのが日活アクション出身の二谷英明と東宝アクション出身の中丸忠雄だったので妙に納得。返り討ちにあわなくてよかったね、夏八木勲。ちなみに日活の「紅の翼」と東宝の「紅の空」って似たような話で、しかもこの二人(悪役ですが)同じような役だったのよね。これもご縁かしらね(ちがう、ちがう)。

小野寺は玲子と婚約するが、いざ日本脱出の直前に富士山が大噴火してしまうのであった。

真鶴で噴火に巻き込まれた玲子は消息不明となり、小野寺はギリギリまで日本に残留し、逃げ遅れた日本人の救出に孤軍奮闘。オーストラリアに派遣された特使・中村伸郎は日本人の受け入れ交渉をベタベタの英語で行うのだが、このシーンでオーストラリア首相を演じたのは東宝の怪獣映画でも活躍していたアンドリュー・ヒューズであったが、「人間はいらないけど、美術品だけもらえないかなあ」って冗談半分だけど実は本音をもらすシーン。これ、オーストラリアの人が見たら絶対に気分悪くするんじゃないだろうか、ちょっと心配だ。

「一億一千万人の脱出計画」が無謀であることは自明の理、渡老人が集めた知識人たちの最終回答が「何もせんほうがええ」だと知らされた山元総理が巨大になりすぎた恐竜の絶滅を引き合いに出して「爬虫類の血は冷たかったが、人間の血は暖かい」と、最後の最後は人間の情以外に頼るもの無し。ここで、丹波先生、完全に涙目。いや、泣いたに違いない、きっと。

東京大地震のシーンで、ビルから雨のように降ってきたガラスの破片が目玉に突き刺さって大流血の場面はトラウマになること請け合い。それと、火災に追われて狭い路地に追い詰められた群衆が丸焼けになって焼死体になっている場面は、一緒に行った実父(大正10年生まれ)が「ああ、あんな感じだったなあ」と戦中のワンシーンを思い出していたことも付け加えておこう。しかし、なんだね、三村秘書が「あのあたり(江東区の下町一帯)はもともと避難が不可能な地域」って言い放っちゃうところは怖かった、っていうかそれなら早くなんとかしておけよ!と思ったね、実に。脚本が橋本忍だからなあ、むべなるかな?

ほとんど沈んでしまった日本で、渡老人と最後の別れをする山本総理。「それじゃあ、渡(わたし)さん」ん?「り」じゃなくて「し」って言ってたよね?確かに、ここ、何回聞いても「わたしさん」なんだけど、ま、そこいらへんどうでもいいんだけど、見せ場だったんで。

完全に沈没した日本列島のジオラマに、地球の北の果てで玲子さんは生存、オーストラリアで小野寺は、アウシュビッツに運ばれていくような粗末な貨物列車に押し込められた日本人たちが皆、空ろな表情であるのに対して、妙にアツイ視線で行く手を見つめる。「希望を捨てない」というメッセージが込められまくったエンディング、何回観てもグッと来る。

この映画2時間半。随所に予算不足とおぼしき海外ロケをパスった静止画や、キラウエア火山や海底火山の実写フィルムの流用があるが、それよりも後半いやに駈足で事態が進んでいくところを見ると、実はもっと尺は長かったのではないか?と想像される。2時間半は確かに長いがワンシーンたりとも見逃すのは惜しい、いや、未だかつて50回目でも一睡もしない実績から、この映画は面白いのだと、断言する。

ところで、50回も観てきたのに新たに気がついたことが1点。邦枝さん=中丸忠雄ってば最初から最後まで衣装が同じだった。ツイードのジャケットのスリーピース(シーンによってはツーピース)に黒いネクタイ、大地震の後なら着たきりスズメも分からないではないけれど、その前からずーと、最後のテレビ電話のところでもジャケットなかったけど同じだったもんなあ。ま、中丸忠雄ファン以外にはどうでもいいことだけど、私、そこしか見てないからねえ(爆)。

2009年06月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-06-20