「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


手錠をかけろ


■公開:1959年

■製作:東宝

■製作:宇佐美仁

■監督:日高繁明

■脚本:若尾徳平、日高繁明

■原作:樫原一郎「トランペット刑事」

■撮影:小泉福造

■音楽:池野成

■編集:

■美術:浜上兵衛

■照明:金子光男

■録音:渡会伸

■特技監督:

■主演:池部良っていうよりも佐藤允

■寸評:

ネタバレあります。


警視庁音楽隊のパレード。その横を覆面パトカーでカッコよく(わざわざ)アップで通り過ぎるのは警視庁の敏腕刑事(たぶん)の辺見竜四郎(以下、竜さん)・池部良と相棒のベテラン刑事、二瓶・有島一郎。音楽隊のラッパ部隊にいた新人の進藤三郎・佐藤允の姿を見つけた竜さんは三郎の父親で定年間際の進藤刑事(以下、進藤父)・三津田健が、音楽に夢中になってる息子のことをぼやいていたのを思い出した。そこへ警察無線が、近所の川で水死体があがったことを告げる。竜さんと二瓶は早速、現場に急行する。

リズムの良い導入部だ。

三郎の幼馴染で一緒に子供合唱団を指導している千加子・野口ふみえは船頭をしている祖父の爺さんに手を振ったがなぜか無視されてしまう。水死体があがった現場にはすでに所轄の刑事課長・中丸忠雄、林刑事・桐野洋雄がかけつけていて、被害者が金貸しであることが判明。その夜、千加子の爺さんが進藤父と飲んでいる最中に呼び出されて殺される。落ち込む進藤父、孫娘の千加子に合わせる顔がない。地下鉄車内でスリの現場を目撃した竜さんと三郎。スラれた男(南道郎)は挙動不審、スリ・山茶花究は逃走する。

いいっ!ここまでの流れ、淀みなく淡々とキレがある。

事件の鍵はブローカーの滝沢・大友伸が経営するキャバレーにあると睨んだ警察はある秘密計画を実行する。突然、三郎が小遣い稼ぎにキャバレーでアルバイトすると言い出したので、警察官のくせに副業とは何事か!と怒る進藤父、国家公務員にあるまじき言動にほぼパニック状態。進藤父、そしてまたもや竜さんにぼやくが竜さんの態度があきらかに変。

ま、いいか、バレバレだけど。

てなわけで三郎はヤクザ者として滝沢が経営するキャバレーで潜入捜査を開始するわけだが、そこへ音楽隊の関係者が酔客としてやってきたりして、滝沢の情婦で彼の裏稼業を積極的にサポートしている専属歌手の由紀・中田康子や、マネージャーの田中・藤木悠(えっ?)に正体がバレそうになるのだが、そもそも楽器が得意で子供好きな刑事ってほうがよっぽど違和感のある三郎の堂に入った凄みのおかげで事なきを得る。

うん、うん、納得だよね。ヤクザに化けてるときのほうがよっぽど自然体な三郎だし。

しかしそこへトンでもない妨害者が登場する。三郎の許婚であり、被害者の爺さんの孫である千加子だ。コイツ、最初からなんか勘違いしてるよなーと思っていたが、そもそも警察関係者なのだよ恋人は。身内にだって秘密にしないといけない場合だってあるじゃないの。それなのにキャバレーに押しかけて「私にだけは本当のことを言ってよ!」ってギャースカわめいて、おまけに合唱団の発表に来れないと言った三郎に腹を立てて卑怯にも自分の弟・小柳徹まで寄こしてしまったもんだから、三郎の正体がバレてしまい、千加子の弟は完全なとばっちりで、三郎とともに監禁されてしまう。

馬鹿娘の千加子のおかげで事態は最悪の結末に向かって一気に突き進む。って、そんな深刻じゃないけど。

滝沢の裏稼業は売春婦の斡旋。その中から愛人をチョイスしていたのだが、その一人・若林映子に捜査の手が伸びたと知ると、彼はあっさりと愛人を殺害。水死体は滝沢のビジネスパートナーであり、千加子の爺さんはたまたまその殺害現場を目撃したので巻き添えを食ったのであった。爺さん殺害の実行犯の一人は、地下鉄でスリの被害に遭った大沼・南道郎と判明。滝沢一味が騙して連れてきた家出娘・星由里子(本作品がデビュー作)たちが連れ込まれた倉庫を警官隊が急襲。一人で奮戦していた三郎、千加子の弟、そして大勢の売春婦候補の女の子たちは全員救出され、滝沢たちは逮捕されたのでありました。

ドンパチ皆無、肉弾戦のみの刑事ドラマ。ハンメイさんの監督作品は緻密だが、地味で少々かったるい、たぶん丁寧過ぎるんだろね、ディテールが。

藤木悠が悪玉たちの経営するキャバレーのマネージャーってのはいかがなものか?三郎を痛めつけたり、ボスの命令で相当な悪事を働いたり、延々と殴り合いを演じたりって、その後の役どころを知っている、いや、たとえ知らなくても、そのルックスとのミスマッチは許容範囲を超えている。藤木悠、どっから見ても善人面。おそらく誰が見てもそういうことだったんだろう。その後、こうした知能犯で粗暴な悪の組織のナンバー2の座は、当時、まだ駆け出しであったニューフェース一期後輩の中丸忠雄が一手に引き受けることになるのである。

本作品のクレジット上の主役は池部良なのだが、ここは佐藤允を熱烈に推しておきたい。3人がかりでボコられたわりには全然元気だったり、多勢に無勢でもヘコたれないタフネス、未だ役どころが善玉悪玉二枚目等々、定まってない時期の作品なため、若干中途半端なところ(楽器が得意なのに全然吹いてないとかさ)はあるが、その後のアクション俳優の萌芽は百点満点。

そういえば、佐藤允も中丸忠雄もこの年に岡本喜八監督と合流していくのである。

肝心の池部良だが、「脱獄囚」では敵対関係にあったんだけど東宝の先輩らしく佐藤允をパシらせる風格とともにソフトなイメージは相変わらず。甘い役どころのほうが良ちゃん(と、思わず呼びたくなる)の身上、硬派の刑事役でもカッコいいんだけど、やっぱ最後に大団円で子供の合唱見てるときの、ニコニコした顔のほうが断然いい。チョット笑うだけで観客に幸福感を与えられる奇跡の俳優、それが池部良である。

2009年05月31日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-05-31