白い魔魚 |
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■公開:1956年 ■製作:松竹 ■製作:月森仙之助 ■監督:中村登 ■脚本:松山善三 ■原作:舟橋聖一 ■撮影:生方敏夫 ■音楽:黛敏郎 ■編集: ■美術:熊谷正雄 ■照明:田村晃雄 ■録音:吉田庄太郎 ■主演: ■寸評: ネタバレあります。 |
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男好きのする顔のアイテムとして「黒目がちな瞳」というのがある。有馬稲子のソレは上目遣いの老獪なテクニックも相まって一生懸命をウリにする微妙な安っぽさも醸し出す。タダモンじゃねえな、この女。 老舗の紙問屋「綾瀬」の一人娘の竜子・有馬稲子は大学生。演劇青年の重岡・石浜朗とはいい感じでお付き合い中だが、母・夏川静江は男の生活力がなさそうなので二人の仲を認めていない。戦後のアプレの代表みたいな竜子はひょんなことから女性実業家で未亡人の篠宮・高峰三枝子と知り合い、彼女が経営するブティックでアルバイトとして働くことになった。そこには大学の先輩、吉見・川喜多雄二が働いていたが、吉見は篠宮の愛人であった。 ゴージャス・三枝子の圧倒的なボリュウムが二十一世紀の観客にとっては実に鬱陶しい。どこから来るのか分からないその自信があつかましくて暑苦しい。小生意気な有馬稲子がただの貧乏くさい田舎娘に見えるからスゴイ対比である。これは有馬稲子に欠陥があるわけではなく、高峰三枝子のオーラが凄すぎるせいである。間違っちゃいけない。 竜子の実家は火の車。父・北龍二は卒中かなんかで戦力ダウン。血の繋がっていない兄の富夫・須賀不二夫は有力な債権者の一人である青木・上原謙が竜子に惚れていると知り早速、二人の仲を取り持つ。自由闊達で近代的なお嬢様である竜子だが、実家が倒産しちゃえば大学にも行けなくなるし、お父さんとお母さんが路頭に迷ったら・・・ともう一方では古風な考え方も持ち合わせており、青木との結婚を即座にノーとは言えない。 竜子はモテる。やったらめったらモテまくり。それがアバズレの同級生、三三子・杉田弘子には面白くない。同じ演劇サークルの重岡と竜子の仲を色仕掛けで破壊しようとすら思うほどである。若いツバメと化した吉見に溺れるマダム・篠宮であったがどっこい吉見は三三子と肉体関係中。そこへ出くわした竜子は三三子とキャットファイトを繰り広げる始末。 青木はますます積極的に竜子にアプローチ。実家の再建という難題を人質に取られている竜子としてはツライところだが、大手の製紙会社社長・中村伸郎に宴席で馬鹿にされた竜子は社長に盃を叩きつけてしまう。やさしく竜子を諭す青木、しかしコイツは裏でトンでもないことを企んでいたのであった。 マダム・篠宮の死んだ亭主は芸者の雪弥・浅茅しのぶとの間に子供を作っていた。蔵三郎・加東大介のとりなしで雪弥と対面したマダム。しかし調整は不調に終わり、交渉決裂。マダムの援護射撃を頼まれて赴いた竜子が偶然にも雪弥を知っていたので彼女と意気投合。そして雪弥の口から、青木が竜子との結婚を「博打だ」と吹聴していたことを知る。 吉見はマダムをフッて三三子の元へ走り、マダムの店は倒産。傷心のマダムであったが、竜子に励まされて再起を誓う。 プライドの高い竜子の怒りが怒髪天。青木との仲は完全に終了。一度は食い下がって竜子の下宿にまで押しかけた青木だったが勝ち目がないと分かると、あっさり綾瀬から手を引いてしまう。綾瀬は倒産の危機に直面し、その最中に父親は死去。義理の兄から父親殺しとまで言われる竜子。竜子は母親と一緒に家を出る決心を固め、迎えに来た重岡と将来を誓い合うのでありました。 大学生にもなって服装チェックが学則として布告されるということは当時の大学生の自由奔放ぶりに眉をひそめていた大人が大勢いたということだろうか。当時の世相にはとんと不案内なのでここは笑いを取るシーンになってしまった。ババくさい印象の有馬稲子であるが、あの頃の大学生ってこんな感じ?よくわかんないけど。「最高に最低ね!」というセリフは今度使おう。 戦後の上原謙は「二枚目を悪用しているヒト」という役が多いような気がする。それを演技派と呼ぶならそれもアリだろうが、上原謙は二枚目過ぎたのである。役どころに困るほどの正統派二枚目俳優の中年期以降の身の振り方を考えるとき、多くの道は色敵である。上原謙もその例に漏れなかったということであり、特撮ヒーロードラマに突如出演し、往時のファンを狼狽させたことも記憶に残る。往時って、すでに祖父祖母の代だけど。 演劇サークルの大学生の一人が内田良平。ギリシア彫刻のような彫りの深い二枚目である。後半生において悪事全開の中年男に成長する萌芽はまだ無い。 中村登監督の映画はロケがきれい。風景を美しく切り取ってくれたキャメラに感謝。 (2009年03月22日 ) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2009-03-22