「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


山の音


■公開:1954年

■製作:東宝

■製作:藤本真澄

■監督:成瀬巳喜男

■脚本:水木洋子

■原作:川端康成

■撮影:玉井正夫

■音楽:斎藤一郎

■編集:石井長四郎

■美術:中古智

■照明:

■録音:下永尚

■主演:山村聡

■寸評:

ネタバレあります。


原節子といえば「よそいき」感の漂う「大」女優だが実際のところどこいらへんが「大」女優なのかと聞かれると正直、どうもピンと来ない。勉強不足である。

しかし上原謙(子)と山村聡(親)というキャスティングの無理さ加減は目に余る。

場所は鎌倉である。会社を経営している尾形・山村聡は美人の嫁、菊子・原節子に義理の親子以上の愛情を感じている。感じているっていうか、バリバリである。やたらとカッコいいお父さんの会社で働いている息子の修一・上原謙は「それにしちゃあ老けてるよな」という観客の戸惑いを一気に押し切るような冷徹な印象で、オマケに父親の美人秘書・杉葉子に手を出している。

ここまでヤな男の役を戦前の二枚目「大」スタアに当てるというのはいかがなものか?と観ているこっちがハラハラする展開である。

尾形の妻、保子・長岡輝子の証言っていうか愚痴によると尾形は彼女の「美人の姉」に惚れていたらしいのだが、早世したため仕方なくブサイクな保子を嫁に貰ったらしい。気立ての良い菊子を嫌いじゃないけどなんとなく女の本能としてジェラシー感じちゃう保子である。原節子を敵に回して勝てるはずが無いのであるが、いや別に勝とうとは思ってないか。

そこへさらなるブサイクが到来する。甲斐性なしの亭主・金子信雄の家をおん出てきた房子・中北千枝子である。長男の嫁だから姑の面倒をみるのは仕方ないとしても、コブつきの小姑まで出戻られた日にゃあ、菊子もとんだ災難だ。そんな菊子にますます優しい父親の姿を見た房子は完全に逆ギレである。

見た目はともかく、この母子の全身から漂う品格の無さは圧倒的で、すでに確固たる地位を築いているように思われる。何もかも菊子の真逆を行く房子。彼女の連れてきた娘の得意技はお菓子が欲しいときのウソ泣きであり、美人の菊子には徹底的になつかない、一片の笑みもこぼさないと言う徹底ぶり。親が親なら子も子だよ、ってところか。

性格ブスの暗黒パワーに満ち満ちていく尾形家の明日はどっちだ?

修一は他所に女を作っていて、その女の家を訪問するのに件の美人秘書を同道させるという、馬鹿がつくほどゴーマンぶりをスパークさせる。相手の女は絹子・角梨枝子といい、戦争未亡人でキャリアウーマンの池田・丹阿弥谷津子という女と同居している。

絹子はすでに修一との仲は終わっているらしいが、妊娠中である。オマケに修一は彼女の妊娠を知るや、殴る蹴る踏んづける、オマケに二階から引きずりおろして堕胎を迫るという超DV男なのである。ただし泥酔時に限られるようではあるが。トンでもない息子の行状に驚く尾形。そんな亭主を持った菊子にますます同情以上の愛情を注いでしまうのである。

房子は信州の実家へ戻ったらしい。そこはすでに空き家なのだが寝泊りしているらしい。そして菊子は修一の子供を妊娠するのだが、あんな亭主の子供は産みたくないわ!ということで密かに堕ろしてしまうのである。それを知った修一の絶望も押して知るべしであるが、案外とサバサバしている息子に憤る父親。修一との離婚を決意した菊子、信州の実家へ房子と引っ込む決心をした尾形。それぞれの道である。

この家が火宅になったのはそもそも尾形に責任があると言っていい。

こいつがブサイクな女房を愛して、美人の嫁に関心さえ持たなければ菊子は修一に頼ってすがっていただろうから、修一も寂しさのあまり他所に女を作ることも無かっただろうし、房子の亭主が愚痴りに来たときは説教の一つもしてヨリを戻させたかもしれない。すべては「美人に惚れっぽい」報いを家族全員で受けているわけである。よしんば「美人が好きでなにが悪い」と言うのであればそれを表に出さないのが大人というものである。

杉葉子の後任秘書はこれまた美人の北川町子。それみたことか!である。

もちろんのこと、長身で二枚目でバケモノのように若い父親に息子がジェラシーを感じるパワーバランスは山村聡の無茶な老け役と原節子の美貌で絵柄的に大変にわかりやすいが、なぜあのような美男子がDVなのかと考えると相当に陰湿である。性癖なんじゃないかと思ってしまう。イヤよ!そんな上原謙なんて!戦前は美青年であった上原謙が中年期にさしかかって(実際は山村聡より年長である)脱皮のワンシーンを観察しているのだと思えば、なかなか味わい深い、そういうことにしておこう。

結構なドロドロなのだが、美人と美男子が淡々としているのでそれほどでもない。いや、相当だな、原節子が子供堕ろして、上原謙がDVで、山村聡が痴人の愛だもの。

2009年03月22日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-03-22