「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


稲妻


■公開:1952年

■製作:大映

■企画:根岸省三

■監督:成瀬巳喜男

■脚本:田中澄江

■原作:林芙美子

■撮影:峰重義

■音楽:斎藤一郎

■編集:

■美術:仲美喜雄

■照明:

■録音:

■主演:高峰秀子

■寸評:

ネタバレあります。


難儀な家族。甲斐性なしの男と情のない女が展開する潤いの無い世界。

東京に美人の三姉妹、長女の縫子・村田知栄子、次女の光子・三浦光子、末娘の清子・高峰秀子。清子はバスガイド、姉二人は結婚済み。さらにこの姉妹にはニート生活をエンジョイしている兄の嘉助・丸山修も同居中。そして男にだらしないのか、生活のためだったのか、兄妹のお父さんは全部別、ただしお母さんのおせい・浦辺粂子は同じ。

こんだけ美人の娘を三人も授かったんだから、案外とお父さんは各々二枚目だったのではないかと推察されます。だって、ねえ、浦辺粂子の遺伝子じゃないもの、絶対。

縫子の亭主である龍三・植村謙二郎は下手の横好きで商売に手をだしちゃあ失敗して借金の山。縫子はプチ実業家であるパン屋の綱吉・小沢栄(小沢栄太郎)をパトロンにして旅館を切り盛りするキャリアウーマンへ転進中。そして、さらなるスポンサーの出資を当て込んで清子と政略結婚を目論むという、天晴れなヴァンプ。

光子はメソメソしているかと思いきや、急死した亭主の呂平の情婦、りつ・中北千枝子には保険金をガメられまいと泣き落とし。しかし、女の武器が通用しないと見るや、気丈な清子をサポーターに引き入れて、分配の交渉へと赴く。ここで、りつ、最初は下手に出ていたが、金を出さないとわかると態度を豹変。「あんたみたいに(子供が無い=正妻)と違って身軽じゃございませんのよ」と冷酷無比。女の戦い、ヒートアップの状況。

保険金の存在を知った嘉助は「就職するのに背広が欲しい」とのたまい、母もまた「少しは回してもらえるんだろう?」と目がキラキラ(うわあ・・)来て長女に至っては「私に貸しなさいよ、三倍にして返してあげるわよ」とインチキくさい猫なで声を出す始末。そんな一家のありように、ついに清子はブチ切れ。

村田知栄子が猫なで声?ある意味、ヤな予感(詳細は「怪猫 呪いの壁」参照)。

ハキダメに鶴と言ったら、美人画から抜け出したような美貌の光子に失礼だし、縫子も近代的な美人顔だからハキダメとは言いづらい、だが状況が状況だけに、清子は綱吉の度重なるセクハラに噛み付き攻撃で対抗。こんな腐った家を出て行くと宣言。さあ、そうなると唯一のマトモな社会人である清子に去られては一大事、私の老後の金ヅルを逃すものかと、おせいが後を追う。

借金のカタに住み慣れた家を売り引っ越した先の二階に間借りしていたリヴェラルな女性に憧れる清子。家出同然の清子が借りたのは先輩バスガイドの後釜として入れた、民家の二階。しかし、そこには目の毒としか言えないような理想的な兄と妹の姿が。

隣家の国宗・根上淳と妹、つぼみ・香川京子。つぼみをピアニストにすべく、兄は家事一切をやってくれちゃう。水仕事なんかして大切な手が荒れたら大変ということらしい。そんな兄妹のラブラブな関係に、羨ましさを通り越して自分の境遇とのギャップが恨めしい清子。

どんだけ美男子なんだ?という感じの根上淳、妹の香川京子も妖精のように愛くるしい。ここまでいくとどう見てもシスコンにしか見せませんが、そしてはっきり言ってこんな兄ちゃんいたらウザイですが、地獄のような家族を持つ清子にすれば、まさに理想の兄妹像。なにせ、こっちの兄貴は勤め人ですし。

ついに縫子と光子に戦争勃発。清子にフラれた綱吉は今度は光子に喫茶店をオープンさせて、ちょいとイイ仲に。そこへ縫子が乱入し、バトルに発展、飛び出した光子が行方不明とのこと。清子の下宿先に半泣きで駆け込んできたのは、地獄の使者、母親のおせい。

根上淳&香川京子の理想から、浦辺粂子の現実に引き戻されて絶望する清子。互いに言いたい事を言い合って、あきらめがついたのか、母と娘は和解の様子。清子は結局、現実を受け止めるしかないと腹くくったらしい。ゴミでもクズでも化け猫でも係累は一生モノと、覚悟を決めた清子が見つめる空に稲妻が走る。嵐の予感?それとも所詮は家を出られない光子がもうすぐ帰ってくるという予兆なのかも。

容赦ないですな、女が女の生態を描くと、遠慮ゼロ。むしろ男の成瀬監督が遠慮した感じ。この監督の映画の中では今まで見た作品中、最も好きな作品になりました。中でも、最初は惨めったらしい格好で同情を引こうとして失敗したとたんに態度を変える中北千枝子が最高です。大体、他人の亭主をネコババしておいてその態度、ヴァイタリティ溢れる中年女の生態を体現してお見事すぎ。

デコちゃん、タバコ吸うんだ〜意外と不良。と、最近の十代タレントの喫煙騒動をなんとなく思い出してしまいましたが、実は高峰秀子、当時28歳、立派過ぎる大人。

2009年03月08日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-03-08