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警視庁物語 不在証明(アリバイしょうめい)


■公開:1961年

■製作:東映

■企画:斎藤安代

■監督:島津昇一

■脚本:長谷川公之

■原作:

■撮影:仲沢半次郎

■音楽:富田勲

■編集:長沢嘉樹

■美術:森幹男

■照明:原田政重

■録音:広上庄三

■主演:神田隆

■寸評:

ネタバレあります。


NET(現・テレビ朝日)で放送されていた「特別機動捜査隊」は、刑事と犯人は多くの場合ビジュアル的には紙一重という現実を目の当たりにした伝説のテレビドラマでした。

実際の事件捜査というのはロジックが明快で、地味なものだということはうっすらと理解してはいますが、それをそのまんまやったら普通は映画になりにくいので、70年代はやたらと超法規的行動に走る刑事ドラマがもてはやされていました。しかし、平成の御世においては「警視庁ドキュメンタリー24時(仮名)」みたいのがゴールデンタイムを席巻し、劇場映画もドキュメンタリーの時代になっている今こそ、この「警視庁物語」はもっと注目されてもよいような気がします。

あくまでも、気がするだけですが。

夜、ある役所で巡回中の守衛・小塚十紀雄が荒らされた金庫に気がついて110番をしようとすると、眉毛のぶっ太い一重マブタの男子に襲撃され、顔を見られた犯人に事務椅子でめった打ちにされて瀕死の重傷(後に死亡)を負い、登庁してきた女子事務員・小林裕子に発見されるという事件が発生。

捜査一課のゴツイ主任・神田隆、ベテランの林刑事・花澤徳衛、刑事部長・堀雄二、職人肌の金子刑事・山本麟一、長身でスマートな高津刑事・佐原広二、そして動きが固い新人の中川刑事・千葉真一(サニー千葉)が現場へ赴き、当該金庫の責任者である岡本係長・小沢栄太郎から事情聴取します。しかし岡本係長は「金庫の中に重要な物は入っておらず、盗られたものも無い」と証言。刑事たちは第一発見者の事務員と係長の証言が微妙に食い違うことに注目し、鑑識の緻密なチェックもあってどうやら金庫は犯人以外の人物によって荒らされた形跡がありました。

容疑者は、当日夜残業していた岡本係長、部下の秋田・大村文武、根岸・波島進の三人。岡本係長が昇進予定と訊いて、次の係長の座を狙うのは根岸でしたが、ちょうど家賃滞納と恋人の良子・小宮光江との破局というダブルパンチで落ち込んでいた秋田を励まして恋人と復縁させてあげようとして失敗し、フォローのために良子を劇場へ誘って一緒に観劇していたアリバイがありました。秋田は、犯行推定時刻の前後に役所へタクシーで乗りつけていました。岡本係長はさっさと帰ったはずでしたが、実は帰宅したのは深夜近くであり犯行推定時刻のアリバイがありません。

オープニングで犯人がバレる、犯人登場型のドラマであればアップになった「一重マブタで眉毛太」の特徴から推察するに、大村文武であることは明々白々。おまけに役所まで彼を乗せたタクシーの運転手の証言もあったので、容疑者として新聞に実名報道されるにまで至ります。しかし、本人は犯行を否定。上司の一人である梅田課長・織田政雄も彼の人柄をよく知っているので信じられないと言います。

岡本係長は地味な顔して、裏では元部下の愛人・八代万智子を囲っており、表沙汰には出来ないけれども強固なアリバイが証明されます。そして、秋田を役所の近くで降ろした運転手は、その直後にもう一人客を乗せて、根岸と良子がいた劇場まで行ったと証言するのでした。

当時は容疑者の実名報道なんて当たり前だったのですね。それと、刑事の聞き込みを先回りして、関係者を取材しまくって捜査妨害に近いことまでマスコミは当時は(そして今も)していたらしいです。そういうディテールが短い尺に収められているので、絵柄は地味で出演者も地味ですが、登場人物のチョンボにイライラさせられることが多い日本のミステリー映画の常識に反して、緻密でまっとうな進展にいささかほっといたします。

動機もはっきりしてますし、大村文武なら身体デカイですから振り下ろす事務椅子の破壊力も如何ばかりかと思われて、単純な事件なのかと思いますが、最初にアリバイが確定した奴が一番怪しいというのが、推理小説のセオリーなのでした。解決の糸口は、梅田課長のところに贈られてきた賄賂(商品券)の額と、岡本係長が必死に隠そうとした業者からのリベートが裏金として金庫に入っていた事実でした。

秋田は、女にフラれて金に困ってついフラフラと裏金を強奪しようと役所に行ってしまい、犯行直後の現場を見て驚いて逃げ出したのであって、真犯人はその直前に現場から逃走し、アリバイ工作をしていたのでした。

真犯人が捕まったのはよかったのですが、すでに実名で報道されてるし、恋人の良子からも疑惑の目で見られた秋田の心の傷は深いです。これって警察の捜査ミスなんじゃないの?マスコミ報道の被害者とも言えるのですが、若手刑事、本作品がデビュー作である千葉真一に、警視庁(セットですが)の玄関まで送ってもらってハイサヨナラってのは「そりゃねーぜ、千葉ちゃん」と言いたくなります。

せめてパトカーで送ってあげるべきだろう、と。そうすれば、良子と決定的な破局も防げたのかも。かわいそうな大村文武、喜怒哀楽が出にくい顔だけに悲壮感がいや増します。

タバコ屋の聞き込みで「新星ないの?じゃあゴールデンバットでいいや」「専売公社ももっと安いタバコ売ってくれないと困る」というオバちゃんと刑事のやり取りが、当時の(っつーか今でも?)刑事職の薄給という状態がわかって楽しいです。

健康的でスマートで長身で、東宝の佐原健二と間違えやすい(か?)佐原広二も含めて、本作品の、犯人と見紛う迫力の刑事さんたちの多くはその後、テレビドラマ「特別軌道捜査隊」へ流用。ちなみに、本作品では容疑者だった波島進は主任職に昇格。

2009年01月12日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2009-01-25