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捨てうり勘兵衛


■公開:1958年

■製作:東映

■企画:中村有隣

■監督:マキノ雅弘

■助監督:

■脚本:大和久守正

■原作:村上浪六

■撮影:藤井晴美

■音楽:鈴木静一

■編集:宮本信太郎

■美術:塚本隆治

■照明:中山治雄

■録音:藤本尚武

■特殊メイク:

■主演:大友柳太朗

■寸評:営業上の主役は大友先生だが、影の主役は山形勲

ネタバレあります。


ヒロインを演じた大川恵子は、東映時代劇映画のクレジットに多くその名前を確認できますが印象はどれも似通っていましたので調べてみたら、女優として活躍していた期間は6年ほどでしたが100本近くの映画に出演していたからなのでした。いちばんキレイな印象を残してスクリーンから去るというのは女優さんの一つの理想であります。

「捨てうり」とは「捨て値で売る」という自虐的な芸名であります。

クズ屋の長吉(以下クズ長)・星十郎は、立派な財布と物々交換で半ば強引に勘兵衛と名乗る浪人・大友柳太朗と同居することになります。勘兵衛は二枚目ですが、おんぼろ長屋の住人達に向かって「貧乏長屋のみなさん!」と挨拶するほど傍若無人、ていうか、ざっくばらんな性格に見えたので、クズ長の仲間たち、映画の中では「親戚」と呼ばれる長屋の幸助・堺駿二たちから邪険にもされませんでしたが、ごはんをよく食べたので他の住人たちから米を借りまくったクズ長としては返済に窮してしまうのでした。

勘兵衛は喧嘩の仲裁で金策をしてくると行って繁華街へ繰り出します。そこで、人気の女歌舞伎、中村鶴吉・大川恵子が、いかにも悪そうな(吉田義夫の職人芸)ヤクザ者・吉田義夫とその手下・楠本健二らに絡まれている現場に遭遇。勘兵衛、これ幸いと、騒動の輪の真ん中に乱入。鶴吉にかつての恋人の面影を見た勘兵衛のモチベーションは最高潮、とはいえビジネスですから仲裁を三両で鶴吉から請け負うことで合意するやいなや、一太刀でヤクザ者たちの帯を切り、赤っ恥をかかせて退散させてしまいます。

劇場小屋に戻った鶴吉は妹分の小袖・花園ひろみが小屋の従業員である松太郎・里見浩太朗といちゃいちゃしている現場に遭遇しますが、今の鶴吉は「白馬の王子様」のポーっとなっている状態でしたので早速、勘兵衛のことを二人に夢中で話していると、そこへ因業な主の親方の鬼熊・進藤英太郎が登場。彼は孤児だった鶴吉に芸を仕込んで花形にしてくれた大恩人ではありますが、今では欲に目がくらんで彼女の貞操を、ドスケベ旗本(命名したのは勘兵衛)青山伊織・堀雄二に売ろうとしていたのでした。青山は殿様ですが、最初からモテないことを自覚していたので、鶴吉をお金でモノにしようという、地味な顔に似ずやる事は大胆なのでした。

最初の男が堀雄二というのはあまりにも気の毒(あくまでも大友先生との比較において)だと思った松太郎はなんとか勘兵衛と鶴吉をくっつけてあげようとします。鶴吉が上乗せした二両を返却に来た勘兵衛から彼の住まい(江戸時代に『あなたの住所は?』と訊いちゃうところがマキノ風?)を聞き出して鶴吉に教えてあげる松太郎なのでした。世間も男もロクに知らない生娘の鶴吉は指定された料亭であやうく青山に犯されそうになりますが、なんとか脱出、これまた近傍の屋台でクズ長と祝杯をあげていた勘兵衛に救助されるのでした。

実は勘兵衛は元は立派な武士で、志乃・大川恵子という許婚がいたのですが、志乃があまりにも美形だったためか、若き藩主・小柴幹治が志乃を妻にしてしまったので、キレた勘兵衛は殿様の行列を襲撃しますが未遂に終わり、ポン友の川口周蔵・山形勲のおかげで脱藩していたのでした。

ただでさえ頭に血が上りやすい大友先生ですので、武士の意地と面目に、色恋のフレグランスが上乗せされてはもう誰も彼を止めることはできません。実に説得力のあるシチュエーションですね。で、当然のことながら勘兵衛は殿様を付け狙っているわけで、居所をつきとめて訪ねてきてくれた川口から、志乃さんが自害してないことを聞いて「ちくしょー!他の男に乗り換えやがったのかっ!」てな感じで完全に自分を見失う(最初っから見失いまくりではありますが、決定的な最後の一撃)のですが、幸いなことに彼の傍らには鶴吉がいたのでした。

青山の殿様に脅された鬼熊は松太郎を騙して勘兵衛の居所を聞き出します。案内してもらう途中で鬼熊は松太郎を暗殺しようとしますが、現場を目撃した屋台の肝っ玉母さん・赤木春恵の大活躍で瀕死の松太郎は貧乏長屋へ運び込まれます。今度は妹分の小袖を青山の殿様に差し出そうとする鬼熊でしたが、事情を知った勘兵衛の活躍で間一髪セーフ、鬼熊の手下たちは全滅します。「色キチガイ」だの「ドスケベ」だの散々に言われた青山の殿様は怒髪天を突き、家臣を引き連れて長屋を襲撃。しかし圧倒的な勘兵衛の実力を目の当たりにした彼はさっさと退散するのでした。青山ったらどうしようもない奴だと思っていましたが、肝心なところでの引き際はちゃんと心得ている殿様だったので、ある意味ホッとしました。

そこへ川口が勘兵衛から志乃をゲットしてしまった殿様を連れてやって来ます。殿様は人徳のある川口に説教され、おそらくは実は信頼していた勘兵衛がそこまで志乃を思っていたことを知って猛省し、いきり立つ勘兵衛の前に土下座をして若気の至りを詫びるのでした。ああ、なんて立派な殿様なのでしょう!青山に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものです。

この映画の山形勲は実にイイ奴です、そして大人です。そんなポン友の渾身の説得に勘兵衛は悟ります。一番かわいそうだったのは志乃だったと、その志乃を苦しめた加害者の一人はもしかしたら自分だったと。勘兵衛は全てを吹っ切り、武士の意地だのなんだのを捨てて、鬼熊亡き後の一座の役者達とともに旅芸人の仲間として江戸を後にするのでした。

長屋のオトボケコンビ、芸達者な星十郎と今では少々ツライところがあるアチャラカの堺俊二と、ヌーボーとした超美男子の大友柳太朗が興じる掛け合い漫才のような会話が前半の見どころです。後半は観ているこっちが赤面するほどの大友柳太朗と大川恵子のママゴトのような恋愛ドラマ、山形勲の威風堂々とした侍ぶり、等々見どころは多数です。チャンバラもありますが、まあこれは刺身のツマ程度。

悪玉はいかにも「悪いことをしてますよ、あるいは、しますよ」とあくまでも分かりやすく、二枚目はあくまでもカッコ良く、色男には金と力がないという予定調和の落語や講談の世界観。男前、二枚目と呼べる映画俳優は残念ながら二十一世紀の映画界(そもそも映画界というのがレッドデータブック入りですが)には絶滅危惧種となっておりますが、「いい男」を自覚している(役どころの)大友柳太朗ならではの娯楽時代劇でした。

2009年01月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2009-01-03