「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


どぶ鼠作戦


■公開:1962年

■製作:東宝

■製作:田中友、 角田健一郎

■監督:岡本喜八

■助監督:山本迪夫

■脚本:岡本喜八

■原作:

■撮影:逢沢譲

■音楽:佐藤勝

■編集:

■美術:育野重一

■照明:猪原一郎

■録音:伴利也

■特撮:

■主演:佐藤允

■寸評:

ネタバレあります。


一部では「独立愚連隊」よりも本作品のほうが評価が高いと思います。

中国北部の戦場でほぼ孤立していた守備隊に、豚を抱えた若い兵隊、林一等兵・加山雄三が転属されてきます。彼は片足が不自由ですが、動きは俊敏です。守備隊には凄腕の特務隊、諜報活動とか破壊工作をする特殊任務の人たちがいて、彼らは中国人です。特務隊の隊長は日本人の元軍人でしたが辞めてしまい、今では白虎・佐藤允と呼ばれています。守備隊の陣地に八路軍の、これまた英雄と呼ばれる諜報隊の隊長、無双・中丸忠雄が堂々と潜入しています。白虎と無双はライバル関係ですがお互いに軍の規律に縛られることなく、賞金稼ぎやらなんやらでしのぎを削っているのでした。

守備隊の正宗中尉・藤田進はくだけた人物で本職はお寺の住職さんです。ちなみに「宗恵」という名前ではありませんよ、たぶん。守備隊に配属されてきた参謀の関大尉・夏木陽介は学校出たてで頭の固い、よく言えば生真面目な人だったので、捕虜になった中国人・江原達怡をスパイ活動の罪で銃殺します。刑を執行したのは白虎率いる特務隊でした。融通の利かない関大尉は、ある意味人が良いので中国人ゲリラの村にだまされて誘い込まれ夜襲に遭い、部隊は壊滅し、大尉は負傷して捕らえられてしまいます。関大尉救出の命令が白虎に下ります。師団本部の師団長・上原謙は関大尉のお父さんだったので「ふがいない息子」(林一等兵のことではありませんよ)に自決を薦めるべく白虎に短刀を預けるのでした。

白虎は「特攻ギャリソンゴリラ」(注:知らない人はWEBで調べましょう)のような曲者ぞろいの仲間を集めます。食料を盗んだ兵隊をたたき殺した空手の有段者である軍曹・中谷一郎、その殺された兵隊の同僚でかたきうちのために軍曹が勤務する炊事場に爆弾を放り込んだ上等兵・田中邦衛、忍術研究家で中隊長にかわいがられていましたが、火遁の術の実験に失敗したことをくやんで脱走兵となった、童顔だけど歳はそこそこな少年兵・砂塚秀夫、そして林一等兵。彼らは途中でゲリラに化けたり、八路軍に化けたりしながら関大尉の後を追います。

身代金を目当てに関大尉を狙っていた無双がつい油断したので、大尉の居所が判明します。大尉は軍人さんですから八路軍はいきなり死刑にしたりしないで怪我の手当てをしてくれます。八路軍の軍医は、なんと銃殺したはずの捕虜でした。日本でお医者さんの勉強をした彼に「命を大切にしなさい」と諭されてしまう大尉。あと一歩のところで白虎は大尉を救出し損ねます。林一等兵は実は無双の部下でした。棺おけに大尉を入れて連れて行ってしまったのは無双たちでした。しかし、戦死者扱いの関大尉に身代金は出ませんでした。頭にきた無双が大尉を撃ち殺そうとします。ついに無双と白虎は対決し、まるで中世の騎士の決闘のように勝負は一瞬でつきます。

関大尉を連れて守備隊に戻った白虎は、新しい師団長・田崎潤の命令により、前線が撤退したので、特務隊が捨石になったことを知ります。圧倒的な八路軍の攻撃に全滅寸前の特務隊のもとへ白虎、無双隊を脱退した林一等兵、そして関大尉たちが向かいます。ついでに正宗中尉も。、そして中隊の指揮を執っていた大森見習い士官・ミッキー・カーチスも押し寄せる敵めがけて突っ込んでいくのでした。

濡れ衣を着せられた弟の復讐を縦軸に、戦争によって狂って(本当にクルクルパーになった大隊長も含みます)しまった、狂わされてしまった人間の姿を横軸に、極限状態での男気、単刀直入なカタルシスのある「独立愚連隊」よりも、登場人物の多様さ、物語の複層構造化、そして重要なのは女気の大幅縮小。八路軍の女医でかつお色気作戦の華麗な飛び道具の水野久美と、白虎に化けた無双隊のザコに強姦されるけどプライドの高い無双と白虎の結果的な共同でかたきをとってもらい、ピンチの白虎たちを助ける村の娘・田村奈巳は台詞なしです。

おしゃべり女は男の戦場には不要です。女たちもまた男気が溢れています。

「独立愚連隊」の医者コンビ(江原と水野)よりも、本作品の二人のほうが抱える悩みも葛藤も数十倍なので、見ているほうはお気楽ではありませんが、見終わった後にジワリと残ります。

実はこの映画で泣きそうになったところが2箇所あります。ラストの爽快さ、見ている人たちも思わず立ってついていきそうになる「回れ右」のシーンは気持ちのよい涙でした。もうひとつは真逆です。白虎たちが紛れ込む婚礼の行列で中国人の花嫁さんが乗った輿を日本軍が空爆するシーンです。無言で硝煙に吹き飛ばされる一般人のシーンを見ていると、この映画の本当の悪役は日本軍であると見えてきます。日本人として情けなく、かつ、ささやかな幸福を問答無用で吹き飛ばす戦争の残酷さが、小さなシーンでしたが、きわめて実感できました。「敵国に無辜の民など存在しない」といって平気で結婚式に爆弾落とす国はいまだに、本当にあるわけですから。

若気のイキオイ(だけとは言いませんが)の「独立愚連隊」、人情喜劇の「独立愚連隊西へ」を経て、3度目の正直でしょうか?この作品で一応の完成を見たという感じです。あいかわらず加山雄三の芝居は拙いですが、それを補ってあまりある「おおらかさ」を逆手に取った岡本監督の勝利です。

それと、悪役のほうも見逃せません。というよりもそこんところを最重要視して見てしまいました。案の定です。

期待通りに本作品の無双はとてもカッコよかったです。「〜西へ」では善玉に転んだ中丸忠雄がここではきちんと、クールで尊大な色悪が自信満々でミスを犯して自滅するという不動のパターンを存分に展開しています。今回の仇役(悪役ではなく)は完璧に色気抜きです。ていうか、女好きかもしれませんが、実際に女といちゃいちゃする中丸忠雄は岡本作品では(他の監督作品ですとないこともないですが)見たことないですけどね。それと、悪役が不細工である場合は、おおむねモチベーションはコンプレックスに由来するので安心ですが、無双は女にも金にもこれといって不自由でなさそうなタイプなので、悪事の動機が不明で、ひょっとして趣味で人殺しやら誘拐やらをやってんのかも?という、怖い人というよりはアブナイ人の部類かもわかりませんから、その恐怖はいや増します。

ひそかに「〜西へ」に引き続いて登場の部隊長・平田昭彦(様)が、特務隊見殺しに静かな抵抗をするところもなかなかに魅力的です(きゃあ〜きゃあ〜)。「裏切り御免!」のパロディをやる藤田進、ひょうひょうとしたミッキー・カーチス、実に魅力的なキャラクターてんこ盛です。ところで「独立愚連隊」では冷や汗状態の佐藤允さんが、素晴らしく乗馬が上達しているのでそこにも注目しましょう。

2008年11月10日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-11-11