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悪魔が呼んでいる


■公開:1970年

■製作:東宝

■配給:東宝

■製作:田中友幸、田中文雄

■監督:山本迪夫

■脚本:小川英

■原作:角田喜久雄「黄昏の悪魔」

■撮影:原一民

■音楽:真鍋理一郎

■編集:岩下広一

■美術:本多好文

■照明:佐藤幸次郎

■録音:富田実

■特撮:

■主演:酒井和歌子

■寸評:

ネタバレあります。


心理サスペンス劇に新劇役者は欠かせない。概ね真相解明、っていうか解説が台詞に頼ることが多いため口跡の良さが求められるからであり、不条理な現実を不条理なままリアリティを持たせるためにはハッタリの効いた芝居が不可欠だからだ。

正直の上に馬鹿がつく江原ユリ・酒井和歌子は旅行会社の契約社員。ある日、陰険そうな上司・渥美國泰から即日解雇を言い渡されたユリは友人以上恋人未満の早川・下絛アトムからも突然別離を言い渡される。その理由は「手も握ったことが無い」というもの。

こら!アトム!今までワッコちゃんと付き合えただけでも身分不相応なのに生意気だ!などと怒ってはイケナイが絵柄としてはそうだから仕方ない。あ、下条アトムのファンの方々申し訳ございません、本当なんです、信じてください(反省ゼロですが)。

何がなにやら???で帰宅するユリ。ところがそのお世辞にもキレイとはいえないトイレ共同のボロアパートの大家・野村昭子からはイキナリ立ち退きを迫られてしまうのだった。八方塞に四面楚歌、落ち込むユリの前に不気味な婆さん・北林谷栄が引越しの挨拶にやって来る。つっけんどんな態度をとってしまうユリ、だがしかし根性のあるユリは早速、出版社の入社試験を受けに行く。そこで知り合ったのが、無骨で一本調子な安全パイと思いきや意外とヤルことはヤッてそうな編集部の社員、浦辺・新克利。入社確実とタカをくくったユリは、就職のお祝いにバッグを購入して帰宅するがふと窓の外を見ると、明らかにストーカーっぽいサングラスの男が部屋を伺っている様子。

そしてなんと、なんと!出版社からは「不採用」の通知。ユリは再就職の道も閉ざされ、部屋に空き巣に入られ通帳と印鑑を持っていかれてしまい、なけなしの全財産が入った財布もスラれてしまい、フラフラと飛び込んだバーのホステスの就職口も、ハゲでチビでスケベなジジイ客・大滝秀治にスリの疑いをかけられて速攻クビになってしまい、いっそ死んでやろうかと小田急線の踏み切りに差し掛かったところを、藤村・藤木孝に助けられたユリは、睡眠薬を盛られてアパートまでついてきた藤村に結婚を迫られるのだった。

ピンチのときのワッコちゃんの変顔連発に笑っているヒマもスキも与えない。ちなみに藤村の名刺によれば彼のフルネームは「藤村大蔵」こんなところで笑い取らなくても、の感。オチが読めてもハラハラする、今後の展開に期待がモチのように膨らむ。

翌朝、特に着衣の乱れもなく貞操の危機セーフ!と安心したユリであるが、その傍らには藤村の死体。ユリ、大パニック!アパートを飛び出したユリは浦辺と遭遇。ユリは出版社の入社試験には合格していたのだった。誰かが合格通知をすり替えていたのである。明るいOLから、殺人犯へと転落したユリは全国指名手配の身。そこへ、化粧の濃い美人の玲子・田村奈巳と凶悪そうな八十島・今井健二がユリを拉致。ゴーゴー喫茶(絶滅種、死語)で派手な服装の胡散臭い男、後宮・西沢利明と結婚させられそうになったユリだったが、すったもんだあって四人は後宮のアパートへ。

そこへバーでユリに難癖をつけたジジイ、片桐・大滝秀治がゴツイ用心棒の佐野・原田力を連れて登場、ユリはやっとこさ身の回りに起きたあらゆる不条理の原因を知るのであった。片桐は頭の壊れた貧乏貴族、その甥ッ子の後宮は売れない新劇役者、殺された藤村も血縁者。ユリは、縁もゆかりも無い大金持ちが気まぐれで書いた遺言書に指名された遺産相続者なのだった。3人の男どもは大金持ちの遠縁にあたり、ユリと結婚するかまたは養子縁組するか、はたまたユリを殺してしまえば財産の分け前にありつけるハイエナであり、比較的若手の二人はユリをモノにしようとし、ジジイは金の力でユリを経済的&精神的に追い詰めて自殺させようとしていたのだった。

はた迷惑もいいところなユリ。金に目のくらんだ八十島が後宮を殺し、片桐と佐野を追い払う。その八十島と玲子の内輪もめで玲子が死亡。八十島はユリを連れ出す途中でアパートの非常階段から転落死。そして再び浦辺が登場。二人はその迷惑な遺言状を書いた大金持ちの別荘へと向かう。

別荘にいたのはアパートの隣人となるはずだった婆さん、志乃・北林谷栄。彼女は女中のように扱われながらも実は大金持ちの正妻。やっとくたばった主人の遺産が、見ず知らずの若い娘に相続されると知った彼女は、片桐たちを巻き込んで仲間割れをさせ、主人の意向を木っ端微塵にし、残り少ない人生を贅沢三昧しようとしていたのだった。生き残った片桐が別荘に押しかけてきたが毒入りの紅茶を飲んで間抜けに死亡。不気味なオカリナを吹いて関係者を混乱させたり、藤村を殺し、八十島を突き落とした(え?いくらなんでもそれは無理なのでは・・)のも志乃。そして善人顔して、何の落ち度も無いユリを最後に毒殺しようとしたのだった。

のどかな平和は実体のあるものに一突きされたら即終了だ。郵便受けのはがきが配達されたときと逆さまになっている小ワザも効いていて画面の端々の伏線が、日本のサスペンスモノにありがちな、ハラハラするよりも当事者が馬鹿に見えるシラケを封じ込めて奏功。出てくる俳優達が軒並み胡散臭いのもグッド。いつもは神経質そうな西沢利明がド派手なスーツで出てきたときは大笑い。民藝の大滝秀治が雲の西沢利明に向かって「三文役者のドブねずみ!」と罵倒するシーンは新劇業界の力関係を見た思い(なわけないか)。

虐待された挙句に発狂した志乃の不気味な微笑みがトラウマになる本作品。これ見た後で「となりのトトロ」はかなりツライものがあるので注意だ、どうでもいいが、念のため。やり過ぎ系のヒロイン、ワッコちゃんでなければ本作品は不成立だったと言えるくらいのハマリ役。街頭ロケに大部屋俳優をちりばめる贅沢さがテレビ劇とは一線を画す、よくできました。

2008年08月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-08-24