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殺人容疑者


■公開:1952年

■製作:電通DFプロ

■配給:新東宝

■製作:大條敬三

■監督:鈴木英夫、船橋比呂志

■脚本:船橋比呂志、長谷川公之

■原作:高峯秀雄

■撮影:植松永吉

■音楽:

■編集:

■美術:

■照明:

■録音:

■特撮:

■主演:丹波哲郎

■寸評:

ネタバレあります。


科学捜査フローの解説に重点を置いたセミ・ドキュメンタリータッチの映画。商業映画というよりも啓蒙映画のほうに近い。

まだ戦後7年目。街中に進駐軍の兵隊やら将校とおぼしき外人がウヨウヨいた時代。東京の雑踏。活力溢れる日常に、事件が起こる。

一人の男が殺される。その重要な関係者と思われた飲み屋の女将も殺され、その情夫と推定された山田という男は、モンタージュ写真にも酷似しており、現場から採取された指紋も一致するのだが、肝心の殺人を犯したという証拠が出てこない。そこへ証拠品が発見されと通報が入る。花形がジプシー・ローズ(本物)というキャバレーのストリッパー・野村昭子が男からプレゼントしてもらった指輪を質入したのだった。その指輪が女将の部屋から盗まれたものだった。

指輪を贈ったのは兼田・纓片達雄という男。中沢刑事・石島房太郎が容疑者として追っていた木村・丹波哲郎の事務所から顔面をボコられた若い男が出てきた。一方、兼田を追っていた豊田刑事・土屋嘉男はパチンコ屋に入った兼田を発見。逃げ出した兼田はそのままゲリラロケをぶちかましながら雑踏を逃走。通行人(本物)の協力(これまた本物)もあって、兼田は本当にぶっ飛ばされるようにして逮捕されたのだった。

手続きが遅れたためタッチの差で保釈されてしまった兼田。翌日、彼の死体が発見される。刃物で刺された上に拳銃で打ち抜かれ、走る車から放り出すという徹底的な息の根の止め方に、別にいる真犯人の焦りを感じた中沢刑事。木村の事務所で中沢刑事が見た若い男は兼田であった。最初の殺人と女将殺しは兼田の犯行、その途中で奪った指輪から足が付くのを恐れた木村の手によって兼田は殺されたのだった。木村は手下に金を渡して逃亡を図る。手下二名はパトカーとのデッドヒートの末に、土手から車ごと転落して逮捕された。

木村の冷酷なやり方に絶望した手下の一人が事件の真相を警察にコクったので木村に逮捕状が出る。若手の刑事・小林昭二や他の刑事・沢晃二(沢彰謙)らの執拗な追求を逃れた木村は、横浜から東京へとさらなる逃亡を続ける。ホテルの女給にうっかり拳銃を見られた木村は裏口から逃げ出し、下水路へ。息を殺して(ドブ水が臭いから?)拳銃を構える木村に豊田刑事が迫る。ドブ水(なにせ本物)に胸までしっかりと浸かった木村。兼田を殺しておまけに刑事を撃ってしまい重症を負わせているので逮捕されれば間違いなくヤバイ。

一度は豊田刑事をかわしたと思って安心した木村だったが、下水路から上がったところをぐるりと警官たちに囲まれてしまう。夢中で拳銃をぶっ放したが弾切れ。ついに木村は逮捕される。早朝の東京で起こった大捕り物に気づく人は誰もいなかった。

今だからアレは土屋ミステリアン嘉男だ、とか、丹波ボス哲郎だとか気がつくけれど、ここまで若いと誰が誰やらさっぱりわからない。小林ムラマツ昭二なんて顔が幼くて、やたらと元気良くて、ジャニーズの若手じゃないかと思うほど。後の沢彰謙になる(芸名変わっただけなんだけどさ)沢晃二もそんなに顔が怖くなって無くて渋い刑事さんだし。

キャスティングの狙いもズバリそこのところにあったようで、映画らしくない映画にしようというわけだから出てくる俳優は映画的には当時は完全に無名。監督の狙いはズバリ。最後まで顔見て名前がスラスラ出てこない俳優さんの一人だったと思うけど、纓片達雄なんて本気で転ばされて野次馬に踏み潰されそうになる(だって、顔がマジで引きつってるし)。リアルにもほどがあるようなシーンの連続は迫力満点、というか俳優さんが気の毒。

あの下水路、っていうかドブのシーンは本当にスクリーンから匂いがプ〜ンと漂ってきた。絶対に何か浮いてたし、しかもシツコク長回しなもんだから見てるとゲロ吐きそうだったけど、そこで頑張っている土屋嘉男と丹波哲郎に敬意を表して我慢した。

ゲロ我慢しながら映画観たのなんか初めて。

指紋採取の様子とかこれまたリアルだったけどスタッフに元本職がいたそうで、たとえば保釈の延長申請とか、モンタージュ写真の作成とか、そういう当時はレアな情報満載で、アメリカ産事件捜査のリアル系ドラマ、ゲイリー・シニーズの「CSI」の先駆けと言えるかも。完全にアナログだけど。

本作品は丹波哲郎の映画デビュー作。彫りの深い顔立ちに長身痩躯、ちょっと見は完璧に欧米人。新東宝の「女奴隷船」のときは黒いチューリップみたいでやっぱカッコよかったが、この頃はまだ演技と呼べる以前でとにかく高い運動性能と体当たりな感じでエネルギッシュな野獣派。この丹波哲郎と対決するのが超若い&ガリガリの土屋嘉男である。ギリシア彫刻みたいな神経質そうなマスクでこれまた運動性能抜群。犯人を追いかけるときのダッシュ力は小柄な小林昭二が分解寸前になるまで頑張らないと追いつけないくらい。

監督のクレジットが二人なのは途中で鈴木英夫が別の作品のために現場を離れたことによるもの。別に途中で降りたとか降ろされたとか、死んじゃったとか、ヘソまげて帰っちゃったとかじゃないらしい。

ちなみに丹波哲郎のクレジットは、エンドロールでは丹波正三郎(本名)。

2008年07月27日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-07-27