「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


春高楼の花の宴


■公開:1958年

■製作:大映

■配給:大映

■製作:永田雅一、米田治(企画)

■監督:衣笠貞之助

■脚本:衣笠貞之助、相良準

■原作:川口松太郎

■撮影:渡辺公夫

■音楽:斎藤一郎

■編集:

■美術:柴田篤二

■照明:泉正蔵

■録音:橋本国蔵

■特撮:

■主演:山本富士子

■寸評:

ネタバレあります。


山本富士子の鼻っ柱はギザ強い。男を喰って伸びるタイプ。

琴の家元・滝澤修の娘、伊佐子・山本富士子は一門の理事長である鈴木彦兵衛・上原謙と婚約中。だがそれは家元が起こしたスキャンダル隠しに奔走した理事長への義理によるもの。伊佐子のハートは家元の愛弟子だった光雄・鶴田浩二にロックオン。その光雄は後継者争いのために伊佐子をモノにしたと言われるのが嫌で事実上の絶縁状態。光雄の作曲センスは素晴らしく、オーケストラと琴の共演を夢見ていて、親友の作曲家、石川・芥川比呂志にアドバイスを得ている。

伊佐子は父親の故郷での演奏会に同行した光雄とイキオイ余って結ばれてしまう。それでサヨナラというわけにもいかず、結婚式の当日、顔を見せた光雄に伊佐子が取り乱し、それを見た光雄はとうとう会場から花嫁強奪というトンでもない行動に出る。

これがアメリカ映画ならサイモン&ガーファンクルの「スカボローフェア」でも聞こえてきそうなものであるが、ここは陰湿な日本であるから、控え室に戻って心臓バクバクの伊佐子に、まるでストーカーのように忍び寄る光雄。でもって、トンビに油揚げ状態の鈴木理事長は東宝から客演のプライドもあって(そうか?)タキシードの生花を投げ捨てるという超カッコいい激怒。病気の家元は俗物の理事、田中・清水将夫に説教されてしまうのだった。

スキャンダルで一門の名を汚すのが嫌だったから家出したんじゃないのか?パワーアップしてお返ししちゃダメじゃんか、光雄くん!

優男である光雄に金と力は期待薄だが、伊佐子には美貌と根性があった。伊佐子の付き人であり最大の理解者でもあった美代・小野道子のおかげで隠遁生活は順調だったが下世話な興行師・永田靖に騙されて場末のストリッパーと共演させられた「逃亡花嫁とその情人(小屋の看板)」コンビであったが、小屋の若い衆と光雄が喧嘩の最中に熱湯を浴びてしまい登録抹消。入院中の光雄はせっせと作曲に勤しむが、入院費を稼ぐために伊佐子は仕事を探すと言ってはしょっちゅう外出。不審に思った光雄は訪ねてきた興行師から、伊佐子が酔っ払いやドスケベな観客の嬌声に我慢して舞台出演を続けていたことを知る。光雄、超ブルー。

メロドラマの二枚目って奴はどうしてこう軟弱なんだかなあ。しかしながら喧嘩のシーン、強くないはずの設定なんだけどカラミ役が遠慮した?のか胸ぐら掴むスピードとパワーは光雄(っていうか鶴田浩二)のほうが断然上だったのでちょっと笑ったんだが。

そこへ、金と力と美貌に恵まれ、芸術のためなら無償の援助を惜しまず、おまけに花嫁を横取りされたのにやっと行方を突き止めた彼女の肉体すら要求しないという神様のような(いや、まったくその通り)鈴木理事長の助言により伊佐子は実家に戻ることに。しかし理事長の努力むなしく、光雄の復帰だけは一門の大反対に遭って実現しない。そして光雄が作曲したオーケストラ曲は家元の還暦祝いの会でお披露目されることになる。

男の出世のために女が身を引くというのは良く聞く話だが、本作品は逆。女の、ってもジャンボ&ゴージャスな山本富士子だが、成功のために周囲の男子が骨身を惜しまず多大な自己犠牲を払うという、かなりな展開。身を削る男子のその中の一人が鶴田浩二。完全二枚目、しかもベッタベタ。旅先で酔ったイキオイ(ただし酔っ払っていたのはお富士さんのほう、鶴田は素面)で一夜を共にするシーンなんて「光雄さんの馬鹿!馬鹿、馬鹿」って色っぽい声出しちゃう山本富士子に欲情メーター限界突破で鶴田浩二がのしかかるという、おいおい鶴田、大丈夫かよ?

そもそも鶴田浩二が作曲家?十八番のほっぺピクピク演技で繊細なイメージは出てるかもしれないけど、登場シーンはダメダメだ。石川のアパートを訪ねてくるときに、うつむき加減なのはいいけど肩ゆすって歩いちゃだめだろう。どう見ても喧嘩っぱやいチンピラだ。最初からこうだから、どうしても、その後のイメージを頭の中で消去してもやっぱメロドラマ、じゃないんだよな、この人は。鶴田浩二って顔はすごい綺麗だし甘さもあるし色気もあるんだけど、根が照れ屋で自我の強い人に、映画の二枚目はやっぱ無理と見た。それと、男くささがあり過ぎだし。

二人のメロメロぶりを盛り上げる敵役のほうは俗物ぶりを大爆発させて百点満点。清水将夫の説教は常に正論だし、こんなインチキくさい興行師に騙される二人の世間知らずにはイラっとさせられるし、特にストリップ小屋の観客は浅草あたりからスカウトしてきたんじゃないかと思うほどのリアリティ。なんかタバコと一緒にすっぱい香りがスクリーンから漂ってくるようだった。

見ているこっちが赤面するほどのメロメロドラマだが、最後に家元から円満勘当された山本富士子が身を引いたはずの鶴田浩二を雑踏の中に、まるで警察犬のような嗅覚で発見し喜色満面で突進していくところは、すれ違いの連続でただ単に臭いメロドラマに終わらず、山本富士子の成長物語として完成したところが救いかも。交通渋滞のオープンセットで信号が赤から青に変わる過剰なサービス付。

芥川比呂志の役は、指揮棒振ってるってことはオーケストラ譜面作れるほどの実力があるという設定なわけだが、どうやらピアノが全然弾けないらしいので、この役、手元のアップと指揮のシーンや芥川也寸志にでもやってもらったほうが良かった。これが芸事の映画じゃなければ気にならなかったんだけどさ。ところで鶴田浩二は胡弓を本当に弾いてるんだろうか?山本富士子だけが手元大アップだったってことは弾けてるんだろうか?こういう映画を観る時には音楽の素養も必要なようだ。まだまだ修行が足りんな>筆者、馬の映画なら負けないが(負け惜しみ)。

結婚式の会場で花嫁を見送る中に藤巻潤に物凄く似ている若い人発見。真偽のほどは定かでないので情報求む。

2008年07月06日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-07-06