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白と黒


■公開:1963年

■製作:東宝、東京映画

■配給:東宝

■製作:佐藤一郎、椎野英之

■監督:堀川弘通

■脚本:橋本忍

■原作:

■撮影:村井博

■音楽:武満徹

■編集:

■美術:水谷浩

■照明:比留川大助

■録音:原島俊男

■特撮:

■主演:小林桂樹

■寸評:

ネタバレあります。


俳優座総出演。ここまで揃えると東宝映画というよりは俳優座映画でいいんじゃないかと思う。

死刑廃止論者の高名な弁護士、宗方・千田是也の若い後妻、靖江・淡島千景を情事の末に絞殺したのは、宗方の弟子である弁護士の浜野・仲代達矢であった。事件は女中・菅井きんによって警察に通報され、たたきあげの刑事、平尾・西村晃が担当する。室内が物色されていたので事件は強盗殺人事件とされ、犯行直前に宗方邸を訪問していた浜野も尋問されるが、その最中に犯人逮捕の連絡が入る。逮捕されたのは住所不定、前科のある脇田・井川比佐志という男。盗品持ってたし、前科あるし、ということでほぼ犯人と断定。

捜査検事は落合・小林桂樹。ふてぶてしい態度の脇田を尋問し、ついに自供を得る。事件はスピード解決、公判検事・永井智雄への引継ぎもスムーズ。警察も検事局も打ち上げ完了。脇田の弁護は、宗方と浜野が担当することになった。建設省の役人で羽振りのいい岩崎・山茶花究と飲みに繰り出した落合は、たまたま顧客の建設業者・東野英治郎と一緒にいた浜野と遭遇。脇田が真犯人だと信じている落合の発言に、酔っ払った浜野は思わず反論、あわや喧嘩になりかかる。

恋人・大空真弓とも上手く行ってるし、別の「真犯人」も自供してくれて一安心だった浜野であるが、根が真面目なのでこのまま脇田が死刑になるのが耐え切れない。落合も職能的な勘で真犯人が別にいるのではないか?と疑う。渋る上司の吉岡・小沢栄太郎の許可を得て平尾、助手の矢野・浜村純とともに補充捜査を開始。浜野と靖江の情交が明らかになり、決め手となったのは、浜野の婚約者に送りつけられた結婚妨害メール(手紙)。筆跡鑑定士・横森久によって靖江のものと断定される。

落合は浜野と安宿で二人きりとなり、良心の呵責に耐えかねた浜野が自供。誤認逮捕の批判を恐れず真犯人を探し出した落合は一躍マスコミのヒーローに。ところが一通の手紙によって、靖江の死亡時刻が覆ってしまう。宗方に世話になったという男・浜田寅彦の証言により、靖江が死んだと思い込んで浜野が逃げ出した後に失神状態から覚醒し、そこへ侵入した脇田によって、もう一回、本格的に絞殺されていたことが判明。結果的に警察と検事局の「見込み捜査」の誤りだということでマスコミは一転して批判モードへ。落合は北海道へ左遷、浜野は釈放される。

この映画には本当の「ラスト」があるが、さすがにそこんところ書いちゃうとツマンナイのでカット。

淡島千景が速攻で絞殺されたのには驚いた。しかも、だよ、回想シーンと全然無し。おまけに二度も断末魔。二枚目の仲代達矢が相手ならまだ華もあるけど、二度目は井川比佐志に馬乗りになられて秒殺、死んでも死に切れないよなあ。でも、あんな美人の大物が、若い女子に嫉妬して下劣な手紙書いちゃうってところが、ジーさん相手で身体もてあましたお色気後妻の暗黒面が強調されたと言えなくも無い。

ほぼ台詞劇なのでこういうのやらせたら新劇俳優は口跡のよさで圧勝。犯人役の井川比佐志は不細工なところが味以前の頃なので、そのコンプレックスをバネにした「人間のクズ」という美味しい役どころである。これに対し、エリートでモテモテの仲代達矢は掴み所がなくて割を食った印象である。つまり、浜野という人物の過去・現在が何も語られないのである。観客は浜野が仲代達矢であるということしか分からない。これは演るほうも大変だったと思うが、見ているほうもなんともいえない演者の居心地の悪さに同情しかかるのであるが、そこを技術で乗り切る仲代達矢はやっぱ、上手いなあ。

もう一人、この映画にはキーマンがいる。それは浜野の最後の婚約者となるお嬢様・大空真弓である。どうも大空真弓ってこういう腹黒いっていうか、シビアっていうか、ドライっていうか、美人なのにシブトイ役どころが多いような気がする。

小林桂樹は妻・乙羽信子の勧めに従い下半身の後方部分の病の手術をするのであるが、手術後の「痔」演技は真に迫りすぎ、痛々しいを通り過ぎて、本作品における唯一の大笑いシーン。身に覚えのある輩には顔面が引きつること請け合い。

後に仲代達也と喧嘩別れする千田是也を筆頭に幹部俳優がごっそり出演。このほか岩崎加根子野村昭子木村俊恵。チョイ役で東野(ジュニア)英心も。あと、実名出演で大宅荘一松本清張という大盤振る舞い。

2008年05月25日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-05-29