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阿部一族(1938)


■公開:1938年

■製作:東宝映画、前進座

■配給:

■製作:武山政信

■監督:熊谷久虎

■脚本:熊谷久虎、安達伸男

■原作:森鴎外

■撮影:鈴木博

■音楽:深井史郎、P・C・L管絃楽団

■編集:今泉善珠

■美術:北猛夫

■照明:平田光治

■録音:安恵重遠

■特撮:

■主演:中村翫右衛門、河原崎長十郎

■寸評:

ネタバレあります。


ミスリードの積み重ねが招く一族全滅。制度の犠牲は洋の東西、時代の新旧を問わず。

阿蘇山の噴煙とともに逝去した肥後藩主、細川忠利。内藤長十郎・市川菊之助は酒癖の悪いのを殿様に庇ってもらうほど寵愛を受けていた。彼は新婚の妻を残して殉死する。当時としては最高記録と思われる合計十八人もの殉死者が粛々と切腹していく。

悲劇の発端である阿部一族の弥一右衛門・市川笑太郎の場合は亡君に殉死を願い出たが「息子のために生き残って欲しい」と言われて許されなかった。

殉死は自己申告制で生前の殿様の許可が無ければ認められない。無許可の追い腹は犬死とされる。藩主の寵愛を受けていた弥一右衛門は当然、殉死が許されると思っていたのである。殉死は武士の誉れ。「おめおめと生き残った」と城内の者達は口さがない。このままでは一族の不名誉になると判断した弥一右衛門は息子達に兄弟仲良く頑張るようにと言い残して切腹する。今度は「勝手に死ぬのは犬死だ」との噂がたつが若い新藩主の光尚・生方明の計らいで殉死者と同格の扱いとなる。

殉死した遺族は厚遇される。しかし正式の殉死ではないということで阿部一族は異なっていた。父親の石高は兄弟で均等割りにされてしまったので、結果的に今までニートだった次男以下の兄弟たちにはありがたい配慮だったが、長男の権兵衛・橘小三郎は減俸処分となってしまう。これでは面目丸つぶれだと強く恥じた長男の権兵衛は、父親の位牌が無いことでストレスがピーク越え、先代の一周忌の席上で髷を切ってしまうのだった。

武士として汚名返上のための行為だったが、同じく殉死するはずと言われていた柄本又十郎・河原崎長十郎は彼の行為に深く共感したので、心神耗弱状態を主張し罰を軽くしてもらおうと全力で説得する。しかし権兵衛は、自分は正気だった、武士を辞めるつもりだった、などと正直に証言。大目付の林外記・山崎進蔵 (河野秋武)は武功で出世した阿部一族にひそかに嫉妬してたので、客観的事実のみに着目し、心情には一切斟酌せず、権兵衛は切腹すら認められずに盗賊並の縛り首の刑にされてしまう。

阿部一族の次男、弥五兵衛・中村翫右衛門は先代の供養のために来ていた高僧、天祐和尚・坂東調右衛門に助命を請うがはぐらかれてしまう。最後の頼みの綱に宮本武蔵にまで助命を頼んだがあらゆる手立は失敗に終わった。三男の一太夫・市川進三郎(若宮忠三郎)は光尚とも同年代で仲がよく、そもそも光尚はこの一太夫が知行を得た事で満足してしまったのである。

一族の品格を測るには末っ子を見れば分かるもので、四男の四男五太夫・山崎島二郎はヌーボーとしていて実は一番覚悟のできていた男、そして末っ子の五男の七之亟・市川扇升はまだ子供だがみんなに可愛がられる素直な熱血小僧。一族のプライドを木っ端微塵された兄弟とその家族は、弥五兵衛の屋敷に立て篭もる。隣家の柄本又十郎は夜中に妻の登枝・山岸しづ江(河原崎しづ江)を訪問させ、玩具やお菓子を一族の子供達に与えた。

翌日、城からおびただしい数の討手が押し寄せる。先陣は竹内数馬・嵐芳三郎である。数馬は最初から討ち死に覚悟でそのとおり憤死した。一族は狂ったように闘ったが最後には全滅してしまう。散乱する玩具に女子供は皆自害したことが分かり、屋敷は炎に包まれた。

光尚は大切な家臣が自分から去っていくように感じ、己の浅はかな処遇で結果的に阿部一族が全滅したのとで、結局生き残った連中は点数稼ぎばかりとなったことに逆ギレ。陰湿な企みをした外記を叱り飛ばし、屋敷に先陣切って飛び込んだ柄本又十郎を抜け駆け呼ばわりしたくせにろくすっぽ闘いもしなかった畑十太夫・中村鶴蔵を追放した。

武士の忠義とは何か?そもそも武士とはどういうものなのか?「潔し」という言葉の意味をじっくり考えさせられる映画である。っていうか原作が。

武士に憧れて刀を貰い、最後の戦いの前日には女子供のための墓を掘り、武士とは何か?と自問しつつ、隣の女中、お咲・堤真佐子と恋仲になって「一緒に田舎に帰って暮らしましょう」と誘われたが駆け戻り、一族と運命を共にする仲間の多助・市川莚司(加東大介)が狂言回しとして観客の目になり、心になる。

映画のスケールは物理的なものには限らない、とにかく「でかい映画」である。とても収まりきらない、こんなWEBの感想文ごときでは。身の回り半径5メートルでケリのつく最近の時代劇とは完全に別格。役者もいい、一つ一つの場面のどこを切っても画(絵)になる。

まだ四十○年しか生きていないのだが、本作品を生涯ナンバーワン時代劇に決定(仮)しとこう。キャラが立ってる、全員漏れなく立ちまくり、誰が主役とかそういうのどうでもいいくらい。東映の紙芝居っぽい殺陣もいいけど、舞台の役者の殺陣は本当にカッコいい、足腰が違う。悪口言った相手を突き殺してやる!と長槍を小脇に抱えて飛び出してくる中村翫右衛門の「飛び」は必見です。

最後に焼け落ちた屋敷を見つめるお咲に思い入れ度と涙腺崩壊120パーセント保証。

2008年04月27日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-04-27