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幽霊暁に死す(幽霊曉に死す)


■公開:1948年

■制作:新演技座、C・A・C

■配給:東宝

■企画:早川征春

■監督:マキノ正博(マキノ雅弘)

■脚本:小国英雄

■原作:

■撮影:三木滋人

■音楽:

■編集:

■美術:

■照明:西川鶴三

■録音:加瀬久

■特撮:

■主演:長谷川一夫

■寸評:

ネタバレあります。


「生きてゐる小平次」じゃなくて「生きてゐる小平太」ってか?長谷川一夫って時代劇の印象強いけど、かなり顔がバタ臭いのを再確認、そこがまた素敵だったりするんだけどさ。

冴えない中学の先生、小幡小平太・長谷川一夫が元気印の美智子・轟夕起子と教会で、二人きりの結婚式を挙げていると、ほかにいるはずのない男のささやき声が聞こえてきて、つむじ風が教会に吹き渡るのだった。小平太は貧乏ながらも熱海に新婚旅行へ行こうと言う。美智子、大感激。しかし勤務先の中学は現校長の独裁状態を粉砕すべく教員一同が連判状を用いてリコール運動の真っ最中。優柔不断だが二枚目なので生徒にも人気抜群の小平太はそれほど乗り気ではないのだがリーダーに担がれオマケに教員仲間の借金を肩代わりまでしてしまうのである。予算がなくなったので小平太と美智子の新婚旅行は都内の銭湯へ行き先変更。

いよいよ職員会議。校長の高圧的な演説に対して案の定、他の教員たちはケツを割ったが、小平太はまもや不思議なつむじ風と男の声に励まされ校長を糾弾し、辞表を叩きつけるのだった。美智子、そんな小平太の男気に惚れ直し。さすがに無職じゃマズイので小平太は叔父の平次郎・斎藤達雄のところへ就職支援を頼みに行くが、どうやらこの叔父とか叔母さんとかは小平太にかなり冷たい。

父親の顔も覚えていない小平太は親戚一同が自分を見てビックリする理由がよくわからないし、なんで冷たくあしらわれるのかも謎。実は、小平太はセレブの一人息子だったのだが早くに母親を亡くし、父親も彼が赤ん坊のころに死んでしまったので、後見人として名乗りをあげた平次郎が財産をガメてテキトーに山分けしてしまったのである。おまけに父親とウリ二つに成長していたもんだから、後ろめたい、特に、平次郎はビビリまくり。

平次郎と叔母たちは小平太父親が建てた軽井沢の林の中にある山荘の留守番という短期のアルバイトを小平太夫婦に紹介する。この物件は幽霊屋敷と呼ばれ地元民も恐れて遠回りをするというシロモノ。資産価値があるのに転売できずに困っていた平次郎は小平太と美智子が無事に過ごせればすぐに追い出し、売っぱらってしまおうというハラなのである。

で、この、親戚やら関係者やらが小悪党の集団で平次郎の妻たけ子・沢村貞子は良心の呵責故か微妙に病んでおり、その娘・月丘千秋だけは奇跡的に可愛くてイイ娘、叔母の優子・飯田蝶子なんて頭悪いのに下半身だけは強そうだし、番頭の安積文夫・徳川夢声はかなりの粘着気質。まったくどいつもこいつも。

小平太と美智子はプチ新婚旅行のつもりで出発。場所がよくわからない小平太は幼馴染の太三郎・田端義夫に案内を頼む。途中、風嵐に見舞われた小平太だったが、またもや男の声に誘われ、嫌がる美智子を手を引っ張って林の道を進んで行く。美智子的には愛するダーリンの言うことに理性は従うが、なにせお化け屋敷であるから、本能としては木にしがみついてしまい歩くことが出来ない。轟夕起子を水浸しにして立ち木にしがみつかせるなんて(面白いけど)、マキノ、女房だからってやりたい放題の演出、こんなことさせっから逃げられたのか?

やっとこさ到着したのはいいけれど、当然、電気水道ガスは来てないので真っ暗。玄関を一歩は行ったとたんに「あなたー!もう帰りましょうよー」と半泣きで叫ぶ美智子であった。ロウソクの明かりを頼りに山荘の中を探検する二人。だが不思議と小平太はすらすらと歩ける。翌朝、明るい日の光で見れば、ホコリだらけながらも中はわりとゴージャス。早速、掃除を始めた二人はお化け屋敷であることもすっかり忘れていた。食事の用意をしていた美智子は、時代物の服を着た小平太が妙に気障な物腰で立っているのを発見する。

美智子が明るく「その服、だっさーい」と言うと、その古臭い小平太はさらに古めかしい服装に着替えるのだった。そこへ思いっきりカジュアルな服装の小平太がもう一人現れる。幽霊はこの山荘の主で小平太の父親の平太郎・長谷川一夫(二役)。早世したのでリアル小平太と同年齢の若々しい姿。最初はビックリしたけど、小平太としては嬉しかったし、別に恨まれてるわけじゃないので馴れちゃえば幽霊との親子(嫁を含む)三人暮らしも悪くない。いずれは天国へ旅立たせてあげたい小平太であったが、平太郎は小平太のシアワセを見届けて、強欲な親戚一同に恨み言を言わないと自分は成仏できないと告げる。

小平太は太三郎、彼の父親、太七郎・花菱アチャコに幽霊=父親を紹介する。平太郎の親友だった太七郎。山荘の所有権は一時的に太七郎が預かっていたのだった。平次郎たちは文書を偽造して所有権を横領していただけだった。小平太は一計を案じ、親戚一同を山荘へ招待する。

幽霊と息子の二役同時出現シーンで一番オシャレだったのは、親子が向かい合ってウインクするシーン。すごくシンプルに鏡を使っただけなのだが、CG馴れしている眼には新鮮。時代劇だと当然やってくんないわけでしょ?長谷川一夫は、ウインクなんて。ウインクして照れない日本人なんて奇跡だし、美形だから個人的には流し目よりもウインクのほうが素敵だわ、きゃあっ。

平太郎が残した遺書には、小平太一人だけのシアワセではなく「財産を平等に分け合って、親類一同が仲良く暮らして欲しい」と記してあった。感動する小悪党一同。そして思いを遂げた平太郎は、可愛い息子夫婦に思い出という贈り物を残し、太三郎に供養されて旅立つ。

幽霊が邪な者どもをただ懲らしめるのではなく、さらに大きな愛情でもって改心させるというのがいい。平次郎だって実は娘可愛さでやったことだし、幽霊の父親が描いた美智子の絵が見る見るうちに消えていくのは、お金やモノじゃなくて愛情こそが最も尊くて大切な思い出なんだというメッセージ。

屈託のない現代(っても当時だけど)青年と、アーティストでセレブなの父親、後者のほうがいつもの長谷川一夫なので、前者の、おそらく将来は山脈のような轟夕起子の尻に敷かれるかもしれないけど、ちょっと頼りない長谷川一夫のコミカルな演技が最大の見どころ。職員会議の席上、平均的な日本人の男子集団の中にいる長谷川一夫の美男子ぶりがあまりにすごいのでひょっとして3DCGだったかもしれない(な、わけがないけど)。あそこまで美形だと日常生活に支障を来さないのだろうか?とちょっと心配になるくらいだ。というわけで美男子フェチにはお宝的絵柄満載の作品。

2008年04月06日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-05-18