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血とダイヤモンド


■公開:1964年

■制作:宝塚映画

■配給:東宝

■制作:田中友幸

■企画:富田環

■監督:福田純

■脚本:小川英、間藤守之

■撮影:宇野晋作

■音楽:沢田駿吾

■編集:庵原周一

■美術:竹中和雄

■照明:小西康夫

■録音:鴛海晄次

■特撮:

■主演:宝田明

■寸評:

ネタバレあります。


東宝なんだけど、東宝じゃない、それが宝塚映画である。そのキワモノ感が最高に味わえるのが本作品だと、言い切ってしまってもいいんじゃないだろうか。

ダイヤモンドの原石をめぐるほぼ12時間の争奪戦。神戸税関襲撃を計画していた宇津木・田崎潤たちはあと一歩のところで謎の四人組に横取りされてしまう。外人バイヤーの運転手をしていたルファース・チコ・ローランドがベッドの中でささやいた情報を手に入れたのはしがない女給の利恵・水野久美、主犯格の小柴・佐藤允、小柴に拾われた若い男、ジロー・石立鉄男、小柴の仲間で元警官の跡部・藤木悠、そして跡部にカモられた手代木・砂塚秀夫

そこへ悪徳私立探偵の黒木・宝田明が絡んでくる。ドブネズミなみの嗅覚を持つ黒木はダイヤモンドにかけられている保険金に目をつけて保険代理人のポール・オスマン・ユセフと取引しようとする。強奪したダイヤとともに一団は港の廃屋に潜伏。

ガードマンに撃たれて負傷した小柴を最初に裏切ろうしたのは跡部。ジローは小柴を助けるために初老の外科医、秋津・志村喬とその娘の津奈子・中川ゆきを誘拐。娘を人質にとられつつ、しかも高齢のため手先が震えてしまう秋津は必死の思いで弾丸を摘出するのだが、すでに小柴の身体には破傷風菌が増殖中。秋津は手代木とともに血清を強奪。あまつさえ警察に非情警戒を解除するように電話をかけるのであった。一方、黒木はポールとの取引に失敗。小柴から原石を買う約束をしていた故買屋の崔・遠藤辰雄は、宇津木に殺される。

崔の代理で取引現場に来た楊・牧野児郎も殺される。刑事の児玉・夏木陽介は上司の沼田・内田朝雄とともに警察の面子にかけて捜査を精力的に続行。利恵が小柴を宇津木に売った。黒木は利恵の裏切りを知り、小柴たちを逃がそうとするが、すでに周囲は宇津木たちに包囲されていた。激しい銃撃戦が始まり、利恵、小柴、ジロー、跡部、手代木らが次々と倒されていく。小柴は黒木に淡い友情を感じつつ、朦朧となったまま廃屋の外に出て銃撃される。

そこへ警官隊が駆けつけて秋津父娘は無事救出。宇津木も逮捕された。小柴のアジトを警察にチンコロかましたのは黒木だった。最後に裏切った黒木の足元に瀕死の小柴の銃弾が炸裂する。警察の車で送られていく秋津と津奈子、全滅した強盗団たち、その間の細い突堤を一人生き残った黒木は歩き去っていくのであった。

狐と狼の化かしあい。狼は猟師の銃弾に狩られ、狐は一直線に細い足跡を残して去っていく。

アイ・ジョージの歌に痺れている間に、ピーンと張り詰めた少人数の登場人物は誰一人として信用できない。誰が次に裏切るのか?誰が最後に生き残るのか?観客はスクリーンから一瞬たりとも眼が離せない。マニアックな福田純の絵柄には東宝の俳優だけでは品が良すぎる。内田朝雄や遠藤辰雄という非東宝系の俳優たちが添える大人の凄みも相まって、必要最小限のライトと音と台詞によって浮かび上がるのは、冴えない人生をなんとかしようとしている奴らの足掻きと絶望的な未来。

卑屈で、傲慢で、幼いくせにやたらと粗暴な若者役の石立鉄男が圧倒的に魅力を放つ。人生たそがれ時の悲哀をこれでもかと放出する志村喬と堂々タメ口、じゃなかった双璧の存在感である。水野久美の悪女っぷりも、やっぱ三白眼で悪党ヅラだよなあと再認識の藤木悠が宝田明と殴りあいをするなんてちょっと東宝カラーじゃお目にかかれない、レアモノ感が目白押しだ。

だがしかし、この映画の白眉は宝田明の悪党演技だったと断言しとこう。お調子者と裏切り者は紙一重。おタカのスマートな都会的センスが、そのノリのよさが底抜けのいやらしさに変わるとき、ああ、そんなおタカは明るく楽しい東宝映画じゃあ絶対にお目にかかれないのさ。野獣派の佐藤允とキザな宝田明の対比、この映画のコンセプトって視覚的にとことんわかりやすいと言えるかも。

こんなにタイトでスタイリッシュなギャング映画が、この日本にあったんだ!と眼からウロコの十や二十は落ちること絶対保証。平素は日本映画を愛でてはもて遊んでいる「日のあたらない邦画劇場」としてはきわめて珍しく正直に大絶賛。

2008年02月24日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2008-03-02