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妖星ゴラス


■公開:1962年

■制作:東宝

■制作:田中友幸

■監督:本多猪四郎

■脚本:木村武

■原案:丘美丈二郎

■撮影:小泉一

■音楽:石井歓

■編集:長沢嘉樹

■美術:北猛夫、安倍輝明

■照明:岸田九一郎

■録音:伴利也

■特撮:円谷英二、有川貞昌、渡辺明

■主演:ブルドーザーのミニアチュア(筆者推奨)

■寸評:

ネタバレあります。


東宝を代表する美人女優だったわりには主演作品ってほとんど無いような気がする白川由美と、ドラッグ・クイーンこと水野久美が好対照のヒロインを演じる地球滅亡回避SF映画。ところで映画の冒頭、いきなり水野久美と白川由美が下着姿で泳ごうと言い出し、脱ぎかけるのだが、そんな時の水野久美はきっと次のシーンで宇宙人に犯されているのではないか?とか想像してしまうある種独特なフェロモンを放出していると思う。ところが白川由美にはそうゆう危険な香り、て言うか色気というものをほとんど感じない。たとえば司葉子なんかは「いやよいやよ」と言いながらもちゃっかり布団の中で待っていそうだし、星由里子は無言で男に布団を敷かせるような力量感すら漂わせている。ところが白川由美は下着一丁で布団の上に座ったまま「で、このあとどうするの?」とか真顔で訊いてきそうな気がする。まず、相手の男はドン引き確実、ただ一人、佐原健二だけは「うーん、うーん」とか言いながら一緒に悩んでくれそうなのが救いだ。

本題とどんどんズレて行くのでこの話はここまで。本作品の市場的価値としては特撮とか入浴シーンなのだが、昭和の男前俳優フリークの筆者としては、この映画の見どころは池部良がいかにやる気を出すかにかかっていた。しかし、やっぱりそうは問屋が卸さなかった。

1980年代、すでに宇宙開発が本格化していた頃、土星探検のために打ち上げられた宇宙船が、謎の新星「ゴラス」に衝突し遭難。しかもそのゴラスが地球へまっしぐら、かつ、ブラックホールのように、当るをさいわい星だの塵だのを飲み込んでぐんぐん成長している事実に驚いた全人類が、国家間の利害を乗り越えて一致団結、仰天するような手段で地球滅亡を回避する話。

ストーリーなんかこんなもんで十分。ただ通り過ぎるだけで人類のイデオロギーすら木っ端微塵にしたゴラスは、まさに最強の侵略者と言えるかも。本人(か?)に罪悪感ゼロなだけに余計に怖い。地球がなくなるのではないかという究極の事態がそう簡単に信憑性を得られるはずもないので、日本国政府の首脳・佐々木考丸小沢栄太郎河津清三郎らは巨額の経費をフイにした責任追及といった目先の事象にとらわれまくりなのだが、一人、理系官僚・西村晃だけは事態の緊急度を理解し、河野博士・上原謙(は、ともかく)、田沢博士(え?博士?)・池部良らを招集し国連に働きかけて「地球ロケット化」プロジェクトを発足する。

理系の優秀な博士であるにもかかわらず劇中では娘みたいな白川由美とラブラブ、良ちゃんったらもー!

ゴラス爆破か?地球の移動か?という前代未聞の作戦のヒントが現役高校生(中学生かも)・坂下文夫の思いつきというところが凄い。しかもこの少年は質量が途方も無く巨大になったゴラス接近に伴う地表の天変地異の只中においても台風に毛が生えたくらいの恐怖心しか抱かず、徹底的に楽天的。ある意味、この映画でもっとも頼もしい登場人物の一人。本作品はゴラスに最接近して記憶喪失くらった熱血純情ヒーロー金井・久保明以外の登場人物が妙に落ち着いている映画なのである。なんかもう、志村喬と上原謙と田崎潤(は、殉職なのに)が出てきただけで絶対に成功するに違いないと思わせるのである。ここで藤田進(出て来ませんが)なんか出て来た日には勝ったも同然。

あ、言い忘れていたがゴラス爆破に向かう宇宙船の遠藤艇長・平田昭彦(様)の制服姿は惚れ惚れするほどカッコいいのでファンはその両目に焼き付けておくように。血気にはやる若い衆に対して、クールに無言で首を振るその後姿、きゃあああ〜素敵ぃ〜。

本作品はキャスティングの段階で人類の勝利が確定している、たぶんそう。しかし理系のヒーローが池部良、そこんところが一番不安と言えば不安だが、この映画は良ちゃんの「やる気の無さ」が奏功するという更なるミラクルが発見できるのである。こんなに重責を負っているはずの主役がこんなにフツーでいられるならば、地球は助かるに違いないという根拠のまったくない安心感。いくら「大変だと」言われてもピンと来ない清涼感。きっと本当にこんなことが起きたら人間は意外と平静でいられるのかもしれない。想像できない恐怖というのは、事が大きすぎて具体的な行動を起こせないが故に結果的に平常心になるのではないか?

たとえば、東宝特撮映画の地縛霊、タクシーの運ちゃん・沢村いき雄のように。

南極に大規模なロケット建設が始まると、当然ながら突貫工事、落盤事故にも見舞われ、怪獣(マンダ)も出てきたりなんかして困難を極める。でも、そんな大変なときでも良ちゃんに「××日の遅れだ」と棒読みで言われるときっと大丈夫、すぐ取り返せるに違いないと思えるし、なんと言っても圧倒的なミニアチュアセットの迫力を見ただけで安心度100パーセント。本作品は実は人間の俳優達よりも(注:平田昭彦(様)以外)ミニアチュアがもっともいい芝居をする映画でもある。ブルドーザーが砂をかき分け、クレーンがマッチ棒のような鉄骨を引き上げ、見えるか見えないかくらいの位置にあるトラック(これもミニアチュア)が何台も行き交う。画面の隅々まで埋め尽くされた物言わぬはずのセットが実に雄弁なのである。

本作品は人間よりもミニアチュアのほうが頼もしく見え、かつ、小芝居で泣かせまくる日本映画史上、稀に見る傑作。

で、その妖星ゴラスは地球をかすめて通り過ぎていくのだが、おかげさまで記憶喪失から回復した金井たちは水没した東京を見て地球再生を誓うのである。しかし、どうやって軌道に戻すんだろね?地球を。それも良ちゃんの「これからが大変だ」の一言で済んじゃうんだけどね。あと、脳天気な宇宙パイロットたち・二瓶正典太刀川寛らに任務の重要性を自覚させたのがキャバレーの怪しい客・天本英世だったことも書いておこう。出場が少なくてもきっちりと存在感を、あのビジュアルと声で残す。

2007年12月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-12-25