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天下の快男児 万年太郎


■公開:1960年

■制作: 東映

■企画:根津昇

■監督:小林恒夫

■脚本:舟橋和郎

■原作:源氏鶏太

■撮影:飯村雅彦

■音楽:木下忠司

■編集:長沢嘉樹

■美術:田辺達

■録音:加瀬寿士

■照明:川崎保之丞

■主演:高倉健

■寸評:

ネタバレあります。


「天下の快男児」という映画は松竹(1966年)にあって竹脇無我が主演しているが紛らわしいことこの上ない。と、健さんファンは勝手に憤慨するのである。

育ち盛りの新人俳優には青春映画がイケるんだと、他所様の成功に便乗せんと企んだのかどうか知らないが、当時、東映の新人であった高倉健と今井俊二(後:今井健二)が先輩後輩のサラリーマンコンビで展開する喜劇映画。「青春」その二文字がもっとも似合わないスター、それが高倉健である。

大手化粧品会社のヴィーナス化粧品の本社では、九州支社から万年太郎・高倉健が転勤してくるという噂でもちきり。男性社員・岩城力(岩城力也)らの情報によると、万年太郎は女癖が悪く喧嘩っ早い狂犬のような人物らしい。美容部の若子・山東昭子は、故・逸見政孝アナウンサーと平田昭彦(様)を足して天日干しにしたような村田課長・大村文武に言い寄られて困っていたので、万年太郎の後輩である善人派の増田・今井俊二とともに上野駅に太郎を迎えに行くことにした。性豪の野蛮人を想像していた若子の前に現れたのは、長身でハンサムで、おまけに耳の大きな優男なのであった。

好青年がその不器用さゆえに周囲に誤解を生じさせながらも、持ち前の明るさと実直さでピンチを乗り切り、ヒロインとの恋が成就する。しかも、そのヒロインの性格は(とことん)悪い。そこに展開されるのは東宝「若大将」的世界感であるが、東映の人間も馬鹿じゃないので、加山雄三のスマートさ、都会的センス、等々の強みに対して「田舎者の野暮ったさ」をもって差別化するという、しごくまっとうなプランを選択したため、きわめてテンポが悪い作品になってしまった。

で、映画の話に戻ると、万年太郎は早速、お得意先の御曹司にして実力が伴わない中間管理職に、親の七光りで抜擢されたくせに手下(部下)・潮健児杉義一らを引き連れて社内でブイブイ言わせていた村田課長と衝突し、喧嘩をかまし、そもそも札付きだからといって、何処の会社にも存在する姥捨て山と呼ばれる部署「参事室」に配属されてしまっており、村田課長に弄ばれている良子・小宮光江にハメられ、九州時代に付き合いのあった芸者・楠トシエとの仲を本命の若子に誤解され、散々な目に遭うのだが、参事室勤務の大先輩・伊藤雄之助加藤嘉花澤徳衛のフォローを受けてことごとくピンチを回避していくのである。

化粧品会社と言えばキャンペーンガールである。当代の人気モデル、ミス・チェリー(だ、だっさー!)・久保菜穂子との契約をライバル会社と争っていたヴィーナス化粧品は、状況打開のために万年太郎を指名。太郎は交通違反を犯したチェリーたちに違反切符を切ろうとした真面目な白バイ警官・南廣を煙に巻いて逃がしたためにブタ箱へ。だがこの一件でチェリーとの契約を勝ち取ってしまうのだった。

いや、それはいくらなんでも乱暴だろうとは思うが「主人公はやたらと強運」と、青春映画では決まっているのである。

万年太郎抹殺計画も失敗し、若子にフラれて、おまけに喧嘩もへなちょこな村田課長は、こともあろうにライバル会社の重役・堀雄二たちと内通し、ヤクザ・神田隆に頼んで生コマーシャル中にチェリーを襲撃し、顔面を長谷川一夫(注:剃刀で裂傷を負わせる)にしようという物騒な計画を立案。チェリーの担当になった太郎は、良子に誘い出されてしまう。本番直前のスタジオ、ひな壇の観客に若いディレクター・梅宮辰夫が前説の最中、改心した良子によって悪計を知った太郎が、ザ・ピーナッツ(本物)の熱唱中に、画面の見切れたあたりでチェリーにまとわりついていた、ちんぴらたちを叩きのめして一件落着。

当然ながら村田はクビだが、それでも得意先が大事というわけで喧嘩両成敗の原則に基づいて太郎も転勤を命じられる。若い女子社員たちの熱烈な見送りを受けて太郎は北海道(網走ではない、たぶん)へ。若子はちゃっかりその列車に乗り込んでいて太郎と若子はメデタシ、メデタシ。

「狂犬」と噂の万年太郎の評判をさらに落とそうとした良子の先導によって女子社員たちから総スカンを食いそうになった太郎が、婦女子二名の頸部を両腕で抱き込んで強引にキスするシーンは、高倉健ファンならばお宝映像であるからしっかりと見ておこう。はるか後、伝説のテレビドラマ「あにき」で枕かじった健さんの萌芽はこの時代にあったのである。会社の方針とは言え、無理がある、あまりにも無理がある、高倉健をなんとかしようとしてすべてが裏目に出た感じ。それでも健さん、可愛い!からファン的にはオールオッケーにしておくように。

喧嘩シーンになると水を得た魚のように運動性能を発揮する健さんに対して、腕っ節ゼロの真面目社員を演じた今井俊二。なるほど事務職で東映入社も納得だが、どうしてもその、なんと言うか「狂犬ジールーの真髄を見せろ!カービン銃持って来んかい!」など後の今井健二時代を知っている現代の観客としては叫ぼう!本作品では宴会芸も披露する今井俊二、あきらかに踊りが下手、悪役転向の理由は案外このあたりなのかも。

健さんのライバル、へなちょこだけど、大村文武は劇場版「月光仮面」なので背が高くてハンサムガイなのだがこの映画ではかなり嫌味な若僧である。しかし青春映画の悪役としてはやや押しが弱い、ていうか明らかに無理がある。健さんジェネレーションとして割り食った感は否めない。このほか、健さんにカラむ地元の若い衆(若い衆ですぞ)に関山耕司、健さんに惚れちゃう料理屋の看板娘・佐久間良子らが出演。みんな若すぎて誰が誰だかよくわからないのだが、関山さんだけはまったく変わっていなかったのである意味、驚愕。

ヒロインが山東昭子というのはいかにも弱いが、東宝の白川由美、星由里子を意識してのことか、頭の固い学級委員のようなキャラクターはこの後、レギュラー化。え?続編ありますけど、何か問題でも?

2007年12月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-12-16