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赤い陣羽織


■公開:1958年

■制作: 松竹

■製作:加賀二郎、伊藤武郎

■監督:山本薩夫

■脚本:高岩肇

■原作:木下順二

■撮影:前田実

■音楽:大木正夫

■編集:河野秋和

■美術:久保一雄

■録音:安恵重遠

■照明:平田光治

■主演:中村勘三郎

■寸評:梨園の重鎮が、川に落ち、水車に回される!

ネタバレあります。


水車小屋に住んでいるのは甚兵衛・伊藤雄之助と美人でお色気ブリブリの妻、せん・有馬稲子、そして馬の孫太郎である。せんは貞淑な女性だったが、その美しさに惹かれているのは庄屋・三島雅夫と代官の荒木・中村勘三郎である。代官の荒木は婿養子でこれまた美貌の妻、信乃・香川京子がいる。信乃の家に代々伝わる赤い陣羽織、それを着るにふさわしい婿になってもわわねば、と信乃は荒木に対してスパルタ教育。荒木は落人を狩に行っても国境を越えてくれるのを辛抱強く待つような、からっきしの意気地なしである。一方、庄屋は甚兵衛の長馴染みの勘六・花澤徳衛を使ってなんとかせんと二人きりになろうとするがあと一歩というところで失敗する。

甚兵衛の村には、祭りの間、神官・多々良純が太鼓を叩いている間だけ、セックスフリー、夜這い、青姦ヤリ放題というミラクルな風習「暗闇祭り」というのがあって、ふだんは貧乏がゆえに禁欲的な生活を送っている村人たちにとっては待ちに待った瞬間なのである。当然だが甚兵衛は、代官と庄屋に狙われているせんが心配なので火縄銃を携帯させる。そこへ盗人の言いがかりをつけて庄屋が甚兵衛を連行し土蔵に閉じ込めてしまう。しかしこれは代官の荒木が庄屋に命じてやらせたことで、こっそり水車小屋に接近した荒木は川へ転落するが水車にしがみつき、まるで千葉ちゃん(注:千葉真一)のような体当たりアクションで運良く開いていた二階の窓から侵入に成功したのだった。

鉄砲の音に驚いて庄屋の土蔵をブチ破った甚兵衛は途中で馬にまたがった人影を見るが、せんが心配で一目散。水車小屋にはせんの鉄砲にビビって腰を抜かした代官が寝ていた。甚兵衛はてっきりせんが「ヤラレちまった・・」と考え、干してあった赤い陣羽織をゲットし、腹いせに代官の妻を襲おうと代官屋敷へ走った。

健気なのは馬の孫太郎である。せんを背中に乗せて闇夜をギャロップしながらも道端に身を隠していた亭主の甚兵衛を見つけて「ブヒヒン」と鳴いて知らせるのであるが、甚兵衛救出のために庄屋の屋敷に急いでいたせんは気がつかない。人間のほうはことごとくだらしない連中ばかりなのに、えらいぞ!馬!

いくら暗がりとはいえ中村勘三郎と伊藤雄之助を見間違えるなんてありえねえ!シルエット違いすぎ!と思うがそれほど赤い陣羽織は代官のアイデンティティとなっていたので、門番はすぐに甚兵衛を通過させた。しかし賢い奥方の信乃はすぐに正体を見破るのだった。

信乃は甚兵衛を代官に仕立てて、後を追ってきた荒木を不審者として捕縛、甚兵衛は荒木の言いつけでせんを襲う片棒を担いだ用人の戸田・井上昭文に百叩きの刑を命じる。荒木は信乃に赤い陣羽織を没収されてしまうのだった。女遊びばっかしくさるグータラ亭主の再教育のために、父親と一緒にお城勤めをさせることにした信乃は「国境まで」という限定付で荒木に赤い陣羽織を着ることを許してあげるのだった。「子供がいれば不埒な連中も妻に手を出さないだろう」という神官のアドバイスにより、せんと甚兵衛は「子宝の湯」へ出発するのでありました。

金も力も無いが知恵を使って生きている貧乏人たちのほうがよっぽど強くて逞しい。

武家の娘の信乃が荒木に弓道を特訓する場面。作法の順序は合ってるみたいだったけど付け焼刃の香川京子の動きはぎこちなかったなあ。頬付けのところで口割りより下がってた、ていうか離れちゃってたし、あれじゃブレまくりだろう。中村勘三郎のほうがちゃんとしてたなあ・・・歌舞伎役者に時代劇やらせんのは反則だよな、と。

権威をかさに着る権力者の滑稽さが映画の主題。だからこそビジュアル(特に顔面の形状)が決定的に違う二人をあっさりと見間違えるところが強調されて大笑い。そしてなにより、すでに舞台でこの役を演じていたという中村勘三郎の、梨園のプライド捨てまくり、文字通り捨て身の演技が最高の見所だ、大丈夫なのか?梨園的には、ただのスケベでドンくさいオッサンだぞ。説教臭い(だって監督が山本薩夫だから)話をユーモアで包括した中村勘三郎の「おおらかさ」で成立したに等しい映画。

2007年11月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-11-18