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告訴せず


■公開:1975年

■制作: 東宝映画、芸苑社

■製作:市川喜一、森岡道夫

■監督:堀川弘通

■脚本:山田信夫

■原作:松本清張

■撮影:福沢康道

■音楽:佐藤勝

■編集:黒井義民

■美術:薩谷和夫

■録音:坂井長七郎

■照明:平野清久

■特撮:

■主演:青島幸男

■寸評:

ネタバレあります。


法が裁かなくても報いはある。人を呪わば穴二つ。

岡山県で選挙運動中の木谷・渡辺文雄は当落ラインすれすれで苦戦中なので、選挙参謀という名前のヤクザ、光岡・西村晃の提案により実弾戦略を遂行すべく派閥のボス議員に資金援助を求めた。しかし、いんぎんだけどカッコいい秘書・佐原健二を通じてあっさり断られてしまう。しかしめげない光岡はこの「冷たい待遇」を逆手に取り、派閥裏切りを条件に反対派閥のボス議員・小沢栄太郎から金を引き出すことに成功。いんぎんだが声の良い秘書・加藤和夫から裏金三千万円の受け渡しをすることになったが、まさか木谷本人が行くわけにいかないので、木谷の妹で、性格も面相も不細工な春子・悠木千帆(現・樹木希林)の亭主、かつ、食堂経営者の省吾・青島幸男に、この、スリリングなミッションを担当することになる。

しかし省吾は金を持って行方不明になってしまうのだ。

なんでこんなところに出てるんだ?という感のある佐原健二。特撮映画を含めてその生来のベビーフェイス故に悪役はほとんど無い(映画で)と思うが、瞬間出演とは言えこの議員秘書はなかなか嫌みったらしい感じがグー。ただし「慇懃無礼」というポイントでは、新劇俳優とは到底思えないくらいの(し、失礼な)リアル議員秘書顔の加藤和夫の、舌滑と声の良さ(ロイ・シネスが主演した「インベーダー」のナレーション(日本版の吹替)参照)で負けだ。意味無いけど。

省吾はひなびた温泉宿でエロい仲居のお篠・江波杏子に一目惚れ。そしてお篠もまんざらではない感じ。おいおい、こりゃありえねえだろう?目を醒ませよ、な、省吾。そんな時、宿の泊り客が盗難に遭ったらしく、怪しいカバンを持っていた省吾は警察に任意同行を求められる。大金を持っていることがバレた省吾は、正直に出所を証言。しかし表沙汰にはできない金なので、彼の横領は法的な処分を受けないことになる。省吾は神社の宮司・浜村純から、百姓が占いで作付けを決めることを知り、東京へ出て小豆相場に大金をつぎ込む。上京してきたお篠から、木谷と光岡の影に怯えた省吾は、彼女を連れて旅に出る。

西村晃と渡辺文雄と悠木千帆がカットバックで青島を脅迫するビジュアルの説得力は、最高だが絵柄としては大笑い。あいかわらず堀川弘道の演出はわかりやすくてよろしい。

お篠は水商売で稼ぐようになる。元々、そっちのほうがイケてるような気もするが、多情な彼女が心配な省吾であった。先物取引で知り合った商事会社の営業担当はイケメン小柳・村井国夫。あきらかに彼を見るときのお篠の視線がアヤシイので省吾の嫉妬の炎はメラメラと燃え出すのだった。小豆相場で大もうけした省吾は、小柳とブローカーの森山・小松方正の勧めもあってモーテルを開業する。しかしオープン初日、お祝いの花輪に「木谷」の名前があった。モーテルは不審火により全焼、省吾は火傷で入院。お篠は省吾に無断で実印を改印してしまい、省吾は無一文になった。すべてはお篠、小柳、そしてインチキ相場師・加藤嘉らが仕組んだ詐欺だった。巧妙な彼らに踊らされた省吾は彼らを告訴することもできず一人呆然と都会の雑踏を歩いていた。その背後から光岡の乗った高級乗用車が静かに接近してきた。

江波杏子が惚れるという驚天動地の時点で青島幸男のエンディングは決定していたと言ってよい。

甲斐性なしの凡庸な中年男の見る夢は「飲む、打つ、買う」と相場が決まっているわけで、オマケにあまり酒も飲めないとくれば、残りの二つに全力投球だ。一つ一つの伏線が上手いので、最初からオチが読めていても、この、哀れで惨めで人生のツキという幸運のすべてから見放された男の末路には思わず憐憫の情を催すことであろう。人間、コツコツやってりゃなんとかなるものだという教訓ですな。冴えない&モテない野郎の人生に無理は禁物だ。

主人公がストリップ小屋で本職的な踊り子さんの艶技に魅入っていると、客席に光岡を発見してひどく焦るシーン。青島幸男には自分を睨みつけたように感じられたようだが、西村晃の視線はどう見ても踊り子さんのほうに釘付けしてたような気がするのがそれって気のせい?

2007年10月08日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-10-08