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日本以外全部沈没


■公開:2006年

■制作: クロックワークス、トルネード・フィルム

■企画:叶井俊太郎

■監修:実相寺昭雄

■監督:河崎実

■脚本:河崎実

■原作:筒井康隆

■原典:小松左京

■撮影:須賀隆

■音楽:石井雅子

■編集:

■美術:池谷仙克

■録音:星一郎

■照明:岩崎豊

■特撮:佛田洋

■主演:じゃあ、藤岡弘、

■寸評:

ネタバレあります。


パロディはやったもん勝ち、早いもん勝ちである。河崎実のやることははじめから決まっているのでその点では安心度100パーセントの映画である。

映画版「日本沈没」(1973年、東宝)は筆者の映画好き魂を開花させた記念碑的作品なのでいかなるリメイクも許さない。ましてをや2006年版など絶対に見てやらん、だって邦枝さん出てこないんだもん、理由はそれだけ。本作品はその無茶な感じが突き抜けているところに好感が持てる。はじめから勝負しようとしていないところがいい。

ところで筒井康隆の原作の映画で、作者本人が出てくるとなぜかものすごく損したような気分になるんだけど、なぜだろう?出てきただけで観客に幸福感(達成感と言ったほうがよい)を与えた丹波先生の対極にいるのがある意味で筒井なのかも。

地球温暖化は地下のマグマの膨張を誘発し、大規模な地殻変動の挙句にアメリカ大陸がそっくり沈没してしまう。主人公「俺」・小橋賢児と新聞記者の古賀・柏原収史が行きつけのバーで飲んでいると、某有名米国人歌手がたどたどしい日本語で熱唱中であった。そうアメリカ人は史上二度目の難民生活を強いられているわけである。もしこれがフランスだったら沈没寸前に脱出した大統領の首の一つも切り落としたに違いないが、彼もまた他国の首脳たちといっしょに飲んだくれている。そこへ安泉首相(たぶん小泉と安倍の合体だ)・村野武範が現れると元中国国家主席と元韓国大統領がたいこもちのようにヘラヘラしだす。

このシーンの貧乏くささが凄い。なるほど人間増えすぎて資源が枯渇してしまったのでこんなにダサいセットとそのダサさをごまかすための照明なのだなあ、説得力満点だ。

そう、地球はほんの数年の間に日本列島を残してすべての陸地が沈没してしまっていたのである。ものすごい数の人々が死んだのだろうが同時に生き残った人々はいっせいに日本を目指した。前人未到の大量難民受け入れに際し、特に軍事大国アメリカに対して、タカ派の石山(たぶん石破、だ)防衛庁長官・藤岡弘、は日本国内の米軍用地の全面返還と武器弾薬の無条件差し押さえを抜け目なく提言。かくして日本の首相は、圧倒的に世界征服達成したのである。

人類史上初の世界征服の達成者が村野武範というB級度合いが突き抜けている。いやあ、なかなか勇気要りますぜ。

日本までたどり着けたのは先進諸国の、主として白人たちなのだが所詮は難民であるから徹底的に差別を受けまくる。当然のことながら外貨は大暴落、金満外人たちはとたんに赤貧生活を強いられる。オスカー俳優は徹底的にコケにされ、生活苦から自暴自棄になり万引きをして逮捕される。ただでさえ狭い国土にキャパシティをはるかに超越する外国人を受け入れているのだからちょっとでも問題を起こすとGAT(外人アタックチーム)により国外退去、つまり外洋へ放り出されてしまうのだ。そりゃ死ぬわ、俊寛でも無理、流す先の島ないし。いや、実は高山地帯にはかすかに残っているらしいがそこは野蛮人の棲家になっているそうだ。ジャーナリストの視点で常識を保っていたかに見えた「俺」は徐々に外人を差別することに鈍感になっていき、母国と日本の板ばさみになった「俺」のアメリカ人妻は落ちぶれたオスカー俳優のもとへ走り国外退去させられてしまう。

日本沈没といえば田所博士・寺田農である。原典(小松左京のほう)では国を憂う孤独な老人だったがパロディ版では、食い物ほしさに群がってくるイケメンの白人男性に女房を寝取られた腹いせに白人の美女をはべらかすとんでもない非人格者なのである。

ここはイマイチだ。寺田農が人格破綻しててもあまり意外ではない。小林桂樹に打診はしたのか?するわけないか。

異常も日々続くと日常になる。差別もしかり。最初は変だと思っていても馴れてしまえば変じゃなくなる。このあたりがかなり怖いのであるが、価値観が一気にひっくり返った時にその波に乗れる人間と落ちこぼれる人間がいて、そういうちょっとした風向きで人間はいくらでも不幸になるのである。

そんなこんなで今までは色物扱い、B級の謗りを受けてきた在日外タレ・デーブ・スペクターが最強のバイリンガルとして天下を取ってしまい難民向けの日本語学校でぼろ儲けするのである。人間一寸先は闇である。教訓である。肝に銘じよう。

日本の首相に媚を売るために靖国神社をほめまくる中国人、北方領土はずーっと日本領土だったと歴史をひん曲げるロシア人、そんな変節漢だらけの海外の要人を尻目に、一人、世界制服を企む北朝鮮の将軍様・ジーコ内山であったが、国粋主義者の防衛庁長官の自爆テロがその野望をちょっとだけ阻む。しかし、こうした活動のほとんどすべてが文字通り水泡に帰してしまうのである。

もはや世界平和は、大災害か妖星ゴラス接近かミステリアン来襲でもなければ成しえないということだ。

火薬馬鹿、中野昭慶の特撮に敬意を表したのか?なんで地震なのにビルが爆破されるんだよ!とか思うわけだがさすが特撮研究所様の手にかかると本編には特に関係がないかもしれない特撮ドラマのシーンがやたらと力が入っていてそれなりの完成度なのが笑えてしまう。伝家の宝刀「電エース」ここで出したか、河崎実。

村野武範と藤岡弘、という小野寺役者を二人取り揃えてみた、のだがそれだけ。意外な拾い物、というのは失礼だが70年代から80年代にかけて東映東京撮影所では主に浜田晃とともに(たいていボスは名和宏)暴力シーンを一手に引き受けた感のある中田博久がロマンスグレーを経てキレイな白髪になりソフトなオジサマになっていたこと。ああいうカッコいい大人の俳優は貴重なのでここで一気にブレイクしていただきたいところだ。元々、二枚目だしな。

2007年09月30日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-10-08